薬価改定によって何が起こるのか?
調剤医薬品と一般用医薬品の販売推移から見る
来年度の予算編成を巡って、診療報酬改定についての報道も盛んになっている。その中で、医療費を抑制するための「薬価改定」も盛んに議論されているようだ。そこで、医療保険の調剤点数の推移を確認するとともに、ドラッグストアにおける薬の販売動向について確認してみたい。
薬価改定に伴う調剤点数の影響は
医療保険から支払われる調剤医薬品の支払いの算定基礎となる「調剤点数」の推移を、平成22年基準の指数とし、季節変動パターンを除去したもので確認してみる。
平成22年第1四半期から始まる指数グラフは、やはり右肩上がりの推移となっていた。しかし、グラフを仔細にみると、24年、26年、そして28年の各第2四半期に指数が低下していることが分かる。診療報酬の一部である薬価も2年ごとの薬価改定で見直されるが、その薬価改定によって右肩上がりのスロープに「くぼみ」が作られている。なお、26年改定時には前期比マイナス0.8%と目立たない低下となっているが、これは消費税率引上げ分を踏まえた改定内容が影響し、低下を緩和したようだ。
この薬価改定ごとの点数下落の中で、最も大きな低下をみせたのが28年第2四半期の前期比マイナス10.2%の低下だった。通年のパターンだと、薬価改定時の低下の翌期には、水準が回復していたが、28年の第2四半期低下の後は今なお水準復帰をしておらず、薬価改定の影響が長期間持続していることが確認できる。
「セルフメディケーション」が伸びている
さて、私たちが、処方薬(調剤医薬品)ではなく、市販薬を買うというと、街なかにある便利なドラッグストアが思い浮かぶが、調剤薬局業務に進出しているドラッグストアもかなり多くなっており、調剤・市販いずれの医薬品も購入はドラッグストアという方も多いと思う。
そこで、ドラッグストアの調剤医薬品とOTC医薬品(一般用医薬品)の販売額をみてみると、平成28年で、調剤医薬品が3752億円、OTC医薬品が8296億円となっている。ドラッグストアにおける医薬品販売額は、全体の販売額の2割を占めており、その医薬品の中では、調剤:OTC=1:2の比率になっている。
では、この販売額の推移を、平成26年=100とした指数値(試算)でみてみよう。
ドラッグストアの調剤医薬品販売も、やはり28年第2四半期に大きく低下し、そこからあまり回復していない。一方、OTC医薬品は緩やかな上昇を維持し、29年第2四半期の指数値は112.3となっており、ここ3年ほどの期間で、販売額水準は1割以上上昇していることになる。
29年1月からは、一定の条件を満たせば税金が還付・減額される「セルフメディケーション税制」が始まった。これにより、ちょっとした身体の不調の場合などは医療機関へは行かず、OTC医薬品を利用する機会がますます増えていくのかもしれない。
また、30年度は、診療報酬改定の年であり、薬価について更なる引き下げも検討されていると報道されている。今年の第2四半期の調剤医薬品販売は、再び大きな低下をみせるのかもしれない。
医療業活動指数も過去にない大きな低下
第3次産業活動指数では、診療報酬支払確定状況のうち「一般診療」と「歯科診療」の点数を使って医療業活動指数を作成している。
この医療業活動指数の動きを四半期別にみると、平成22年から現在まで、長期的に一本調子の「右肩上がり」で推移している。ただ、この期間中、24年と28年の第2四半期の2度だけ低下している。特に、28年の第2四半期は前期比マイナス1.4%と、大きな低下をみせた。
医療業活動指数を構成する一般診療(入院、入院外)と歯科診療の点数の寄与度推移をみると、医療業全体が低下した2度のタイミングで、一般診療、特に「入院外」の点数が大きく低下に寄与し、とりわけ28年第2四半期の低下寄与は、他の時期と比べて、とても大きなものであったことが分かる。
こうしてみると、28年の診療報酬改定は、調剤医薬品の面でも、一般診療の面でも、その動きに過去最高レベルの大きな影響を及ぼすものだったことが分かる。
生活必需的なサービス産業を集計している「非選択的個人向けサービス」の指数も、同時期に顕著な低下を示しており、診療報酬改定、薬価改定は、個人向けサービスビジネス全体の推移にも大きな影響を及ぼしている。となれば、次の薬価改定等の結果を、経済動向という観点からも注視する必要がありそうだ。
関連情報
右肩上がりの動きを中断させた平成28年第2四半期の調剤点数の推移;薬価改定と調剤医薬品販売額の動き