事業再生と原発廃炉 二つの難題に挑む
インフラ復旧の裏で難しい課題も
2万人を超える犠牲者を出した東日本大震災から、まもなく10年を迎える。道路や鉄道など被災地のインフラ復興は着実に進展しつつあるものの、東京電力福島第一原子力発電所の事故で大きな被害を受けた福島の復興は緒についたばかり。30年から40年もの歳月を要するとされる廃炉へ向けた道のりはなお険しい。地域の実情や廃炉作業の進捗(しんちょく)、ふるさとに寄せる人々の思いなど福島の「いま」を通じて今後の課題、地域の未来を考える。
10年ぶりの「収穫」
原発事故で町の全域に避難指示が出された福島県浪江町。沿岸部では指示が解除されているものの、今もなお原子力災害からの復興途上にあるこの町で、2020年12月、10年ぶりに収穫されたコメの販売会が行われた。その名も「浪江復興米」。地元だけでなく、町と連携して農業再生に取り組む東京農業大学の学生などを通じて首都圏でもPRされ、福島の着実な復興をまたひとつ印象づけた。コメづくりに携わった農業生産法人「福島舞台ファーム」は「引き続き福島県沿岸部の営農再開に努力していきたい」と意欲を示す。
震災の津波に襲われた沿岸部、南相馬市に目を転じれば、先進的な事業に取り組む企業の進出が相次ぐエリアがある。国と福島県が整備した「福島ロボットテストフィールド」。東京ディズニーランドに匹敵する広大な敷地に、ドローンの飛行試験場やトンネルや橋、市街地といった災害現場を再現した施設が立ち並ぶ、陸海空にわたるロボット研究開発の一大実証拠点である。ここで日々繰り広げられる実証事業からは新たな産業創出の息吹が確かに感じられる。
福島県内では2018年4月、避難指示が解除されたすべての市町村で学校が再開。2020年3月にはJR常磐線が9年ぶりに全線で運転再開し、首都圏と東北を結ぶ大動脈が復活した。人の往来を見越して、商業施設やスポーツ施設など地域コミュニティーの中核となる施設整備も進展し、ふるさとに帰還しての事業再開や新たな販路、顧客の開拓に再び奮闘する人々の姿もみられるようになった。
なお残る難しい課題
地域の復興が着実に進む一方で、課題も残されている。立ち入りが制限されている帰還困難区域は7市町村で、このうち6町村では住民が再び住めるようにするための「特定復興再生拠点区域」が認定され、整備が進められている。十分な帰還環境を整えるために、地元自治体の意向を踏まえて家屋などの解体や除染、インフラ整備などが行われることが必要だ。
こうした地域の課題となっているのが福島第一原発の廃炉の進捗である。毎日およそ4000人がリスクを低減する作業と日々格闘するが、廃炉の行方を左右する原子炉内で溶け落ちた核燃料の取り出し作業は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって2021年内の開始予定から1年程度遅れる見込みとなった。事故を原因として日々発生する放射性物質を含む汚染水への対策も急がれる。
「車の両輪」として
廃炉と福島復興ー。ふたつの大きな課題にどう取り組むのか。梶山弘志経済産業大臣は2021年頭所感でこう述べた。
「ALPS(多核種除去設備)処理水の取り扱いも含め、安全確保最優先・リスク低減重視の姿勢を堅持しつつ、地域・社会とのコミュニケーションを一層強化しながら廃炉の取り組みを進める」。同時に「車の両輪」として「事業やなりわいの再建、福島イノベーション・コースト構想を推進する」。
震災から10年。それはひとつの節目に過ぎない。私たちは真の復興へ向けた長い道のりの、どこに立つのか。次回記事では、さまざまなデータをひもときながら、福島の「いま」を直視する。