【東京青年会議所・波多野理事長インタビュー】
若手ビジネスパーソンからみたダイバーシティの現実とは
次代を担うリーダーは、昨今のダイバーシティ事情や、そのあるべき姿をどう捉えているのか-。若手経済人によって組織される青年会議所のひとつ、東京青年会議所(東京JC)理事長の波多野麻美さんが考える「真に多様性ある社会」の姿とは。
異質であることが気づきに
-日本でもダイバーシティという言葉がずいぶん聞かれるようになりました。現状をどうみていますか。
「性別や国籍、年齢といった表層的なダイバーシティにとどまらず、異なる価値観を認め、ともに働き、成果を発揮することがこれからのリーダーに求められる資質と考えます。東京JCの活動方針のひとつとして『異なる多様な個性を組織の強みに変えるダイバーシティマネジメントの推進』を掲げた背景には、そんな思いがあります」
-ダイバーシティをどう解釈するかは人それぞれです。波多野さんの場合は。
「三つの価値を見いだしています。ひとつは個性に自信と誇りを持って生きることができる社会であること。もうひとつは、異質であることを宝と捉え、育む社会。さらに多様な個性が組織の強さとなる社会-。『空気を読む』といった言葉が象徴するように、日本には調和を重んじる傾向がありますが、異質であるところに『気づき』があったり、当たり前とされてきたことに疑問の余地が生じるところから、物事が動きだすことってありますよね。十人十色を組織や社会の『強さ』につなげていきたいですね」
-確かに「空気を読む」という言葉は調和を重んじる日本の姿を象徴していますよね。
「調和を重んじる日本人の精神性や『和の心』は、日本人としてこれからも大切に受け継いでいきたいと考えています。一方でコミュニケーションや新たな価値を生み出すプロセスにおいては多様性を生かし、それを伸ばしていく思考を身につける必要性も痛感しています」
米国でのインターンシップが原点
-波多野さんにとって「多様性」を考えるきっかけは何でしたか。その原点は?
「米国・シアトルに留学時代のインターンシップ(就業体験)です。それまでの私は会社やリーダーが定めたルールに従うことは当然と思っていました。ところがインターンシップ先の企業では、ひとつのルールでは社員を縛れない様子を目の当たりにしました。宗教や信条、文化的な背景を理由に、『できない理由』を各人が明確に自己主張します。リーダーは耳を傾けたうえで、組織としての目標達成へそれぞれ異なるコミットメントを与えていました」
-率直に言ってどういう風に感じましたか。
「何てまとまりのない組織なんだろうと。あと、リーダーは大変そうだなあとも。でも、つぶさに観察してみると、ルールが全く存在していないわけではないんです。一人一人に合わせてルールが『カスタマイズ』されている。しかも組織としてのベクトルは共有されており、その中でそれぞれが与えられた仕事に醍醐味(だいごみ)や達成感を得ている。そのことを知るにつれ、『異質な人が集まると、こんなに大きな力になるんだ』というカルチャーショックを受けました」
ダイバーシティは戦略として生かすべき
-こうした体験はその後、生かされたそうですね。
「はい。ひとつは国際青年会議所(JCI)時代にアジア太平洋開発協議会(APDC)の議長を務めた時です。私なりに、ダイバーシティを戦略として生かすよう努めました。当時は、アジア太平洋14カ国の国家青年会議所(NOM)から58人のメンバーが出向していたのですが、文化や宗教、習慣など何もかも異なるメンバーとの活動は正直、困難にも直面しました。あの人とはうまくやれないとか、あのボスはおかしいとか(笑)。それぞれの主張に耳を傾けながらもコミットするべきことを明確にして、調整を重ね、成果を作るためにモチベーションを確立することに苦労しました。でも、私が議長をさせて頂いた2015~2016年の間にAPDCの活動は大きく前進できたのです。」
-そんな困難の中からミャンマーでのJC設立にこぎ着けたそうですね。
「そうです。多様な個性が集まったチームプレーが功を奏し、JCIミャンマーが設立、2015年にJCI仮加盟を果たしました。開発対象国であったブータンの活動でも新しいプロジェクトが立ち上がり、現在もそのプロジェクトは継続されています。若干停滞していた東ティモールでは、私の下でカウンシラーをしてくれたJCIフィリピンのメンバーがトレーニングによりメンバーの拡大に成功するという大きな成果を生み出し、東ティモールはその翌年度に無事にJCI仮加盟を果たしました。それぞれのメンバーの強みを生かそうと意識的に取り組んだことで想像していた以上の成果を上げることができたのです。もちろん、これはそれまでにかかわったメンバーの尽力があっての成果ですが、私にとっても大きな財産です。ダイバーシティは戦略として生かしていくべき手法だと肌で感じた出来事の一つでもありました」
ミレニアル世代の意識は違う
-できるだけ若いうちに、波多野さんのような経験をする人が増えると、日本も変わっていくように感じます。
「ひとつポジティブな流れになっていると感じるのはミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭生まれ)の意識変化です。青年会議所は25才から40才までの若手経済人によって組織されていますが、30代後半以降の世代と20代ではダイバーシティに対する意識が明らかに異なります。20代は女性リーダーのもとで働くことへの抵抗感が薄かったり、マイノリティーに対する受け止めも好意的だと感じます。教育や社会環境などさまざまな背景があるのでしょうが、たった10年ほどの世代の差でもダイバーシティに対する意識は違う。そんな柔軟な意識を持つ若手世代とも積極的に交流しながら、これからも私なりのダイバーシティを模索していきたいと考えています」
【略歴】
波多野麻美(はたの・まみ)。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科修士課程修了。発電設備事業を手がけるハタノシステム(東京都目黒区)は祖父が創業。現在、取締役を務める。2016年東京青年会議所副理事長を経て現職