生分解性プラスチック開発 オールジャパンで推進を
東京大学岩田忠久教授インタビュー【後編】
使用中は分解されず、不要となった時に初めて生分解が始まるー。そんな夢のプラスチックをはじめとする研究開発に取り組む東京大学の岩田忠久教授。インタビュー後編では、プラスチックに対する社会ニーズに応えるため、オールジャパンで開発に取り組む意義を語る。
まずは種類を増やす
ー生分解性プラスチックをめぐる課題や今後のカギとなる基礎研究についてどうお考えですか。
「まずは生分解性プラスチックの種類を増やすことです。現在、開発されている生分解性プラスチックは、ポリ乳酸や微生物産生ポリエステル、化学修飾デンプンがほとんどで、世界のプラスチック生産量が4億トンに迫るなか、これらすべてを合わせても100万トンにも満たないのが現状です。結晶性高分子、あるいは非晶性高分子のいずれかにかかわらず、多種多様な生分解性プラスチックの開発が必要不可欠です。さらに、バイオマスを出発原料とし、かつ生分解性も有する生分解性バイオマスプラスチックの開発が望まれます。しかし、バイオマスプラスチックの生産は今のところ多額のコストを要します。企業の開発や実用化に期待するだけでなく、オールジャパンで取り組む姿勢が大切と考えます。省庁の壁、企業の壁、アカデミアの壁、協会の壁を乗り越えて、知見が共有されることを期待します」
特徴を分かりやすく発信せよ
ー 一般消費者に分かりやすい情報発信もカギとなりますね。そもそも生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの違いは十分に理解されているとは言い難い。
「生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックは環境に優しいプラスチックとして、ひとくくりにされがちですが、決して同じではなく、生分解性という『機能』に着目するか、あるいは石油からバイオマスへの原料転換に着目しているかによって本来は全く異なるコンセプトのプラスチックです。特にバイオマスプラスチックは植物由来であることをアピールされることが多いため、すべてが環境中で分解されるような印象を与えがちですが、まずはそうではないことを理解してもらう必要があります」
-例えばはどんな取り組みが期待されますか。
「違いを容易に理解できる識別表示制度などの環境整備が、新たな素材を社会に普及させるカギと考えています。生分解性プラスチックであることを示す『グリーンプラマーク』、バイオマスプラスチックであることを示す『バイオプラマーク』の普及が望まれます。そのためには教育、啓蒙活動が重要になります」
ーさまざまな課題が克服されれば社会にどのようなインパクトを及ぼすのでしょうか。
「もはやプラスチックが存在しない世界は想像できませんし、現実的に無理だと思います。したがって、プラスチックと人類および地球環境は共存していかなければなりません。まずは、プラスチックは可能な限り回収し、リサイクルすることが必要です」
「しかし、環境中へ放出される可能性の高いものには生分解性という機能を、あるいは焼却されてしまうものにはバイオマスという素材を、適材適所で用いる発想が必要不可欠です。リサイクルと生分解性プラスチックの双方を推進することで、美しい地球環境を将来にわたり残すことが可能になるでしょう。さらに、再生可能な植物バイオマスから高性能なバイオマスプラスチックを生産することができれば、持続可能な未来が実現できるでしょう」
※ このインタビューは5月上旬に書面を通じて行いました。