政策特集循環経済が社会を変える vol.7

「植物のようなコンクリート」普及に挑む

カーボンリサイクルロードマップも追い風に


 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を「厄介者」ではなく、資源として捉える逆転の発想で、気候変動問題に挑むカーボンリサイクル。技術開発と普及へ向け、経済産業省が示した技術ロードマップがビジネスの弾みになると期待を寄せる技術者たちがいる。

作れば作るほどCO2を削減

 中国電力、鹿島、デンカが共同開発した環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」。セメントの製造過程で多くのCO2を排出するコンクリートだが、同製品は、作れば作るほどCO2を削減できるいわば「植物のようなコンクリート」である。工場などから排出・回収されたCO2を、製品製造や製品そのものに活用することで、既存の工程や既存製品に比べ高いCO2削減効果が見込まれる。
 仕組みはこうだ。水やセメント、骨材といった一般的な材料のほか、石炭灰やCO2と反応してコンクリートを硬化させる特殊な混和材を使用する。これにより、セメント使用量を大幅に削減するとともに、コンクリート製造時に排出されるCO2を吸収・固定する。混和材を開発したデンカによると、「CO2と接触すると、化学反応からこれを吸収・固定化し、コンクリートを硬化・緊密化させる性質を持っている」(森泰一郎グループリーダー)。混和材を用いたコンクリートにCO2を含む排ガスを接触させ強制的に吸収・反応させて養生する。
 

立ちはだかるコストの壁

 開発から8年あまり。カーボンリサイクルを体現する製品として注目を集める一方で、普及にはコストが壁となって立ちはだかるのが実情だ。用途のひとつとして見込まれる舗装に用いるインターロッキングブロックの場合、従来製品価格に比べ、3倍から5倍程度の価格になってしまう。
 市場競争力を見いだせる分野はどこにあるのかー。中国電力などの3社に、プレキャストコンクリートメーカーであるランデスを加えた4社がこれまで取り組んできたのは、製造コストのさらなる削減と競争優位性を発揮できる用途開発。そのひとつが、コンクリート構造物を構築する際に使用する埋め込み型枠である。鹿島の取違剛土木材料グループ主任研究員によると、通常の安価な木製型枠と比較しても、取り外す必要がない分、工期短縮につながりコストダウンが見込まれるという。砂防ダム工事などでの採用を見込み、ガラス繊維混入タイプを開発した。

SUICOMを採用した埋設型枠。脱型不要で工期短縮にもつながる


 CO2の供給体制も課題だ。電力やガスといったエネルギー多消費産業は拠点の多くは沿岸部に立地するが、コンクリート製品の加工拠点は内陸部に構えることが多い。CO2を液化させてボンベで輸送するとさらに製造コストが上昇してしまう。CO2発生源の隣接地で「SUICOM」を製造することが理想だが、新たな設備投資を伴い、しかも排ガスに含まれるCO2を安定してコンクリートに固定するには「ボイラーを継続的に稼働する必要がある」(ランデスの藤木昭宏執行役員)など、運用面での工夫も必要となる。

戦略を語り合う手前からデンカ・森氏、中国電力・河内氏、鹿島・取違氏、ランデス・藤木氏

課題や目標を明確化

 こうしたカーボンリサイクルをめぐるさまざまな技術課題や普及策を克服するため、経済産業省が策定した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」。CO2を利用可能なエネルギーや製品ごとにコストを低減するための課題や目標を明確化したのが特徴だ。2030年頃までを「フェーズ1」としてカーボンリサイクルにつながる技術開発を進め、2030年頃からの「フェーズ2」では普及する技術の低コスト化および需要の多い汎用化学品の製造開発に重点的に取り組み、ポリカーボネートやコンクリート製品などについて既存製品と同等のコストまで引き下げることを目指すとしている。
 カーボンリサイクルに対する各社の取り組みが今後さらに加速することへの期待感から、「SUICOM」に携わってきた中国電力の河内友一電源事業本部再生可能エネルギー・土木総括グループ担当副長は、「ようやく将来展望を見いだしつつある」と語る。
 その中国電力は、Jパワーとの間で、次世代石炭火力発電所から回収したCO2を有効利用するカーボンリサイクルの検討に着手したことをこの6月に明らかにした。回収したCO2を液化・輸送し、Jパワーがカゴメと共同運営するトマト農園や微細藻類からバイオ燃料を生産する研究に活用するほか、「SUICOM」への利用可能性を検討することとしている。
 実は炭酸化と呼ばれる化学反応は、およそ5000年前の構造物にみられるという。中国・西安市郊外にある大地湾遺跡から発見されたコンクリートは、セメントの代わりに石灰や火山灰が用いられており、それが長きにわたり自然界のCO2と炭酸化反応を続けた結果、水などの浸食を防ぎ、耐久性を実現したとみられている。
 時を超えて在りし日の姿を伝えてきたその原理が、いま最新のテクノロジーと相まって再び持続可能な未来を切り拓こうとしている。