地域で輝く企業

沖縄発の関節装具が開く可能性の扉

スポーツシーンでも存在感 佐喜眞義肢

ロングセラー商品として知られる「CBブレース」


 沖縄に本社を置く、装具メーカーの佐喜眞(さきま)義肢。膝の関節症などに対して使われる装具「CBブレース」は、たゆまぬ開発と改良を重ね20年以上にわたるロングセラー商品として知られる。近年はスポーツ産業による地域振興でも、存在感を発揮している。

装着すると「生活が変わる」

 佐喜眞義肢は1980年、佐喜眞義肢製作所として佐喜眞保社長が創業した。現在は脚や腕の関節用装具や義肢などのメーカーとして、国内外に製品を展開。「CBブレース」は看板商品のひとつである。「着けると生活が変わる」と開発した佐喜眞社長は胸を張る。
 同商品は、変形性関節症や靱帯(じんたい)損傷といった症状を患った膝や肘に装着して使用するもので、関節を適切な方向に圧迫して支持・矯正することで、患部の痛みを軽減したり脚や腕の動きを補正したりする。
 製品を特徴づけるのが、名称にも冠される「CB=センター・ブリッジ」と呼ぶ独自機構だ。膝の内外を上下に走る主要部品であるフレームを、CBが“ブリッジ(橋)”をかけるように円弧を描いて結合する。開発のきっかけとなったスウェーデン式装具と異なり、膝の裏に接触しないことからそのまま正座できるなど、日本の生活様式になじむのが特徴だ。
 症状や着用部位によって種類は多数。健康保険の適用対象となるため、製品は医師の処方に応じて、患者ごとに調整し出荷する。全国各地にユーザーを抱え、月300個ほどを販売。2005年には「ものづくり日本大賞」で経済産業大臣賞に輝いた。
 

シンプルさの中に工夫が

 一見するとシンプルに見える機構だが、随所に工夫が施されている。例えば膝から離れるに従って柔軟性が増す。これは「通常の装具とは逆の構造」と佐喜眞社長は説明する。
 一般的には膝の上下を金属などで固定して装具全体に剛性を持たせるが、「CBブレース」ではCBが全体の剛性を保つためフレームを軽くできる。加えて、膝上下の固定部も柔らかい素材にできる。このため、膝をかばって歩いてしまうことで、筋力低下を招くことがなくなることに加え、金属で筋肉をしばらないため、脚のリハビリにもつながる利点があるという。
 CBブレースは、原形ができてから30年ほどが経過する。1999年に特許登録してからも20年間が過ぎたが、たゆまぬ改良を重ねている。
 例えば、素材改良。開発当初のフレーム素材は軽合金やステンレスだったが、最新製品ではより軽量化を実現できる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に進化した。
 これによって、サイズによっても異なるが、フレームだけで約79グラム、全体でも約150グラムまで軽くなった。佐喜眞社長は「(競合品の)3分の1から半分くらいの重量」と胸を張る。耐久性も求められるだけに、CFRP研究だけでもおよそ10年の月日を費やした。

佐喜眞保(さきま・たもつ)社長

観光、スポーツ関連産業の振興にも一役

 社内の一画には、天井に複数のカメラを備えたエリアがあり、モーションキャプチャーで動作を解析して開発に生かす。すぐ隣には工房があり、開発から製造まで一貫した体制を構築している。
 開発面では、慶応義塾大学スポーツ医学総合センターなどとも連携。トップアスリートの知見も借りながらスポーツ分野での利用を見据えた研究にも力を入れている。
 医療分野の装具として利用が広がった「CBブレース」だが、地域の課題解決でも存在感を強める。特にスポーツシーンでの採用は、同社のユーザー層の拡大だけでなく、沖縄の観光や健康スポーツ関連産業の振興でも役割を担う期待がある。
 年間の観光客数が1000万人に達しつつある沖縄。もとよりマリンスポーツは人気だが、バスケットボールやサッカーなどプロチームの躍進、スポーツキャンプの盛り上がりなどが、沖縄観光の多様化や底上げに拍車をかけている。
 こうした中、スポーツ関連ビジネスを観光分野などと連携することで創出しようと、産学官による「沖縄スポーツ・ヘルスケア産業クラスター推進協議会」が活動している。佐喜眞義肢もモノづくり分野の中核企業として参画。すそ野の広いスポーツ分野での活用に対し、積極的にアプローチしている。
 2014年に移転した本社は、沖縄県金武町が住民の健康増進を目指して開発したエリアに立地する。米軍の訓練場の返還地で、地区内には2つのクリニック、児童向けリハビリセンターがある。スポーツドクターが在籍するリハビリクリニックとは連携体制を取るほか、エリア内にはプロの野球・サッカーチームが春季キャンプを行うスポーツ施設がある。
 こうした地の利も生かし、スポーツに照準を定めた製品開発にも力を注ぐ。バンド部分にスポーツ用下着に用いられている素材を採用する試みはそのひとつだ。
 さらに、2018年度は政府によるヘルスケアツーリズムの実証事業に参加。「CBブレース」を装着することで痛みを気にせず、ゴルフやレジャーを楽しめる点を前面に打ち出し、新たな観光客の誘致につなげる狙いだ。
 同社製品は、保険が適用されないにも関わらず台湾で人気が高まっているなど、地理的に近いアジアの観光客へのアピール力も期待できる。「スポーツや旅行、レジャーなど、さまざまな場面で利用してもらうのが夢」と語る佐喜眞社長。地道な開発姿勢が可能性の扉を大きく広げつつある。

【企業概要】
▽所在地=沖縄県金武町金武10914▽社長=佐喜眞保氏▽設立=2003年▽売上高=1億3300万円(2018年4月期)

コンシェルジュの目

【内閣府沖縄総合事務局経済産業部 大城 敦史氏】

 佐喜眞義肢は、「産業クラスター計画」時代から長年当局とお付き合いいただき、産学連携、異業種交流、技術開発補助などを通じ、地域経済の活性化や課題解決に取り組んでこられました。最近は沖縄成長産業戦略の重点分野である「スポーツ産業」とも連携し、従来の福祉装具メーカーから、スポーツ選手のリハビリ、高齢者が行う運動のケガ予防の補助器具メーカーとして新たな付加価値創出に取り組まれています。また、地域の経済を牽引するスポーツ×ものづくりを基軸としたツーリズムによる面的なプログラムづくりでも主導的役割を発揮しています。我々「地域未来コンシェルジュ」は、こうした地域経済の未来を担う企業の取組を後押しするため、自治体とも情報を共有しながら地域未来投資促進法や沖縄振興法等の活用など継続的な伴走支援に努めてまいります。(談)