政策特集知財で未来を切り拓こう vol.7

日本の未来は「子ども発明家」の手に

創造力や発想力どう育む


 国の競争力の源泉であるイノベーション。熾烈(しれつ)なイノベーション創出競争が繰り広げられる世界を前に、政府は次代を担う子どもたちに対する知財創造教育に力を入れている。実際、大人顔負けの発想力を持つ「子ども発明家」は少なくないが、より多くの子どもたちにものづくりの楽しさを伝え、自由な発想をいかに育むか-。それは、技術立国・日本の未来を左右する大きなテーマである。

日常の中にヒントあり

 東京都の近藤菫さん(12)が子ども発明家の仲間入りをしたのは2017年。口が開いた状態でビニール袋を取り出せる装置「clean&easy(クリーン&イージー)」が実用新案登録された。母親がスーパーで食品包装用のビニール袋の口を開けるのに苦労する姿から思い浮かんだという。
 ビニール袋を滑り止めの付いた板に当てながら引っ張ると、袋の口が開く仕組みだが、さらに滑り止めの位置を上げると、より効果的に開口することができる。この装置を使うと店舗に備え付けられた手ふきなどで指先を濡らすことなく清潔に使用できる。

数々の賞を受賞した「clean&easy」


 それから1年半あまり。中学生になった菫さんが再び、ユニークなアイデアを実現化した。内部の様子を投入口からも側面からも見えなくするメールボックス。「旅行中などに新聞や郵便物がたまっていることで、留守宅だと分かってしまうのは防犯上、良くないと思った」ことが発案のきっかけだ。
 こうした日常の思いつきやアイデアを、発明に結びつける上で欠かせないのが周囲の後押しだ。父・正行さんは、休みとなれば「科学館や筑波宇宙センター(JAXA)に行きたい」とねだる娘にとことん付き合い、作品づくりに欠かせない木材の裁断やクギ打ちを手伝った。母・桜さんは「地層に興味を持っていた時期には洋服のポケットは石ころだらけだった」と笑う。
 将来は「人の役に立つ仕事がしたい」との夢を持つ菫さんが、小学5年生の時から所属するのが町田市少年少女発明クラブ。指導員の星野博司さんは、中学生になった菫さんについて「理科の授業などでより高度な知識を学んでいくことで、身近な困りごとを解決するアイデアから、社会全体の課題を解決するような発明へとステージアップしていく重要な時期」と温かく見守る。時には自身の経験を基に、技術的に厳しい指導もするが「これを作りなさいという提案はしない」(星野さん)。あくまで子どもたちの自発的なアイディアを尊重する姿勢だ。

ユニークなアイデアを生み出す近藤菫さんと町田市少年少女発明クラブの指導員・星野博司さん

町田市少年少女発明クラブの快挙

 「少年少女発明クラブ」は、発明協会の事業として1974年にスタート。現在では全国210カ所で約9900人の子どもたちが活動する。活動の趣旨に賛同した企業や自治体、個人などが運営し、企業の技術者やOBも含めた教員らが子どもたちを指導する。このうち町田市少年少女発明クラブはは2005年の発足と歴史そのものは浅いが、ここ数年、全国レベルのコンテストへ入選者を数多く輩出するなどめざましい成果を上げている。一方で、そんな目下、勢いのある同クラブでさえも、指導員や場所の確保など厳しい制約条件の中での運営に腐心しているのも事実である。康井義明会長(東海大学名誉教授)は「発明クラブは指導員やサポーターなどのボランティアの情熱に支えられている。地元企業などにも一層の協力を頂き、次代を担う子どもたちをもり立てていきたい」と話す。

「創造性」を後押し

 「新しい創造をすること」と「創造されたものを尊重すること」を、楽しみながら理解し育むことで、社会を豊かにする-。政府が目指す知財創造教育ではこう掲げる。図画工作の授業で、自分の思いや考えを絵に表し、互いの良さや個性を尊重し合う。あるいは技術・家庭科の授業で、従来とは構造が違う本棚を考案するといった具体例を挙げている。2017年3月に改訂された学習指導要領でも、すべての教科などに共通して「創造性」を重視。例えば中学校の技術・家庭では、「知的財産を創造、保護および活用しようとする態度を養うことを目指す」と明記されている。
 「インスタントラーメン発明のヒントは」「消せるボールペンは何によって文字が消えるの」。特許庁が2018年にオープンした子ども向けサイト「とっきょちょうキッズページ」では、身近な発明品が生まれた背景やテレビCMなどで聞き覚えのある音楽などから特許や商標、意匠などについて分かりやすく解説。創造力や課題解決力育成の「糧」を提供している。
 AI(人工知能)が人間の能力を超えるとされる2045年のシンギュラリティ(技術的特異点)を見据え、イノベーションの担い手に問われるのは、常に自身の頭で考え試行錯誤する中から解を導き出す力。そんな力を身につけた子どもたちが日本の未来を切り拓く。