10月の全産業活動 リーマンショック前の水準まで回復 好調の裏に何がある
個人向けを中心にサービス好調
懸念払拭する力強さ
2018年10月の全産業活動指数は、前月比1.9%と2か月ぶりの上昇、指数値は106.6となった。先月9月は前月比マイナス1%に達する大幅低下だったが、当月はその落ち込み分の2倍近く上回る大きな上昇幅と、今基準内(2008年1月~)では2番目となる極めて大きな伸びをみせた。このところの動きの弱さに対する懸念を、一気に払拭するような力強い動きである。
また、10月の前年同月比は2.3%の上昇と、先月には19か月ぶりに前年割れとなったが、わずか1か月で上昇方向に復帰した。
このように、今月の前月比、前年同月比の動きからみると、先月9月の低調さのなかには、少なからず自然災害等の影響があった、ということがいえるだろう。
上の図で傾向値(後方3か月移動平均値)の推移をみると、7月にそれまでの上昇傾向からマイナス方向へ転じやや強めのペースで下降したが、当月の好調な動きを受け、4か月ぶりに上昇方向に舵を切りった。ただ、上昇方向に転じたとはいえ、このところの低落分からすると完全に復調したとはいい切れない様相がみてとれる。
建設業活動は低下も
10月の結果を産業別にみると、建設業活動が前月比マイナス1.2%の低下と低落傾向を抜け出すことはできなかったが、サービス産業活動は前月比1.9%、鉱工業生産は前月比2.9%と、ともに最近としては大きめの上昇で、力強い動きをみせている。
全産業活動の前月比1.9%を分解すると、1.4%がサービス産業活動、0.6%が鉱工業生産の上昇によるものだ。
最も上昇のインパクトが強かったサービス産業活動は、し好的な個人向けサービスが好調だったことに加え、このところ前月比で連続低下が続いていた企業や事業所向けサービスが復調の動きをみせたことが影響した。
モノの取引が活発化
10月の全産業活動は、足下の第3四半期の活動の弱さに対する懸念を払拭する前月比大幅上昇と好調な動きだった。好調な動きに寄与した産業は、「サービス産業活動と鉱工業生産」ということは前述の通りだが、産業の枠ではなく産業横断的な観点でみると、この前月比上昇の背景にはどのような特徴があるのだろうか。
そこで、全産業活動指数を、産業別活動の枠を越えて「モノ=有形財の取引活動」と「それ以外のサービス取引活動」に2分して指数値を試算し、その動きや影響度を「モノ=有形財の取引活動」の視点からみてみる。
財の分別判断としては、モノ取引活動には鉱工業生産、サービス産業活動のうち卸売業、小売業、不動産業の住宅売買取引、建設業活動のうち構造物建築に関する工事といった、モノや建物といった有形物を「造る」、「売買する」という業種・業務を集約した。それ以外のサービス取引活動は、サービス産業活動のうち上記以外の業種・業務と、建設業活動の土木工事ということになる。
両系列の試算値の計算は、①モノ取引活動は、上記のとおり分別した各季節調整済指数値と各基準年ウエイトを利用した加重平均(サービス産業活動に従属する活動については、第3次産業活動指数で公表されている各系列の1万分率ウエイトを、全産業活動指数の百分率ウエイトに換算)により算出、②それ以外のサービス取引活動については、全産業活動全体の季節調整済指数値から、上記①で算出したモノ取引活動の季節調整済指数値を重み付き減算(このためわずかではあるが計算手法の違いから生じる誤差分を含む)により簡便的に算出する、という手法を用いた。なお、モノ取引活動の基準年(2010年)ウエイトは、全産業活動全体=100のうち43ほどとなる。
試算結果から描画した2015年以降の推移については、下記グラフのようになった。
ここ4年間ほどの季節調整済指数の推移をみると、①モノ取引活動のこの期間の指数水準はそれ以外のサービス取引活動の水準に比べて低い、②モノ取引活動の月々の動きはそれ以外のサービス取引活動に比べ変動幅が大きい、③全産業活動全体の2016年央から2017年末にかけての上昇傾向期間や、2018年5月以降の弱含み推移期間のスロープは、モノ取引活動の方がそれ以外のサービス取引活動に比べ急斜面となっている、④モノ取引活動の今年10月の動きは、それ以外のサービス取引活動よりも大きな上昇幅となっている、⑤モノ取引活動の後方3か月移動平均による傾向値と併せてみると、上昇方向に転じてはいるものの、弱含み推移後の戻しとしては小さい、ということがみてとれる。
ここ4年間ほどのモノ取引活動の全産業活動全体の動き(前月比伸び率)に対する影響度の推移をみると、①モノ取引活動の動きが全体に与えるインパクトは、それ以外のサービス取引活動を上回ることが多い、②今月10月の全産業活動全体の大幅上昇にモノ取引活動は大きな影響(寄与度試算値は+1.24%ポイント)をもたらしている、とういことがみてとれる。
これらから、「このところの全産業活動指数の弱い動きにはモノ取引活動が低調であったことが強く影響していた。この10月はモノ取引活動が活発化したことから全産業活動指数は大幅上昇となり、モノ取引活動自体の低下傾向も一段落した模様。ただ、この10月をもってモノ取引活動が完全に復調したとはいえない」と、まとめられる。モノ取引活動の復調が、全産業活動指数の更なる上昇の鍵といえるだろう。
「緩やかな持ち直しの動き」に上方修正
2018年10月の内訳3活動の動きは建設業活動が低下だったが、他の2活動はいずれも大きく上昇した。各指数の基調判断は、鉱工業生産は「緩やかに持ち直している」、サービス産業活動は「持ち直しの動き」と、ともに上方修正している。他方、建設業活動は、依然として「弱含みの動き」が継続している模様だ。
全産業活動全体では、10月は大幅な前月比上昇で、指数値は106台半ばまで一気に上昇、いわば2008年前半、リーマンショック前の好景気の頃の高い水準域にまで復帰した。このほか、前年同月比の動き、3か月移動平均で測る「すう勢」が、いずれも上昇方向に転じるなど、今月の動きには明るい要素が多くみられる。
また、10月の鉱工業生産やサービス産業活動の動きからは、今年7月から9月の荒天や自然災害といった複数の突発的な事象が、ある程度これら活動を抑制したこと、また、少なくともこの10月には、このマイナス効果の多くが軽減されたとみられ、以降に与えるマイナス面の影響等の懸念は少なくなった。
このような状況を踏まえ、今年10月の全産業活動は、「緩やかな持ち直しの動き」にある、と今年8月までの基調判断に戻している。
【関連情報】
2018年10月の全産業活動は前月比大幅上昇、指数水準はリーマンショック前の好景気時期の高水準域に復帰。基調判断は「緩やかな持ち直しの動き」に上方修正。