
エンタメ界の「火付け役」佐藤詳悟氏が語る。プロデューサー目線で見たJ-pop、アニメ…
新たな基幹産業、成長エンジンとして期待を集めるコンテンツ産業――!日本発のアニメ作品が世界的に人気を集め、J-popの楽曲がグローバルチャートで上位に食い込むことも珍しくなくなった。
日本産コンテンツは確実に世界に届き、支持を広げ続けているように見える。第一線でコンテンツをプロデュースしている人たちは今、そこにどんな可能性を見いだし、どんな課題に直面しているのか。
エンターテインメントの最前線で様々なコンテンツプロデュース事業を手がける「FIREBUG」取締役CEOの佐藤詳悟氏に、コンテンツ産業の「現在地」について話を聞いた。
吉本興業を経て独立。「いきものがかり」のマネジメントなど多角的に展開
――まずは自己紹介をお願いします。
佐藤 元々は吉本興業で10年間働いていました。タレントのマネジャーをしたり、コンテンツをつくるチームにいたりしました。独立して今年で9年目になります。YouTubeの制作や企業の広告などしています。自社でYouTubeが制作できない会社のお手伝いや芸能事務所から独立したタレントさんのサポートもしています。今の言葉で言うとエージェントに近いと思います。
「いきものがかり」というアーティストがいます。自分たちで会社をつくって活動しているのですが、マネジャーがいないので、僕の会社からマネジャーを出向させています。
僕は「いきものがかり」の事務所の社長ではないのですが、マネジャーを束ねている会社の代表ということになります。音楽業界でプロデューサーというと音作りをする「サウンドプロデューサー」をイメージされる方が多いと思いますが、僕はそちらではなく、チームを作って大枠を見ているプロデューサーという感じです。

佐藤詳悟(さとう・しょうご) 1983年生まれ。東京都出身。大学卒業後の2005年、吉本興業に入社。ナインティナインやロンドンブーツ1号2号などのマネジャーを務め、コンテンツ開発にも携わる。15年に独立し、人材のエージェント会社「QREATOR AGENT」を創業。16年にはエンタメビジネススタジオ「FIREBUG」を設立し、タレントのYouTubeチャンネルの開発・運用やアーティストのプロデュース事業を展開している
――具体的にはどのような業務なのでしょうか
佐藤 音楽アーティストの場合、バラエティーのタレントさんなどと違い、日々外で動いているわけではありません。年間を通して、この時期はライブツアー、この時期は音楽を制作している、この時期はミュージックビデオをつくっているとか、月単位で動いています。今でいうと、2026年の話をしている感じです。
音楽系のマネジメント会社は大体同じような動きをしていると思います。ライブ会場がどんどん埋まってしまい、1年前、2年前からスケジュールを組まなければいけないという事情もあります。
僕はメンバーといつアルバムを制作するか、ライブツアーをするかといった長期的なことを対話していて、現場のスタッフは長期を具体にしていきながら、今日レコーディングしているのであれば、スタジオに行って、いろいろな確認、調整をしています。
アーティストの海外展開が急増。背景にサブスクの広まり
――佐藤さんは経済産業省など政府の政策にも関わっておられます。どのような問題意識からですか。
佐藤 海外でのフェスやライブなど海外展開に関する仕事の話が、ここ5、6年ですごく増えてきました。サブスク※が広まったことで、世界中の人たちが自由に日本の音楽にアクセスできるようになりました。CDであれば、例えばフィリピンの方が聞くためには、モノがないと聞くことができなかったのが、世界中がネットでつながってクリック一つで聞くことができる時代になりました。
そんな中で、海外にそのアーティストをどう伝えていくのか考える場面に立ち会うことが多くなってきました。海外の人たちに伝えるためには、どういうものをつくるかも重要になってきます。いろいろ考えていく中で、国などが持っているデータとか、どんな支援があるのかが、気になったのがきっかけです。
韓国が国としてコンテンツ輸出をサポートしていて、K-POPアーティストが世界に進出しているという話は何となく聞いていました。経済産業省にそういった情報とかネットワークも持っていたりするので、興味を持ったというところです。
※サブスク・・・サブスクリプション(subscription)の略。月単位または年単位で定期的に料金を支払い利用するコンテンツやサービスのこと。
多様化するエンタメ。映像と親和性高い音楽コンテンツ
――海外では、アニメとセットで日本の音楽が認知されるケースが目立つ気がします。
佐藤 僕は音楽専業ではないので、そのことを前提にお話しすると、当たり前のことですが、映像に音楽をかけられる(シンクロできる)ので、音楽というコンテンツ自体が映像素材と親和性が高いと思います。
今はすごく多様な時代で、なぜ多様かというとSNSがあるからだと思います。僕が小学生の時、クラスで「昨日何見た」って聞くと、大体とんねるずさんの番組だったり、ジャイアンツ戦だったり、ある程度テレビで放映されたものをみんな見ていて、次の日話題にしていたと思います。ところが今は、高校生10人と話すと、10人がそれぞれ違うものが好きなんですよ。
そう考えると、ファンの絶対数が多いところとタイアップできれば、これまで自分たちのファンではなかった大規模なファン層に自分たちの音楽を聞いてもらえる。逆に言うとアニメの人たちにとっても、コラボする音楽アーティストが多くのファンを抱えていたら、その曲を使うことで、自分たちのファンになってもらえる可能性がある。ファンの貸し借りが成立するんだと思います。
日本でいうと最も海外でファン人口が多いコンテンツはアニメになるのでしょう。

クールジャパン戦略関連基礎資料ver1.1(内閣府知的財産戦略推進事務局)より
重要なのは「知ってもらうこと」。アニメとタイアップするか、SNSでバズるか!
――みんなが同じテレビ番組を見ている時代ではない中で、ヒットを生み出すにはどうすればいいのでしょうか。
佐藤 仮に1万人に届いてヒットだとすると、アーティストのコアなファンが100人だとすると、9900人をどこかから連れてこないといけない。
今の時代、音楽については、サブスクで聞いている人が圧倒的に多く、ユーザーのボリュームゾーンが40歳代以下。その人たちが普段どんなものを見ているかというと、TikTok、YouTube、TVer、Netflix、ABEMAといったところでしょう。そこにどう露出するかということになると思います。
今月からのクールで言うと、新作のアニメ作品は10本くらいですかね?10本としちゃいましょう。そのうち1、2作品がヒットすると思いますが、そこにタイアップで曲をつけることができれば、その曲がヒットの可能性が高まることになります。
TikTokには毎日数千本単位で曲があがっているはずです。この中でバズってヒットする確率は数千分の1。数少ないアニメやドラマ作品にタイアップをつけるか、TikTokで天文学的な確率でバズるか。ヒットするためには、この2極しかないと思います。
――日本の70、80年代のシティポップがSNSから世界的に人気に火が付くという現象も起こりました。
佐藤 面白いのは若い子が昔の曲で踊ってバズると、みんなその曲で踊りだすんですよ。その曲自体は、今の高校生、中学生は聞いたことがない親世代の曲なんですが、Apple Musicなどサブスクでどんどん再生されることになります。1曲再生されると、その分アーティストやレコード会社に分配があるので、サブスクでの稼ぎという点では新譜も旧譜も変わらないんです。
――関連して、IP(知的財産)というものをどう展開していけばいいのでしょうか。
佐藤 何が重要かというと、どんな商品でも同じですが、「知ってもらう」ということが一番になります。幅広くいろいろ仕掛けるということは、したほうがいいのですが、結局はこの時代に最も見られているものに流して、露出していかないと「知ってもらう」ことができない。だとすると、先ほど話した通り、アニメなどとのタイアップかSNSでバズるかということになると思います。
多様そうに見えて実はそんなに多様じゃないとも言えると思います。

クールジャパン戦略関連基礎資料ver1.1(内閣府知的財産戦略推進事務局)より
「強みを更に強化する」か「弱みを強みに変えるか」
――コンテンツ産業を基幹産業、成長産業として重視する動きが官民で活発になっています。
佐藤 先ほど今月からのクールでアニメは10本くらいと言いましたが、資金を投じておそらくアニメをつくれるボリュームが、国内ではそのぐらいしかないんです。でも、例えばNetflixに10本しかだめだという制限があるわけではありません。制作費さえあれば、もっと多くの良いアニメ作品を送り出すことができる。音楽という視点でいうと、タイアップして曲を世に出せる機会が増える。「土地」が増えていくので、たくさん「建物」が建てられるようになるわけです。
国の政策ということで言うと、もっとみんなが「打席」に立てるようにしてあげるべきだと感じています。
――支援の方向性についてどう考えますか。
佐藤 日本のアニメ制作会社に日本人アーティストを使ったら補助金がでるとか、海外でアニメが放映されるよう資金面で支援するとか、全然ありだと思います。一番よくないのは、どんな補助金があるのか知られていないとか、その補助金を申請するのに、すごく面倒な手続きが必要になるとか、そういったことだと思います。
必要な人が使えないのでは意味がありません。ちゃんとした目利きの方が予算を預かり、クリエイティブな人たちに適切に補助金なり支援が届くようにすることが大切です。もっと申請しやすくする。広報活動をしてみんなに知ってもらう。そういった動きが重要です。
海外で聞かれている日本の楽曲は、アニメとタイアップしたものが圧倒的に多い。そう考えるとアニメに思い切って補助金を出すという考え方もある。逆にアニメ以外のこれから伸びていきそうなところに、分析したうえで支援していくということもありえる。
日本のコンテンツが海外で人気になれば、外貨を稼ぎ、インバウンドの呼び込みに貢献し、日本にお金を落としてくれる。国や政府の人たちの目線で言うと、そうした狙いで政策をうとうとしているんだと思います。今の強みをさらに強化するのか、今弱いところを強みにかえるのか、どちらにお金をつぎ込むか、2択だと思います。
プロデューサーの仕事は「アーティストが実現したいことのお手伝い」

アーティストが実現したいことのお手伝いをしたい」と語る佐藤氏
――そういう中でプロデューサーの役割はどんなものになりますか。
佐藤 プロデューサーの仕事って、「いきものがかり」で言うとメンバー2人が人生をどうしたいのか、手伝ってあげる人だと思います。市場を見て、ああしたらいいこうしたらいいと言うのは、アーティスト本人が望むならやった方がいいけれど、「死ぬまで歌を歌っていたい」という人だとしたら、死ぬまで歌えるプランをつくってあげるのがプロデューサーです。
海外に行きたいというのであれば、先ほどお話しした2極を追求していく。ヒットが生まれたら海外フェスなどに参加していくというのが王道なのでしょう。
ただ、海外に行くのは手段でしかないので、根本的な話になりますが、僕としては、そのアーティストが実現したいことのお手伝いをしていきたいと思っています。