地域で輝く企業

【富山発】女性が活躍する金属部品メーカー「働きやすさ」で社員も成長

富山県富山市 株式会社シンコー

日本が高い競争力を持ち、世界的に需要が伸びている半導体製造装置。その「筐体(きょうたい)」など産業機械の金属部品を製造する富山市のシンコーは、金属加工業が持つ「職人」「男社会」といったイメージを払拭し、女性も働きやすい職場づくりを積極的に進めている。就業時間内のヨガレッスンなど健康経営の取り組みによって、社員の女性比率はアップ、生産性は向上し、離職率もほぼゼロといった実績を上げている。そこには、社員が健康で長く働ける会社を実現することが企業の成長につながる、との確固たる意志がうかがえる。「女性の輝きは職場、そして会社を元気にする」と力説する中川真太郎社長(46)に、さらなる意気込みを聞いた。

レーザーロボット溶接機を操作する女性社員

精密板金×機械加工による「一貫生産体制」で競争力生む

シンコーは、半導体製造装置関連の部品が売り上げの約8割を占めている。世界の半導体市場は生成AI(人工知能)需要などを背景に、2030年には100兆円に達するとの予測もあり、成長が見込まれる。これに伴う製造装置の需要拡大に対応するため、新工場を建設する計画で、2026年の稼働を目指している。

1979年の創業以来、長らく精密板金メーカーとして板金製品に特化してきた。その後、事業発展のため「機械加工」に力を入れるようになり、1998年に機械加工工場を建設、2001年には大型機械加工部門を新設した。中川社長は「町工場の職人の仕事から、『最先端のもの作り』にシフトした2000年頃が大きな転換点でした」と振り返る。

「板金」は金属板に切断・穴あけ・曲げ・絞り・溶接などの加工を行うこと、「機械加工」は機械や工具を使って金属の塊から目的の形状を削り出す加工で、この二つの加工技術は、本来、「異業種」で業界も分かれている。必要な設備や技術の違いから、「相互乗り入れ」の事例は多くないというが、それを可能にしたところにシンコーの独自性がある。中川社長は「取引先のメーカーから、板金品の中に機械加工品が入っているような注文が増えていきました。それに対応するため、新しい技術にチャレンジし続けたことの積み重ねです」と胸を張る。

精密板金と機械加工を融合した生産体制がシンコーの大きな強みになっており、現在は、設計から加工、組み立て、品質保証までフレームや筐体製造に関する一連の業務をすべて社内で行う「一貫生産体制」を確立している。

「精密板金と機械加工の融合が大きな強み」と話す中川社長

「働きやすい環境」へ最新機械を次々と導入

生産設備の無人化・ロボット化も積極的に進め、重い金型を自動で交換できる機械などを次々と導入してきた。「品質や生産性の向上だけではなく、腰痛予防など社員の健康面を含めた、働きやすい環境づくりを重視している」と話す。

「『働きやすい環境』に目を向けると、女性社員の比率が気になった」という。健康経営に取り組み始めた5年前はわずか10%だった。当時、中川社長は「女性に活躍してもらえる仕事は、板金や溶接、プログラムや設計、出荷まで、結構ある。社員に優しい会社づくりと環境整備をしていけば、女性も本当に活躍できる会社をつくれるはずだ」と気づいたという。金属加工業の「男社会」「職人気質」といったイメージを変えていきたいとの思いもあった。

工場の溶接部門には最新鋭の集塵機を入れ、常にクリーンな環境で作業できる環境を整えた。最新のレーザーロボット溶接機や、レーザー安全装置付きの電動サーボベンディングマシンなども導入し、女性や高齢の社員にも安全に作業できる機械を取り入れてきた。

レーザー安全装置付きの機械の導入で女性や高齢者も安全に作業できる

就業時間内にヨガ、ボクシング…生産性はむしろアップ

設備面の取り組みに加え、ヨガやピラティス、キックボクシングの教室を2年前から始めた。就業時間内にあるのが特徴で、月に2、3回、金曜日の午後4時から1時間、社員が集まり、心地よい汗を流している。社員は運動が終わると、そのまま退社し、仕事に戻る人はほぼいないそうだ。中川社長は「運動で気持ちを切り替えてリフレッシュできるだけでなく、仕事により集中できるようになる。また、仕事を同僚に引き継ぐといった社員同士のコミュニケーションが取れていることが分かります」と話す。

具体的な効果も表れている。平均残業時間はコロナ前と比べて半分程度に減少した。また、社員の離職率もほぼゼロになり、ほとんどの女性社員が出産後、仕事に復帰しているという。「就業時間内に健康イベントをやっても生産性は下がらない。むしろ上がっている。社員の心身の健康が生産性に直結している、と強く感じます」

こうした取り組みの結果、社員の女性比率は約30%に上昇した。中川社長は「女性の輝きは職場や会社を元気にする。また、女性が集まる会社を男性も見ています。かつては、女性が重い物を持っても、男性の職人は『手伝わん!』という態度でした。今は、率先して手伝ってくれています。従業員同士で支え合う風土が少しずつ根付いています」と笑顔を見せる。

女性社員対象の「ウェルビーイング人財育成プログラム」も実施。セミナーやワークショップで、自主性を高め、前向きな思考を持ってもらうことを目指している。シンコーは近い将来、社員の女性比率40%の達成を目標にしている。

2023年、シンコーは富山県内の金属加工業では初めて、厚生労働省の女性活躍推進企業の認定「えるぼし」(3ツ星)を受けた。富山県の「とやま女性活躍推進企業」にも認定されている。

工場内のトレーニングセンターでは、就業時間内にヨガやキックボクシングの教室が開かれる

従業員と会社が一緒に成長する好循環をつくりたい

2023年2月、自社の金属加工の技術と、国の伝統的工芸品「越中和紙」の一つ「蛭谷和紙(びるだんわし)」を融合して、新たな価値創造を目指す新事業部「シンコー未来工芸部」を設立した。社員13人と和紙作家、川原隆邦さんらが創作活動に励み、オブジェを制作。富山市内の書店で展示や市民向けのワークショップを実施している。中川社長は「ものづくりの新たな可能性を追求したい。工場の外に出て、創造性を磨き、発想の転換につなげてほしい」と狙いを話す。

工場の敷地内では、地域の人たちと畑をつくり、採れた野菜を「子ども食堂」へ寄付しているほか、イヌやネコの保護団体の会場を提供するなど、地域との交流も大切にしている。

「社員一人ひとりが健康で、やりがいを持って働きながら地域社会に貢献することで、会社も一緒に成長する。この好循環を生み出していきたい」と語る中川社長の歩みは止まらない。

【企業情報】▽公式サイト=https://www.shinkogp.co.jp/▽社長=中川真太郎▽社員数=200人▽創業=1979年