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【静岡発】自動車部品100年企業が大変革、「持続可能な製造業」への実証実験

静岡県浜松市 ソミックマネージメントホールディングス

自動車の走行時の安定性を高め、ハンドル操作をタイヤに伝える部品「ボールジョイント」。運転するときに目にすることはないが、厳格な基準が定められ、自動車の安全性を保っている重要な部品だ。ソミックグループの中核となる「ソミック石川」は、このボールジョイントで、国内トップシェアを誇っている。ソミック石川は創業100年を機会に、大胆な組織改編を進め、新規事業専門の会社を作るなど、自動車部品のサプライヤーから新たな歩みを進めている。キーワードは「持続可能な製造業」。事業統括会社「ソミックマネージメントホールディングス」の石川彰吾副社長(46)に、変革への意気込みを聞いた。

グループの中核を担う「ソミック石川」 下野部工場(静岡県磐田市)

織機用から自動車用へ 経験の積み重ねでメーカーの信頼を得る

ソミックグループは、1916年創業の「石川鐵工塲」からスタートした。かつて「繊維のまち」と呼ばれた浜松市周辺にはたくさんの織機工場があり、工場向けに織機用ボルト、ナットを生産していた。1937年、トヨタ自動車工業の設立に伴い、協力工場としてエンジンボルトの生産を開始。戦後になると、自動車の足回りに使われる部品「ボールジョイント」の生産を始めた。

創業75周年の1991年、社名を「ソミック石川」に変更。名称は「創造(SOZO)」「未来(MIRAI)」「挑戦(CHOSEN)」の合成語で社内公募によって選ばれた。ソミック石川はノウハウ、経験を積み重ねて、トヨタ自動車を始めとする日系自動車メーカーの信頼を獲得。さらに、海外にも合弁会社を展開し、現地での調達先としてメーカーを支えてきた。こうして、ボールジョイントメーカーとしての主要な地位を確立した。ボールジョイントのシェアは国内では65%とトップを誇る(海外は16%)。

自動車の安全性を保つボールジョイントの部品。ソミック石川は国内シェアの65%を占めている

自動車業界「100年に1度の大変革期」に危機感、改革を決意

自動車業界は、メーカーが能動的に動き、その後ろにつながるサプライヤー(部品メーカー)がいて、サプライチェーン(供給網)が成立していた。だが、2010年代後半に入り、自動車業界が「100年に1度の大変革期」に突入する。気候変動や技術の進化を背景に、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換を余儀なくされ、テスラやBYDといったEVの新興メーカーが進出するなど、状況は一変した。

ソミックは創業100周年を迎えた2016年頃から、組織の大変革に着手した。ボールジョイントは「自動車が空を飛ばない限り基本的に必要な部品」と言われているが、従来のように受注した部品を納期に合わせて生産するだけでは生き残れない、と危機感を深めたからだ。石川副社長は「自動車メーカー自身が革新的な変化が求められる中、かつてのように『護送船団』的に我々サプライヤー(部品メーカー)を守る余裕はないのではないか。確かに我々が作る部品は車に必要だが、業界自体が持続可能ではなくなる時代が来ているときに、我々も自ら変わらなければいけないと感じました」と背景を語る。

石川副社長は2002年にスズキに入社。国内工場の生産管理やインド駐在を経験。2008年にソミック石川に入り、生産現場の「カイゼン」や生産管理、調達、経営企画などのキャリアを積み、一連の組織改編を主導している。

グループの組織再編を主導するソミックマネージメントホールディングスの石川副社長

「脱一本足打法」目指し、作業支援ロボットを開発

まず、グループの事業を統括する「ソミックマネージメントホールディングス」(以下SMHD)を2018年に設立。中核を担う「ソミック石川」を事業会社の1つにして、ボールジョイント製造の「一本足打法」から脱するための経営スタイルを確立した。SMHDは事業会社の人事や法務、財務をサポートし、事業会社が担当の事業に集中できる体制を整えた。

2021年には新規事業を手がける「ソミックトランスフォーメーション」も設立した。この会社の代表も務める石川副社長は「過去にソミック石川の中で新規事業に幾度となくトライしたが、どうしても自動車部品のノウハウ、知見からの判断になり、機会を喪失することもあった。新しくゼロから1を作る事業の意思決定ができる会社が必要でした」と話す。2022年4月には新規事業の第一歩として、作業支援ロボット「SUPPOT」のレンタルサービスの提供を始めた。

「SUPPOT」は、ソミック石川が持つ自動車の足回りのノウハウを生かして、工事現場などの不整地でも走ることができ、頑丈な本体の荷台には重さ100キロまで積載可能だ。リモコンでの操作のほか「自動運転」や、人の後ろをついて行く「追従運転」もできる。工事現場以外にも活用の可能性は無限大。農地での肥料運搬や農薬散布、駐車場内のパトロールのほか、トンネル内の点検作業で作業員の後ろについて動き、ライトを照らし続けるといった作業に使われている。今後は危険が伴う場所の作業や、人間が入れない場所での災害調査などへの活用を見込んでいる。

これまでにレンタルを含め50台ほどが使われており、石川副社長は手応えを感じている。「人手不足が深刻化している建設や物流業界、高齢化が進む農業など、様々な分野の人たちと活用法を話し合っています。社会課題をビジネスで解決する事業を目指したい」と意気込む。新規事業では、販路開拓を新たに始め、自社の技術だけで製品をつくる「自前主義」を見直し、技術をオープンにして共感する人と手を組んだりと、これまでの「商売のやり方」の転換も図っているという。

自動車の足回りのノウハウを生かした作業支援ロボット「SUPPOT」。不整地での走破性、作業を省力化する機能性を備えている

パーパスとアイデンティティを掲げ、「製造業を変革したい」

ソミックグループは、工場での人による目視作業の負担を軽減するため、東大発のスタートアップ企業と、AI技術を活用した「外観自動検査」を共同開発した。中堅・中小企業向けに価格を抑えた検査システムも開発し、外販する予定だ。また、生物多様性、カーボンニュートラルを見据えた実証実験の取り組みとして、「森林健康経営協会」と共に森林経営にも参画している。こうした、従来の「ものづくり」の枠を超えた取り組みから、様々な社会課題を研究しつつ、新規事業の創出を目指している。

さらに、「パーパス」と「アイデンティティ」を2022年に掲げた。パーパスは「次世代へ笑顔をつなぐ」として、ソミックが作りたい未来を示し、アイデンティティは「製造業を変革し、創造する」と、会社のありたい姿を示している。石川副社長は「大量生産、右肩上がりの時代は終わった。既存事業の変革と新規事業の創出を進め、持続可能な強い会社になるための変革を、従業員に理解してもらい、安心してもらうためのメッセージです」と力を込める。

「我々は100年間、製造業に関わってきました。だからこそ、自社を『製造業の変革』の実験の場として、日本の製造業を持続可能な産業にする挑戦を続けたい」と、未来を見据えている。

【企業情報】▽公式サイト=https://www.somic-group.co.jp/▽社長=石川雅洋▽社員数(連結)=7645人▽創業=1916年(SMHD設立は2018年)