政策特集価値を創る製品安全 vol.5

事故は起こさない、起こさせない。経産大臣賞リンナイの製品安全の極意

ガス機器大手のリンナイが2023年11月、「製品安全対策優良企業表彰」(PSアワード)の経済産業大臣賞に選ばれた。PSアワードは製品安全に積極的に活動している企業や団体をたたえようと、2007年に始まり、今回で17回目を迎えた。

リンナイの主力製品は給湯器やコンロ、ファンヒーターなど生活に密着している。一方で、火や熱に関連するだけに、きわめて高い水準の安全を確保することが求められる。リンナイの製品安全を高める手法には、他の企業にとっても参考になる点がたくさんありそうだ。

高い安全性が評価されているリンナイの給湯器やコンロ

高い安全性が評価されているリンナイの給湯器やコンロ

異業種の事故に学ぶ。「SAFE-Lite」が情報収集の味方に

愛知県大口町にあるリンナイ技術センター。ここで働く電子開発部の社員たちが愛用するサイトがある。

「インバーター 発熱」「ハンダ 発火」

こんなキーワードを入力すると、関係する製品事故の一覧がずらりと表示される。どのメーカーのどの機種でどんな事故がいつ起き、さらには、どのような対策を取ったかまでも分かる。

独立行政法人「製品評価技術基盤機構」(NITE、ナイト)が運営するサイト「SAFE-Lite」には、6万件以上の製品事故の情報が登録されている。一般の消費者でも、例えば「スマホ 熱い」などと検索すれば、どんな危険性があるのかを調べられる。しかも、登録も料金も不要。登録した事業者向けに、開発者にとって参考になりそうな過去の事故発生プロセスを紹介するなどしてリスク低減活動を支援する「SAFE-Pro」というサイトもある。

NITEの「SAFE-Lite」の画面。「インバーター 発熱」で検索してみた

画像は一部加工している

NITEの「SAFE-Lite」の画面。「インバーター 発熱」で検索してみた

リンナイは1920年の創設以来長らく、主にガスを燃焼させる商品の製造・販売で成長してきた。近年は脱炭素化の流れを受け、二酸化炭素排出量の少ないヒートポンプやIHクッキングヒーターなどの研究開発にも力を入れている。

そこでは、ガス製品とは異なる電気関連の技術が重要になる。特に、世の中で製品として使われるとどんな不具合や故障が生じるかについては、実験室で調べても分からないことが少なくない。リンナイ電子開発部の横山考志部長は「SAFE-Liteで入手できる家電業界での事故情報が、異業種の私たちにとっては貴重な教材になります。市場で過去に起きたことについては、きっちりと対策を打った製品開発ができます」と語る。

安全弁は二重に。事故から生まれた厳しい自社基準

リンナイが製品に関して設けている安全基準は、法規制より厳しい。例えば、不完全燃焼が起きた際に、ガスの供給を止める安全弁については、弁が故障した場合に備えて、必ず2つ取り付けている。要所要所にこうした二重安全対策を織り込んでいるのが、大きな特徴になっている。

背景には、ガス機器業界で起きた苦い歴史がある。2000年代半ばに、小型湯沸かし器で一酸化炭素中毒事故が多発していたことが判明し、社会問題化した。リンナイのケースでは、消費者の使い方にも要因はあった。経済産業省は消費者保護が不十分だとみて、不完全燃焼防止装置の設置や、さらには不完全燃焼装置が作動した後には繰り返し点火ができないようにする「インターロック」の設置を義務づけるなど、安全規制を強化していった。

リンナイにも大きな衝撃を与えた。リンナイ品質保証部の豊田浩寿次長は、「『品質こそ我らが命』がリンナイの原点思想であり、製品安全には注意を払っていましたが、事故をきっかけにさらに社内の雰囲気が引き締まりました。二重安全対策はその反省の中から生まれてきたのです」と振り返る。

重大事故に直結する「重要保安部品」を指定。生産工程を厳重管理

リンナイの安全最優先の姿勢は、生産現場でも貫かれている。

リンナイでは、不具合があれば火災や爆発、感電など重大な事故につながる恐れがある部品を「重要保安部品」に指定している。ガス給湯器では、安全装置やガスの通り道となるガス管やゴム部品など10点ほどが対象になっている。

出荷する製品は、各種の部品を組み立て終えた完成時に1点ずつ確認している。これとは別に、重要保安部品については部品ごとのサンプル検査を実施している。ガス管やゴム部品ならば、一定の熱や圧力をかけても、劣化しないかなどをチェックしている。

リンナイでは完成品を1点ずつ検査することに加え、重要保安部品は部品単位でサンプル検査している

リンナイでは完成品を1点ずつ検査することに加え、重要保安部品は部品単位でサンプル検査している

リンナイは、約4200億円の売上高の半分以上を海外で稼ぐグローバル企業である。米国や中国、韓国、インドネシア、オーストラリアなど世界各地に工場を展開しているが、安全に関しては日本と全く同じ基準を採用している。

リンナイが海外工場向けに作った生産工程での注意書き。国内工場と海外工場も統一された安全規格で生産している

リンナイが海外工場向けに作った生産工程での注意書き。国内工場と海外工場も統一された安全規格で生産している

日本と同じ品質を保つために、海外工場は国内工場をそっくりコピーして作る。重要保安部品を外部から購入している場合は、日本の取引先企業の現地工場から仕入れるようにするなど、念を入れている。リンナイ品質保証部の水谷圭一部長は「重要保安部品はリンナイにとっての“命”。手間暇やコストがかかっても、管理を特に厳重にしています」と話す。

誤使用の防止で業界が協力。大小さまざまなチラシを大量作成

ガス機器を購入したときのことを覚えているだろうか。工事は専門業者に頼むことや、換気に注意して使用することなどの注意点が、取扱説明書に書かれていたり、製品と一緒に同封されるチラシに書かれていたりする。さらには、製品を包む段ボールに大きな字で印刷されていることもある。

ガス機器を安全に使うには、消費者が適切に取り扱うことが不可欠。だからこそ、リンナイをはじめとする業界各社は正しい使用法の啓発に精力を傾けてきた。

しかし、現実には、それでも不適切な使用による事故を完全に絶つことはできていない。屋外に設置したガス給湯器を覆うようにして物置を設置したり、インターネット経由で購入した中古品を自分で取り付けて施工不良を起こしたりして、不完全燃焼を招いた事例などが報告されている。

リンナイは自社だけの活動では限界があるとみて、業界各社との協力に注力している。業界団体の日本ガス石油機器工業会が、正しい使用法や設置法を呼びかけるチラシを1万枚以上作成。経済産業省とも連携し、それぞれの業界団体を通じて、ガス機器を取り扱うリフォーム業者や工務店、ホームセンターなどに配布している。ホームセンター向けでは、店舗側の希望に合わせ、店内の掲示用や買い物客の持ち帰り用など様々なサイズのチラシを用意している。

日本ガス石油機器工業会が製品安全に関して作成したチラシ。ホームセンターなどでも配布・掲示されている

日本ガス石油機器工業会が作成したチラシ。ホームセンターなどでも配布・掲示されている

製品事故が起きないように万全のモノづくりをすると同時に、誤った使用法がなされないように消費者にアプローチをし続ける。リンナイがPSアワード経済産業大臣賞に選ばれたのは、当然のことを愚直に実行してきた結果なのだろう。

製品安全についてオンライン取材に協力いただいたリンナイの方々。(前列左から)電子開発部の横山考志部長、品質保証部の水谷圭一部長、豊田浩寿次長、(後列)鈴木茂技官

オンライン取材に協力いただいたリンナイの方々。(前列左から)電子開発部の横山考志部長、品質保証部の水谷圭一部長、豊田浩寿次長、(後列)鈴木茂技官

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※本特集はこれで終わりです。次回は「標準と経営が恋をする」を特集します。