政策特集必然のDX vol.3

DX銘柄2023グランプリ トプコンの尖った推進力とは

近年、デジタル技術を使って、ビジネスモデルを抜本的に変革して成長する企業が現れる一方、激しい競争の中で、既存のビジネスが駆逐され、破壊されるケース(デジタルディスラプション)も出てきている。企業が競争力を強化していくにはデジタルを最大限に使いこなして、それを強みとするような経営ビジョンが求められる。

DXとは単なる「IT化」ではない。デジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革して、競争上の優位性を確保することを指す。

経済産業省は、企業のDXに関する取り組みを促すため、経営者が実践すべき事項をまとめた「デジタルガバナンス・コード」を2020年に策定(2022年に改訂)した。また、このコードに沿って経営ビジョンや経営戦略、体制などを整え、これからDXに取り組んでいく体制が整備された企業を認定する「DX認定制度」を設けている。さらに、東京証券取引所上場企業の中から、他の企業の模範となるような特に優れた企業を「DX銘柄」として選定している。

この「DX銘柄」に4年連続で選ばれた実績を持ち、デジタル時代を先導する企業として「DXグランプリ2023」にも輝いた、トプコン(東京都板橋区)の伊藤嘉邦・上席執行役員経営推進本部長に、DXを推進するポイントを語ってもらった。

DX銘柄のメリット「知名度上がり、より推進力がついた」

「DX銘柄に選ばれたことで、会社全体のDXにより推進力がついた」と話すトプコンの伊藤嘉邦・上席執行役員経営推進本部長

トプコンは1932年の創業以来、測量機や眼科用医療機器などの製造・販売を中心にグローバルに事業を展開。1994年、建設機械の自動制御技術を持つ米国のベンチャー企業を買収したことを転機に、海外技術ベンチャー企業や販売会社のM&Aを重ね、独自の光学・センシングの技術とあわせ、デジタル技術を活用した新たなビジネス展開(以下、DXソリューション)を提案する企業へ転換した。

伊藤氏は「DX推進が事業そのものになっているため、経営サイドからも進展具合を厳しくチェックされる。その分、不退転の決意で進めている」と話す。DXと言えば、コアとなる事業とは別にデジタルを活用した事業を新たに起こす例も多いが、トプコンは自社製品を活用したDXソリューションを顧客に提供している点が大きく異なる。

「医・食・住」の分野にそれぞれ最新のDXソリューションを持つ。「医(ヘルスケア)」を見ると、トプコンのフルオート眼底検査機器は、世界で高い市場シェアを誇る。検査機器で取得した眼の画像や検査データをクラウド型IoTプラットフォームに載せ、専門医による遠隔診断やAI診断を可能とし、眼の病気の早期発見・治療につなげる眼の健診(スクリーニング)の仕組みを展開している。また、世界で数社しか持っていない全地球航法衛星システム(GNSS)を活用した高精度な位置計測技術などを基に、「食(農業)」では「農業の工場化」というコンセプトで農機の自動操舵システムやクラウド上で農業データを一元管理する仕組みを提供、「住(建設)」では「建設工事の工場化」をコンセプトにICT自動化施工システムや測量・設計・施工・検査の全工程のデータをクラウド上で連携させて顧客の課題に対応するシステムを提供している。

トプコンは、フルオート眼底検査機器で取得した眼の画像や検査データにクラウドを活用することで、専門医による遠隔診断を可能にしている(東京・板橋区のショールームで)

トプコンは売上高比率の8割が海外市場、社員の7割を外国人が占めている。先端技術を獲得するため、世界各地の企業のM&Aも続けている。「海外の最新技術とスピード感と日本の丁寧な設計開発・生産・品質管理との良いところを結びつけながら、顧客の課題解決に必要なシステム構築、サービス提供を進めている」と話す。

ソリューションが続々と生まれる…流れが回り始めた

「DX銘柄」に4年連続選ばれたことを、伊藤氏は「毎年、新しいことを実施しているわけではない。
眼の検査機器のような自社が『ものづくり』の強みを持つ製品を土台に、遠隔診断のようなデジタル技術を活用したソリューションを積み重ねて社会的課題の解決に結びつけるというビジネス展開の流れがうまく回り始めた。一度開発したDXソリューションをベースにして、その上に、新しいアイデア、ソリューションが毎年、次々と重なってくる。それを息切れせずに発表できているところが評価されたと思います」と語る。

「DX銘柄に続けて選ばれたことで、トプコンの『尖ったDXで、世界を丸く。』というキャッチフレーズの説得力が増した」と言う。外部からの認知度が高まったのはもちろん、社内でも「従来のものづくりも大事にするが、DXソリューションを提供していくんだ」という部分が明らかになり、世界各地のグループ会社を含めて方向性が統一できた。DXにより推進力がついてきた。さらにぶれずに、スピードアップしたい」と意気込む。また、学生やキャリア採用でDX銘柄の効果は明らかに表れており、「最新のデジタル技術による社会課題の解決を一緒にやりたい」という意欲的な学生の応募も増えているそうだ。

伊藤氏はDXの必要性について「デジタル化やIT活用は世界の潮流になっており、もう止まらない。競合他社に勝って生き残るためには、製品、サービス、ソリューションを変えていくことは絶対に必要だ」と強調する。さらに、「変わらないキーワードがあるとすれば“持続的な変革”。それに挑戦できるかどうか、それをトップ自らが旗を振っていくところが一番重要なポイント。各企業で強みを持つ領域の上にデジタル、ソリューションを活用するとどう変わっていくのか。今、きちんと計画して考えていくということが必要」とDX推進のコツを語った。

「DX銘柄」でデジタル活用が優れた企業を毎年選定

「DX銘柄」は、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、デジタル活用の実績が優れている企業を毎年選定する制度。前身の「攻めのIT経営銘柄」から数えて、「2023」で9回目の発表となった。「DX銘柄」に選定することで、目標となる企業モデルを広く波及させ、デジタル技術活用の重要性に関する経営者の意識変革を促すことを目的にしている。また、投資家を含むステークホルダー(利害関係者)への紹介を通して評価を受ける枠組みを設けることで、企業のDXのさらなる促進を図っている。

経済産業省は「DXは企業経営そのもの」という。データやデジタル技術を活用したプロジェクトへの投資を通じ、持続的成長と競争力の向上につながるからだ。さらに、市場からの成長期待を集め、長期的・持続的な企業価値向上を図ることが重要と考え、「DX銘柄2024」の選定プロセスへPBR[1]指標を活用することを決めた。DXを通じて、持続的に企業価値を向上させる経営に取り組む企業の拡大が期待される。
[1] PBR…株価純資産倍率。株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているのかを示すもので、投資判断指標の1つ。

伊藤嘉邦(いとう・よしくに)株式会社トプコン上席執行役員経営推進本部長
大手コンサルティング会社でIT戦略や業務・組織改革プロジェクトをリード。その後、ITサービスとビジネス・プロセス・アウトソーシングを提供するベンチャー企業のCOOとして事業を拡大。2018年、株式会社トプコン入社。2019年より執行役員、2021年より経営推進本部長として、経営企画、DX推進、IT、SCM(サプライチェーンマネジメント)を担う。

【関連情報】
デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)(METI/経済産業省)
デジタルガバナンス・コード(METI/経済産業省)
DX認定制度
トプコン