政策特集福島から vol.5

廃炉の難関「燃料デブリ取り出し」に挑む。福島で技術開発が加速

東京電力福島第一原子力発電所では、30~40年が必要とされる廃炉に向けた作業が、日々、続いている。2023年度後半を目途に、最難関の一つである燃料デブリの取り出しが初めて2号機で試験的に実施される予定になっている。安全を最優先にしながら、少しずつではあるが、確実に前進している。

世界でも前例のない廃炉を実現するには、これまでない技術が求められる。福島では、東電や国、地元の自治体、経済界などが連携を深めている。

1号機内部が徐々に明らかに。デブリ取り出し計画作成の環境づくり

東電福島第一原発1号機。原子炉圧力容器を覆う原子炉格納容器内は放射線量が非常に高く、人が入るのは難しいが、その様子が徐々に明らかになってきている。

2023年3月、東京電力第一原発1号機の原子炉格納容器内部を水中カメラを使って撮影した。土台となる「ペデスタル」の内側は鉄筋がむき出しになり、上部の構造物が落下していた

2023年3月、東京電力福島第一原発1号機の原子炉格納容器内部を水中カメラを使って撮影した。土台となる「ペデスタル」の内側は鉄筋がむき出しになり、上部の構造物が落下していた

圧力容器を支えている円筒形の土台「ペデスタル」の内側は、広範囲でコンクリートが失われ、鉄筋がむき出しになっていた。床面には、1m未満の堆積物が存在し、上部の構造物が落下していた。カメラを搭載した水中ロボットを投入して行われた今年3月の調査で得た情報である。

燃料デブリの多くが圧力容器内にとどまっている2号機と異なり、1号機ではほとんどが原子炉格納容器に溶け落ちている。燃料デブリの取り出しはいっそう難しく、具体的な計画はできていない。

「PCV(=原子炉格納容器)の状況が分からないことには、詳細な計画を作れません。この調査をもとに、より詳細な取り出し方法の検討が可能となり、仕事にとてもやりがいを感じています」

こう話すのが、調査に携わった東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニーの中島悟さんである。

福島第一原発の1号機と3号機の原子炉格納容器内の調査などを担当する東京電力の中島悟さん

福島第一原発の1号機と3号機の原子炉格納容器内の調査などを担当する東京電力の中島悟さん

地元・双葉町出身。「‘被害者’と‘加害者’の双方が分かる立場に」と東電に入社

中島さんは、福島第一原発のある双葉町で生まれ育った。高校2年生のときに、東日本大震災と原発事故を経験。双葉町は全町避難となり、いわき市に移って、高校に通い続けた。震災については気持ちの整理ができないままだったが、理科系の科目が得意で、将来の何かに役立つだろうとロボットを学ぶことを決め、大学進学を機に上京した。

大学4年生の頃に将来を真剣に考えたとき、思い浮かんだのが地元の現状だった。「東電にとって、廃炉は当然果たさなくてはいけない義務ですが、一方で、東電にすべてを任せるのは、それはそれでいいのかと疑問をもったのです」と振り返る。

中島さんの周囲にも「加害者の中に入るのか」と懸念を示す人がいたという。しかし、中島さんは「‘加害者’の気持ちも‘被害者’の気持ちも分かる立場だからこそできることがある」と考え、大学院を経て、2018年に技術者として東電に入社した。

以来、福島第一原発で一貫して廃炉作業に従事している。原子炉格納容器内にロボットを入れるにしても、安全性を保ちながら、どのような動きにするのか、進入経路はどうするか、必要な素材は何か…。考慮すべき要素は尽きることがない。東電の同僚や、ともに廃炉作業にあたる協力企業の関係者と議論したり、試験を重ねたりしている。

廃炉に地元企業が続々参入。国や県は大手との協業後押し

中島さんは1号機と3号機の原子炉格納容器の内部調査とともに、原子炉建屋内の高線量エリアでの作業の改善を手掛けている。放射線量の測定などの調査業務では、ロボットを活用する余地が大きいとみているが、研究開発では、地元企業に協力を仰ぐケースが少なくないという。中島さんは「ロボットは様々な技術を統合させて成り立つので、多くの方が技術を持ち寄るべきなのです」と語る。

高線量エリアで動くロボットを開発している東京電力の中島悟さんは、福島第一原発のあった福島県双葉町の出身。廃炉にかける思いはひときわ強い

高線量エリアで動くロボットを開発している東京電力の中島悟さんは、福島第一原発のあった福島県双葉町の出身。廃炉にかける思いはひときわ強い

大手企業中心だった廃炉の現場でも、地元企業の活躍が目立つようになっている。例えば、2020年に完了した1号機と2号機が共用で使っていた高さ約120mの排気筒の上部解体工事は、独自ロボットを開発した福島県広野町の建設会社「エイブル」が担当した。

東電にとっても地元企業は大きな力になる。公益財団法人「福島イノベーション・コースト構想推進機構」、公益社団法人「福島相双復興推進機構」とともに、廃炉関連ビジネスへの参入を希望する地元企業に対し、東電のほか、廃炉作業を担う大手建設会社や機械メーカーなどをマッチングさせる事業を展開している。契約に至った件数は、2022年度は過去最高の382件となり、今年10月末まででは累計836件に達している。

また、国と福島県は「地域復興実用化開発等促進事業」で、廃炉に加えて、ロボット・ドローン、エネルギー、環境などの重点分野に関し、福島県浜通り地域で実用化開発をする企業に対して、最大7億円を補助している。地元企業だけでなく、地元企業と連携する企業も対象にすることで、両者の協業を後押ししている。

廃炉に関わる人が増えることは、廃炉が技術的に円滑に進みやすくなるほか、福島県の経済活性化にもつながることも期待されている。ただ、中島さんは、それ以上の価値があると考えるのだという。「廃炉に少しでも関わることで、福島への偏見がなくなります。疑わしい情報を聞いても、鵜呑みにしなくなり、一緒に福島の将来について考える機会が増えていくと思うのです」

【関連情報】

廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト(経済産業省)


※本特集はこれで終わりです。次回は「必然のDX」を特集します。