政策特集チェンジ・メイカーを育てる 『未来の教室』 vol.3

現状への危機感 改革の背中押す

経産省の有識者会議座長・森田朗津田塾大教授に聞く


 ITを活用したこれからの教育「EdTech(エドテック)」について議論してきた経済産業省の有識者会議は、今後の政策づくりのたたき台となる「第1次提言」をまとめた。座長を務めた津田塾大学の森田朗教授に半年わたる議論を振り返ってもらった。

新たな発想に期待

 ―「『未来の教室』とEdTech研究会」では、日本が「課題解決先進国」となるために必要な教育のあり方について議論してきました。どんな印象を持ちましたか。
 「教育に対する閉塞(へいそく)感を何とか打破したいと考える関係者が決して少なくないことがまず、印象的でした。とりわけ公教育の現場は、ビジネスの視点から教育を変革することやテクノロジーの色彩が強まることへの抵抗感は相当強いのではと懸念していましたが、それ以上に、今のままの教育では、経済社会の変化に対応できないとの強い危機感を抱いていると感じました」

 ―議論には全国の学校関係者や産業界、学生などが多数参加。霞ケ関を飛び出してワークショップも開催されました。役所がある程度の方向性を示す審議会や有識者会議に比べると異色だったのでは。
 「ボトムアップ型の合意形成プロセスは、行政改革推進会議などでも採用されましたが、まだ珍しいと言えるでしょう。役所にはない新たな発想が打ち出される効果が期待される一方、多様な声を束ね、政策としてどう落とし込んでいくかが課題です。エドテックの場合、教育現場におけるイノベーションの必要性については、ある程度の共通認識が醸成されつつありますが、一人一人が描く次世代教育のイメージもそれぞれ異なります」

政策に問われる姿勢

 ―今回の提言は、「50センチ革命」「越境」「試行錯誤」という三つのキーワードを掲げ、教育は何をするべきかというテーマを設定しました。
 「『50センチ革命』は、これは一部のリーダーに期待するのではなく、皆が小さな気付きを変化につなげようというメッセージです。『越境』は今までの枠組みを超えて新しいものにチャレンジする姿勢。そして『試行錯誤』は、とにかくやってみてダメならやり直そうという発想。実は、これらは今後の政策立案においても問われる姿勢です」

 ―具体的にどんな姿勢を期待しますか。
 「研究会には関係省庁の担当者もオブザーバーとして議論に参加しており、経済社会の変化に対応した人材育成が急務であるとの基本的な認識は一致していると考えています。とりわけ文部科学省は、『ソサエティー5・0に向けた人材育成』と題する提言をまとめており、ある部分においては、経産省の提言以上の斬新な発想も盛り込まれています。テクノロジーを活用した教育改革の必要性については、同じ目線で施策が展開されることに期待が持てます」

     

  ―今後の議論のポイントはどこにありますか。
 「大学改革です。今回は第1次提言なので、そこまで踏み込む時間的余裕がありませんでしたが、日本の教育のありかたを根本的に規定しているのは大学の入試の仕組みです。日本が少子高齢化による労働力不足という構造的な課題を乗り越える上で先端技術の活用は不可欠であり、そのためには文理融合による人材育成は喫緊の課題です。これからは、経済や法律が分かると同時にデータも読める―。あるいは理系においても極めて専門的な知識だけでなく、自身の研究と社会との接点を見いだせる人文社会科学系の教育強化が必要です。日本は文系・理系を峻別してきましたが、画期的な技術やサービスを生み出すには、大リーグで活躍する大谷翔平選手のような『二刀流』人材が求められるでしょう。入試区分の見直しも含め、多様で幅広い知識と教養を身につけ、深く考え抜き、自身の言葉で課題解決策を提示できる人材を大学教育の中でどう育てていくか―。これは避けて通れない課題です」

ITの可能性

 ―近年の教育は『詰め込み型』と『ゆとり』の間を揺れ動いてきました。
 「教育にITを活用する最大の利点は、学習データを活用することで、きめ細かい個別対応が可能になることです。ゆとり教育で目指した個性を伸ばす教育を、ITが実現する可能性を秘めているということです」

 ―教育と医療はイノベーションを起こしにくい世界という共通項があるようにみえます。中央社会保険医療協議会(中医協)会長なども歴任され、社会保障制度に詳しい立場から、可能性をどこに見いだしますか。
 「ビッグデータから得られた知見をもとに個人の特徴に合わせた『個別化』が可能になることで、最適化や効率化につながる点では、共通点が見いだせます。客観的・科学的な根拠に基づき、限られた予算を合理的に配分する―。テクノロジーを駆使して、ともにそんな改革が進むことを期待します」