地域で輝く企業

【石川発】花街の粋が漂う甘納豆。「良い砂糖・良い豆」一筋の味が世界を魅了する!

石川県金沢市 甘納豆かわむら

金沢市の「にし茶屋街」は、ひがし茶屋街、主計町(かずえまち)茶屋街と並ぶ金沢三茶屋街のひとつ。夕暮れ時には着飾った芸妓が通りを行き交い、どこからともなく三味線の音が聞こえてくる。そんな街の一角に店を構えるのが「甘納豆かわむら」だ。

元々、芸妓から常連客への「茶屋街のおもたせ」として始まったという「甘納豆かわむら」の甘納豆は着色料、保存料など一切使わず、昔ながらの方法で手間暇掛けて手作りされる。一方で、地域社会を牽引する中心的な企業の一つとして、経済産業省の「地域未来牽引企業」にも選ばれている。

伝統を受け継ぎつつも、常に新しい挑戦を続ける。城下町・金沢とともに生きる、そんな企業の魅力を探った。

まるで宝石のような甘納豆。いい豆、いい砂糖にこだわり、保存料、着色料などは一切使っていない

茶屋建築の街並み。のれんをくぐれば豆菓子・羊羹・“賞味期限6分モナカ”

金沢市の市街地を流れる犀川の西側、西インター通りを野町西交差点で折れ、にし茶屋外に入ると、細格子が美しい2階建ての茶屋建築が軒を連ねる。100㍍ほど歩くと、右手に古い町家を改築し再生した「甘納豆かわむら」の店舗兼カフェが見えてくる。

1階の店舗ののれんをくぐると、様々なタイプの甘納豆などの豆菓子や羊羹(ようかん)、餅などがショーケースや棚にきれいに並んでいる。2階には「サロン・ド・テ・カワムラ」が併設されており、こだわりのスイーツや季節を感じさせる甘味などを、その場でゆったりと味わうことができる。

1階店舗奥にはちょっとした休憩スペースが。テイクアウトしたモナカなどを、ここで味わうことも

1階店舗の奥には、元々は蔵だった建物を改装した部屋や屋外で腰を下ろして一休みできるスペースが用意されている。こちらは、賞味期限6分をうたうモナカや特製豆蜜のかかったかき氷をテイクアウト販売する「mame ノマノマ」の休憩スペースとして利用されている。

休日はもちろん平日も、地元の人や国内外からの観光客が途切れることなく、のれんをくぐって訪れる。

町家を改装した「甘納豆かわむら」の店舗兼カフェ。国内外から多くの人がのれんをくぐる

幼いころから「将来は甘納豆づくり」。京都で修業、曽祖父からの看板を復活

河村洋一社長(58)が妻の由美子さんと「甘納豆かわむら」を創業したのは2001年のことだ。

「曽祖父、祖父と2代にわたって『河村甘納豆工業』という業務用の甘納豆の製造・卸の会社を営んでいました。私は祖父と同居していたので、幼いころから商品を包装したり、シールを貼ったり、段ボールを組んだりと手伝いをさせられていました。その頃から将来は、お菓子屋になって甘納豆づくりをすると思っていて、それ以外は考えませんでした」

河村社長は高校を卒業すると、自ら進んで京都の老舗和菓子店に修業に出た。ただ、叔父が後を継いだ「河村甘納豆工業」は、その後廃業。修業を終えた河村社長も、甘納豆とは別の商売をしていた父親の家業を手伝っていたが、もう一度「甘納豆」の看板を掲げようと、一念発起したのが2001年だった。

幼いころから祖父の甘納豆づくりをお手伝い。京都の和菓子屋で修業も

香港のYouTuberが国内外に発信、仏の五輪チームは木イチゴ羊羹に舌鼓

当初は曽祖父や祖父と同じく、業務用の甘納豆づくりを目指した。ただ、開店当初ですぐにでも現金が欲しい。そこで小さな販売スペースを作って、直接お客さんに販売することにした。

曽祖父や祖父の味といってもレシピが残っているわけではない。「とにかく高級な良い砂糖と良い豆のみを使って、シンプルな製造法でつくっていきました。それが昔風の味だと評価されたのだと思います」と河村社長は当時を振り返る。

「にし茶屋街の女将さん、芸妓さんたちが応援してくれて、お客様への贈答用に買ってくださいました。そして、贈られた旦那衆が、次は買いに来てくださり、金沢市内にお客様が広がっていきました。そのうち芸能界の方がお取り寄せを利用していただいたりと、全国的にも知っていただけるようになりました」

評判は国内にとどまらない。ある時、香港のYouTuberが来店し、その後「甘納豆かわむら」の紹介動画が投稿され、会社のサーバーがダウンしてしまうほど、アクセスが集中したこともあった。東京2020オリンピックパラリンピックの際には、金沢市で事前キャンプを張ったフランスの競泳チームに、フランス産の木イチゴと地元産の小豆を使った羊羹を振る舞った。今も人気商品の一つとして店頭を飾っている。

商品が整然と並ぶ「甘納豆かわむら」の店舗。スタッフは全員が女性だ

従業員は全員女性。通年の売り上げ平準化で、年末年始は休業。「働き方こそ大切」

こだわりは商品の味だけにとどまらない。「甘納豆かわむら」はECプラットフォーム、セレクトショップ、百貨店などでの卸売販売を行っていない。「付加価値の高い商品を開発し、お客さんに喜んでもらうことに注力する」という理由が一つ。そして、更に大きな理由として河村社長が挙げたのが、従業員にとって健全な労務環境を維持するということだ。

河村社長は強調する。「百貨店などに卸すとなると、年末年始の営業を余儀なくされ、12月31日から1月3日までの完全休業は不可能になります。そうなると労務に問題が出てくる。私どもは月の残業は多くても10時間と決めており、それを超えないように1年を通して売り上げが平準化されるように工夫し、繁忙期を作らず、従業員が安定した環境で働けるように努めています」

「甘納豆かわむら」の従業員は全員が女性。独身の人もいれば、子育て真っ盛りの人もいる。当然、産休・育休の制度も整えており、常に2名程度はこうした制度を使って休みに入っている状態だという。「育休を終えた社員は当然のように復帰して、活躍してくれています」と河村社長は強調する。

実際に従業員の労務環境の観点から、ゴールデンウイークに休業したこともあるという。また、毎年12月31日から1月3日の期間は完全に店を閉め、休業している。家族と過ごす正月を大事にしたいという思いからだ。

こうした労務面での努力もあり、結婚や出産を機に離職する人はゼロ。2023年3月に社員募集をした際には、10人程度の募集に対して約160人の応募があったという。

美しい細格子の茶屋建築がならぶ「にし茶屋街」。ここから全国そして世界へ

全スタッフがエンターテイナー。新たな店舗を「お客様がもう一度来てみたい場所」に

「甘納豆かわむら」は今後の展望をどう描いているのか。

河村社長は「現在の商品を強化しながら、新たに魅力的な商品も開発していかなければならないと思っています。インバウンドの強化も重要です」と語る。現在、にし茶屋街の店舗から1.5㌔㍍ほど離れた場所に、元々は味噌屋だった登録有形文化財の建物を購入、1年後の開業を目指して、店舗兼製造工場にリフォームする計画だという。

「工場では、観光客に和菓子作りを体験してもらえるようにする計画です。コーヒー豆ではなく小豆を焼いたものからエスプレッソマシンでポリフェノールたっぷりの煮汁を抽出して提供することも考えています」

そして、こう締めくくった。

「うちの店を訪れた人たちが、ただただ楽しんで、もう一度来たいと思ってもらうにはどうしたらいいかを追求していきたい。スタッフみんなが、それぞれエンターテイナーとして、どうしたらお客様に楽しんでもらえるかを考える会社にしたい」

 

【企業情報】

▽公式サイト=https://mame-kawamura.com/▽社長=河村洋一▽社員数=23人▽創業=2001年