政策特集夏休み親子企画 試験に出る経済・産業 vol.5

体験しながら仕事を学ぶ「経済産業省こどもデー」

夏休みの子どもたちに、経済産業省が担当する幅広い仕事内容を知ってもらおうという「経済産業省こどもデー」が2023年8月2日、3日に開催され、親子連れでにぎわいました。

次世代エネルギーに触れ「溶けて消えていく時に音がする!」と驚き

「耳にあててごらん。音は聞こえるかな」。次世代エネルギーとして期待されるメタンハイドレートについて学ぶブースの一角。子どもたちが、かき氷のような物質を耳にあてて、「パチ、パチ、パチ」という音を確認しています。子どもたちが手にしていたのは、人工のメタンハイドレートです。

子どもたちに模型を使ってメタンハイドレートの構造を説明

別名「燃える氷」と呼ばれるメタンハイドレートは、水分子の籠に閉じ込められた天然ガスです。都市ガスなどの主成分であるメタンガスと水の分子でつくられています。子どもたちは、人工メタンハイドレートに触れ、パチ、パチ、パチというガスが出てくる音とともに塊が小さくなる一方、人工メタンハイドレートが冷たいことを確かめました。火を近づけるとメタンハイドレートから分解して出てきたメタンが燃え、水とメタンに変化する際には周囲のエネルギーを吸収します。こうしたメタンハイドレートの特性について、分子の模型を使って学びます。

また、子どもたちは、日本近海の海底約900メートルの様子も映像で学びました。日本の近海には、メタンハイドレートが埋蔵しており、未来の天然ガス資源として期待されています。東部南海トラフ海域での資源量は日本で年間に利用される天然ガス10年分に相当するとされます。採掘技術の開発を進めており、2030年度の商業化に向けたプロジェクトの開始を目指しています。

このほかエネルギーにかかわるブースでは、ゲーム形式で町全体の電力供給を考えたり、かざぐるまを作って風力発電の仕組みを知ったり、玩具のソーラーカーを実際に動かしたりするなど、さまざまなエネルギー資源について遊びながら学ぶ仕掛けが多くありました。

産業を支える技術や素材に触れるコーナーも

デジタルのツールを使って楽しく遊びながら学ぶブースも人気を集めていました。タブレットで絵本をつくったり、ゲームを使って音楽をつくったりする作曲体験もお目見えしました。

作曲体験をはじめデジタルツールを使った体験コーナーも人気を集めた

産業を支えるさまざまな技術や、素材の特性を学ぶコーナ―も充実していました。電気を流して金メッキをつくったり、銅や実用金属で一番軽いマグネシウムについて詳しく学んだりするコーナーもありました。このほか、文字盤に好きな絵を描いて目覚まし時計の組み立てを体験するコーナーにも大勢の子供たちが参加していました。

「めざまし時計の組み立て教室」で制作された目覚まし時計のイメージ。文字盤に子どもたちが絵を描いてオリジナルの時計が完成する

中高生がキャリアを考えるスペシャルイベントも

「経済産業省こどもデー」では、キャリアを考えるスペシャルイベント「仕事って面白い!高校生・中学生向け!わくわくを仕事にしよう~起業、理系のキャリア、研究者、政策~」が開かれました。起業家をはじめ、エンジニアや研究者らが中学、高校生に現在の仕事を目指したきっかけや仕事の面白さなどを語りました。

視察に訪れた西村康稔経済産業大臣は「私も子どものころ、何になりたいか迷っていたことがありました。何かきっかけがあります。今日、どんなことでもいいので何かをつかんで挑戦してほしい。経済産業大臣の立場で、みなさん、若い世代の挑戦を全力で応援しています。やる気のある人はどんどん海外にも行って経験を積んでもらいたいです」と参加した中高生に呼びかけました。

参加者の中高生に自身の子ども時代の経験を語る西村経済産業大臣

起業をテーマにした「社会をよくする、スタートアップの仕事とは~知っているようで知らない起業について~」では、一般社団法人インパクトスタートアップ協会代表理事でライフイズテック代表取締役CEOの水野雄介さん、SHE代表取締役CEO/CCOの福田恵里さん、ファストドクター代表取締役の水野敬志さん、イノカ取締役COOの竹内四季さんの4人が登壇しました。

スタートアップの力で、半径1メートルから社会を変える

ライフイズテックの水野さんは、中学、高校生向けにプログラミング教育を行う会社を27歳で立ち上げました。「身の回りに問題はいっぱいあります。半径1メートルから社会を変えていこう。インパクトとプロフィットの両方を大事にしながら社会の課題をスタートアップの力で解決していこうと、他のスタートアップとともに取り組んでいます」と思いを伝えました。

SHEは、女性向けのキャリア支援事業を展開しています。SHEの福田さんは「26歳で起業しました。中高生の時に起業家という存在を知って、もっと早く起業していたら、スティーブ・ジョブズを目指せたかもしれないと思う時があります。みなさんにも、起業の楽しさを体感してもらいたいです」と話しました。福田さんは、「このままではいけない」と20歳の時、アメリカ・サンフランシスコに留学した経験が人生の転機になったといいます。現地でエンジニアや起業家など、世界を変えようとしている同世代の人たちと出会い、大いに刺激を受けました。帰国後、デザインやプログラミングを学ぶ中で、初心者の女性向けのWebスクールをつくったのが起業の原点となりました。

ファストドクターは、地域の医療機関が休診となる夜間や休日に、医師による医療相談や往診、オンライン診療などが受けられる救急医療プラットフォームを構築しています。救急車以外の選択肢として夜間・休日の地域医療を担い、2025 年までに不要不急な救急車の利用を 3 割減らすことを目指しています。ファストドクターの水野さんは、「起業には、自分たちのサービスに対して『ありがとう』と言ってくれる人を見つけることが大事。その確信を経て、会社としてちゃんとやっていこうと思いました」と振り返りました。

イノカは、「環境移送サービス」としてオフィス空間や商業施設内にサンゴ生態系水槽を提供しています。「環境移送技術」は、海洋環境を自然に近い形で水槽内に再現する独自の技術コンセプトです。

参加者に起業について語るライフイズテックの水野さん、SHEの福田さん、ファストドクターの水野さん、イノカの竹内さん(写真左から)

「好きな領域を突き詰めて」中高生にエール

中学、高校時代について、SHEの福田さんは「起業は全く選択肢になかったのですが、リーダーシップをとることは嫌いではなかったので、その点は今も変わっていないです」と振り返りました。

イノカの竹内さんは、中学、高校とバンドをしていました。その頃から仲間と楽しくさわぐのが好きで、大学のバンドサークルの同級生が立ち上げた会社に加わりました。「好きな領域がある人は突き詰めてほしい。能力や思いを誰よりも高めていけば、仲間は後からついてくる。自分はCOOとして、一見ビジネスにならないような領域をどうすればビジネスにできるかを考えています」と伝えました。

ライフイズテックの水野さんは「人生1回だから勝負しようと考えました」といい、ファストドクターの水野さんは、「起業は遅すぎることも早すぎることもない。やりたいなというパッションが出てきた時に踏み出すといいと思います」とエールを送りました。

国の立場に立って政策立案も体験

また、「政策シミュレーション」では、国の視点で物事を考え、政策をつくり上げていくプロセスを体験しました。「世の中でこんなことがあったらいいな。こんな社会になったらいいな。ここがなんか変だなということを常に考えて、課題を見つけて、現状とのギャップと照らし合わせながら政策を考え続けます」。講師役の経産省職員から政策への考え方を聞いた後、世界で開発が進められている「空飛ぶクルマ」をテーマに、参加者が実際に政策づくりを体験しました。参加者からは「飛べる区域をどのように決めるのか」「自然環境への影響どうなるか」などの課題が挙がりました。さらに、その課題を踏まえて「国がやるべきことは何か」を考えていきました。

このほか、キャリアを考えるスペシャルイベントでは、理系キャリア、エンジニアや研究者の仕事をはじめ、「AIを学び、起業をするという選択肢」などをテーマに講義が行われました。