地域で輝く企業

【香川発】半導体技術で世界が注目。「チップレット」でグローバル市場に切り込む!

香川県高松市 アオイ電子

半導体の世界には一つの有名な法則がある。インテル創業者の1人ゴードン・ムーア氏が1965年に提唱した「ムーアの法則」と呼ばれるもので、簡単に言うと、半導体の性能は2年で2倍に進化するという考え方だ。この法則は、半導体を構成するトランジスタの寸法を小さくし、一つのチップの中の集積度を高めることで、これまで実現してきた。これが限界に近づいているという。

寸法を小さくする「微細化」とは異なる手法を世界中が模索する中、カギを握る企業の一つが香川県高松市に本社を構える「アオイ電子」だ。

創業以来半世紀、電子部品を通して人々の暮らしに関わってきた老舗企業は今、何を目指し、どんな展望を抱いているのか。木下和洋社長(66)に話を聞いた。

アオイ電子が手がける半導体集積回路

集積技術から生まれた新しい分野、「中工程」に照準を合わせる

アオイ電子が注目を集めるきっかけとなったのが、「チップレット」と呼ばれる集積技術だ。一つのチップの中により多くの機能を詰め込む方向ではなく、複数のチップを接続して、一つのチップのように機能させる技術のことだ。

「『チップレット』の構想は昔からあって、インテルやサムスンも取り組んでいました。我々が提唱しているのは『Pillar-Suspended Bridge(PSB)』という方法で接続するもので、非常にシンプルで効率的。生産性も高い」

木下社長はアオイ電子が開発を目指す「チップレット」について、こんな言葉で自信を示した。

半導体の製造はシリコンウェハーの上にトランジスタで回路を形成する「前工程」と、ウェハーを切り出し、研磨、配線、封止などを施して使える状態に仕上げる「後工程」に明確に区分されている。アオイ電子は優れた技術力を持った「後工程」の企業として、評価されてきた。

では「チップレット」で、アオイ電子は何を目指すのか。木下社長は「『チップレット』のように複数チップを接続する技術の登場で、『前工程』と『後工程』の境界が曖昧になり、『中工程』ということが言われ始めました。そこでの存在感確保は我々としても狙っていきたい」と強調する。

3代目の木下和洋社長は入社以来、一貫して管理畑を歩んできた

ずぶの素人が社長。だからこそ、「技術屋」の活躍の場が広がる

アオイ電子は1969年に、初代社長の大西通義氏が創業した。カーボン皮膜固定抵抗器を皮切りに、トランジスタ、ダイオードなどの生産を通して成長してきた。2013年には半導体メーカー「ルネサスコンポーネンツ」の孫会社「ルネサスハイコンポーネンツ」の株式を取得し、「ハイコンポーネンツ青森」として完全子会社化。2016年には「青梅エレクトロニクス」を同じく完全子会社化した。

木下社長は創業者の大西氏、2代目の中山康治氏(現会長)に続き、2022年6月に3代目社長に就任した。1980年の入社以来、総務部長、取締役管理本部長と一貫して管理部門を歩んできた。

「私自身はトップには技術屋が座るべきだと思っていました。2代目の中山は技術屋一筋。中山は技術・営業、私がその下で管理本部長や常務として、組織の管理・財務・法務等の分野を引き受けて二人三脚で進めてきました」

ただ、「トップが優れた技術者だと、変な言い方をすると『おんぶにだっこ』になってしまい、『トップに従っておけば大丈夫』という雰囲気になってしまいがち」とも感じていた。就任時には社員、特に技術系の社員にむかって「ずぶの素人がトップになる。社長にお任せではだめ。だから皆さんの活躍の場は広がるはずだ」と発破を掛けた。

就任から1年。今もその考えは変わらない。「とにかく若手、特に若手技術者を登用していこうと思ってやってきた。組織的にも執行役員等充実させることができた」と振り返る。

東工大、阪大、東北大、他企業とタッグ。市場に先手を仕掛ける

コロナ禍からウクライナ戦争、中国の不動産バブルの崩壊などの影響で、半導体業界も22年後半から不況期に入ったという。木下社長は「在庫調整は今年上半期ぐらいでいったん終わり、2024年にはV字回復もありえると思います。ただ、中国が後工程の会社を猛烈に増やしています。不況以前の全てが我々のもとに戻ってくるのか。市場は戻ったけれど受注は戻ってこないという懸念が残ります」と指摘。先を見て動いていくことの重要性を強調する。

「チップレット」は、半導体の世界で日本が再び存在感を取り戻すカギを握れるか

今、積極的に進めているのが大学や他の企業との連携だ。「チップレット」の集積技術については、東京工業大学が中心となって発足させた共同研究に参画し、開発を進めている。2022年10月には東京工業大学、大阪大学、東北大学が中心となりアオイ電子を含む30近い企業も加わった「チップレット集積プラットフォーム」が発足し、市場に向けて新たな「チップレット」集積技術を提案している。

「半年ほどの間に、国際的な学会で5回の発表を行いました。こうした場を通じて、お客さんにデータを提供し、意見を聞いたり、反応を見たりすることが重要です。反応は上々。特に海外メーカーの反応が早いですね」

「人材育成を怠れば、将来の戦力を失う」。人材開発室は社長直轄

地方に拠点を置く企業として、一番の課題は人材の確保だ。

新卒採用では地元出身者のUターン、四国内のIターンが中心で、岡山、広島なども含め近県の大学の工学部などにもアプローチしているが、厳しい状況に変わりないという。このため、「東京に研究拠点を設けることも検討している」(木下社長)という。

力を入れているのは人材の育成だ。「人材育成を怠ることは将来の戦力を失うことだ」と木下社長は強調する。22年1月には社長直轄の人材開発室を新設。従業員の力量を公平・公正に評価しながら、各々の能力、技能アップを図る方策を検討している。各部門ごとに「教育委員」が任命され、月1回の「教育委員会」には社長、常務も出席し、プログラムの策定などに取り組んでいる。

社員に何を求めるのか。木下社長はこう続ける。

「本社や工場は高松にありますが、地元にいたのでは駄目です。情報はどんどん外に取りに行かないといけない。若い技術者はどんどん外に出て、「face to face」で顧客企業や技術者たちと人間関係を築いてほしいと言っています」

香川県高松市の本社。ここを拠点にグローバル展開を目指す

世界で商売、香川に外貨。「地元でじっとしている企業じゃない」

ただ、地元への貢献には、創業以来、心を砕いている。2015年に創業者の大西氏が私財を投じて、公益財団法人「大西・アオイ記念財団」を設立。地元出身の大学生や県外出身で地元大学に通っている大学生らに、返済不要の奨学金を支給している。2022年度は、コロナ特別奨学金も含め、約1億円を支給した。

また、同氏が茶道に造詣が深いことから、「大西・アオイ記念館」を拠点に茶道を中心に日本文化の普及、啓発活動を実施したり、香川大学と共催で小学生対象のサイエンスクラブを設立し、工作・実験教室を展開したりと活動している。

木下社長は地域におけるアオイ電子の存在意義について、こう強調した。

「我々の顧客は県内にはゼロです。四国全体でも1社だけです。県内で社員を集めて、部品もできる限り県内で調達し、全て県外で売っています。香川を拠点にして世界で商売をして、香川に外貨を稼いでくる。地元に根ざしているけれど、地元でじっとしている企業じゃない。どんどんと外に打って出ます」

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.aoi-electronics.co.jp/▽社長=木下和洋▽社員数=1696人▽創業=1969年