政策特集今、使える中小企業支援策 vol.3

中小企業の大胆なビジネス転換を後押し 事業再構築補助金

新型コロナウイルスの感染拡大やデジタル化の進展など、中小企業を取り巻く経営環境は大きく変化しています。従来のビジネスモデルを踏襲するだけでは成長が難しいケースも生じています。こうした中で、中小企業が新市場を開拓したり、ビジネスを転換したりする取り組みを後押しするのが「事業再構築補助金」です。

コロナ禍で航空機部品の需要低迷 半導体関連市場に新規参入

事業再構築補助金は、事業拡大につながる設備投資などに対し、100万円から最大5億円までを補助します。中小企業が大胆に事業を再構築して成長できる土台をつくってもらうことが狙いです。この制度を利用し、成長分野に新規参入した事業者のケースをみてみましょう。

阪神工業地帯の中心部に位置する部品メーカー、ゼロ精工(兵庫県尼崎市)は、国内外の大手メーカーを顧客として、フォークリフト、農業・建設機械、航空機などの部品を製造しています。2021年4月に、新事業として半導体製造装置の部品生産を開始しました。

コロナ禍による旅客数の大幅減により航空機関連の市場が落ち込み、ゼロ精工の航空機部品の受注は月額ベースで前年に比べて9割も減少した時期がありました。佐藤雅弘社長は、「航空機部品にかわる新たな収益の柱を育てる必要性を痛感した」と振り返ります。

そこで着目したのが、将来的な成長が期待できる半導体市場でした。特に半導体製造装置はアメリカに次いで日本がオランダとともに 高い国際競争力を維持している分野です。佐藤社長は、得意の精密加工技術を生かし半導体製造装置の部品生産を主力事業の一つに育てたいと考えました。

ただ、しっかりとした体制作りには、製造機械の導入をはじめ多額の設備投資が必要になります。これを後押ししたのが、事業再構築補助金です。ゼロ精工は、補助金を活用して新しい製造機械を導入し、半導体製造装置の部品生産を本格化しました。最新かつ高性能の機械の投入により、ゼロ精工の生産技術が向上しました。

「事業再構築補助金を活用し、半導体製造装置という成長分野で新事業を確立できた」と佐藤雅弘・ゼロ精工社長

航空機部品の製造で培ったゼロ精工の高度な精密加工技術は、最先端の半導体製造装置向け部品の生産でも強みとなっており、大手メーカーからの受注を獲得しています。受注している半導体製造装置向け部品も当初の2種類から30種類まで拡大しました。

半導体製造装置向け部品という新たな事業の柱が育ったことで、航空機関連の受注減少分をカバーし、ゼロ精工の2023年3月期の売上高は、過去最高となりました。佐藤社長は「事業再構築補助金の活用で、成長分野である半導体製造装置向け部品の生産体制を整えることができ、今後に向けてより前向きな経営戦略を打ち出せるようになった」と話しています。

新市場開拓、業態転換… 中小企業の多様な資金ニーズに対応

中小企業庁では、社会や経済情勢が変わる中、前向きな事業転換や事業再編を支援しています。事業再構築補助金は、2021年3月に第1回の公募を開始し、現在第10回の申請を6月末まで受け付けています。今後も継続的に公募を行う予定であり、積極的に活用してほしいと考えています。

事業再構築補助金は、新市場進出、事業・業種転換、事業再編など事業再構築のために必要な建物の建築、機械装置導入といった費用が補助対象となります。事業類型は6つあり、成長分野への事業展開を支援する「成長枠」、国内市場の縮小をはじめとする構造的な課題に直面している事業者向けの「産業構造転換枠」、コロナ禍、物価高で業況が厳しい事業者向けの「物価高騰対策・回復再生応援枠」など、多様なニーズに対応しています。

「成長枠」は、市場規模が10%以上拡大するなど成長が見込まれる業種・業態への事業展開に取り組む事業者を対象としています。「産業構造転換枠」は、10%以上の市場規模の縮小が見込まれる業種・業態に属する事業者が、他の業種・業態の新規事業を実施する際に利用できます。「成長枠」、「産業構造転換枠」の対象業種・業態*は、事業再構築補助金事務局のHPで公開されています。

*経済産業省「工業統計調査」、経済産業省「企業活動基本調査」や業界団体などによる申請により指定するもの。対象業種・業態指定リストは随時更新。

応募申請に際し、事業者は3~5年の事業計画を作成して、認定経営革新等支援機関 の確認を受ける必要があります。事業計画には、自社の強みや弱み、事業再構築の必要性、具体的な新規事業の内容、スケジュールや資金調達計画などを記載します。認定経営革新等支援機関として、全国で金融機関、支援団体、税理士、中小企業診断士などが約4万者認定されており、身近な存在として相談・支援を受けることができます。

また、コロナ禍で売り上げが低迷した結果、事業構造を見直してピンチをチャンスに変えようとする中小企業が増えています。中小企業を取り巻く経営環境は、たとえコロナ禍がなかったとしても、人口減による内需の縮小、デジタル化やグローバル化、気候変動への対応などを背景に、厳しさを増しています。中小企業庁では、市場のニーズに合わせた中小企業の大胆な事業再構築を後押しすることが、日本経済の底上げにつながると考えています。

事業再構築補助金を活用して購入したゼロ精工の製造設備。工程の集約や生産ラインの自動化などで納期を短縮できる

【関連情報】

事業再構築補助金事務局ホームページ