【新潟発】人気アウトドアブランドのルーツは台所用品…「何でも作ってみる」が花開く
新潟県三条市 パール金属
金属加工品の名産地として知られる新潟県・三条市。この地で1967年に創業したパール金属は昭和の時代に、バラ柄が入った鍋やおたまなどのキッチン用品が多くの家庭で愛されるなど、長らく調理器具メーカーとして親しまれてきた。
ところが、現在は約400億円の売上高のうち、約3割をアウトドア用品が占めている。「キャプテンスタッグ」のブランドで、バーベキュー用品からテント、自転車、カヌー、ガーニング用品に至るまで豊富な品揃えを展開し、幅広い支持を集めている。
台所用品メーカーがなぜアウトドア用品の開発・販売に挑み、どのようにして成功を収めたのか。これまでの歩みと今後の戦略を髙波文雄社長に聞いた。
キャプテンスタッグの原点、バーベキューコンロ誕生のきっかけ
パール金属がアウトドア用品の開発を始めたのは1975年。市場調査でアメリカを訪れたとき、庭先でバーベーキューをする光景を見て、髙波社長はひらめいた。アウトドアのカルチャーを日本に合ったコンパクトな形で展開できないものか?――帰国してすぐ、開発を始めた。
最初に使用したのは、なんと「金属製の玄関マット」。河川敷にレンガで囲炉裏を組み、ブラシを剥ぎ取り金網状にした玄関マットの上で豪快に肉を焼いた。それから開発に打ち込むこと1年――翌1976年にアウトドア用品 の第1号「バーベキューコンロA型」が発売されると、爆発的なヒットとなった。髙波社長は言う。
「パール金属のモットーは“挑戦”と“努力”。まずは、なんでも作ってみる。しかし、挑戦だけでは足りません。作ったら、責任を持って売る努力をすることが大切。その商品のなにが素晴らしいのか、きちんと熱量を持って発信し、伝える。そして、ひとつヒット商品が生まれたら、その関連商品が次々に売れる。そうしてまた、新たなアイデアや挑戦に臨めるんです」
新商品は年3000点にも。空振りでも得るものはある
現在、年間2000~3000点もの新商品を開発。中にはヒットに至らない商品もあるが、一点として作って無駄な商品はないという。なぜなら、エンドユーザーの反応を営業部隊が吸い上げ、社内に集積されていくからだ。
「一点の商品を開発すると、それを売るだけでなく、お客様のニーズやご意見が集まる。なにが足りないのか? なにが欲しいのか? その“足りない部分”が重要なんです。足りなければ作ればいい。足りないことは、ものづくりにとって最良の状態なのです」
1995年には新潟市にアウトドア専門ショップ「WEST」をオープンし、現在、4店舗を展開している。最前線に立つ販売員も社員が務める。開発、製造だけでなく、販売にまでリーチすることで、良質なフィードバックが社内に還元される。
「店舗ではキャプテンスタッグはもちろん、ザ・ノースフェースやスノーピークなど人気メーカーの商品も扱っています。それらを横断的に比較し、お客様の生の声を聞いている社員からの意見や提案は非常に重要です。『なにかあったら私に直接言って』といつも伝えています。ここの風通しが悪いと、新しいアイデアも生まれづらく、循環していきません。ただ、私も開発陣のひとりに過ぎないので、品質管理部からダメ出しされることもありますが(笑)」
髙波社長自ら陣頭指揮をとり、風通しのよい組織体系を構築したことが、パール金属の圧倒的な商品開発力を支えているようだ。
「なんでも作ってみる」は次々拡大。制作したキャンプ本は完売
また、このパール金属の「なんでも作ってみる」という企業風土は、三条市の持つ特性にも支えられている。
「三条市というと金属加工のイメージですが、私の父が木工職人だったように、木工、プラスチックなどの製造会社が、なんでも揃っているんです。だから、アイデアを具現化するスピードが早い。地域の300社のパートナー企業と提携し、通常なら難しい小ロットでの製造も可能です。『困ったことがあれば何とかする』のがパール金属の精神。たとえば、レーシングチームから運転席の冷却システムの開発を頼まれたことがありました。一点ものの金型が必要で、大手のメーカーからは無理だと断られてしまったそうですが、パール金属でお引き受けして、大変喜んでいただけました」(髙波社長)
さらに、「なんでも作ってみる」の精神は、製造業的な側面だけに留まらない。デザインや広報、イベントなどを「自分たちでやればいい」と次々に内製化。新潟県に特化したキャンプ本をすべて自社スタッフで制作すると、5000部があっという間に完売した。もはや金属製品メーカーという枠組みにとらわれることもない。
そして昨年、国内のアウトドア熱の高まりを背景に、新工場が稼動させた。こちらは“技術の内製化”とも言える取り組みだ。
「三条市のものづくりを支えている精密機器類は、それを使いこなすのにも熟練の技が必要になります。ですが、それらを持つパートナー企業にも高齢化の波が押し寄せており、約3年間、社員を派遣して修業してもらいました。こうした準備を経て、精密機器類とそれを扱う技術を継承した新工場が完成しました」(髙波社長)
単なるメーカーではなく、開発・製造・広報・小売まで、なんでも手がけることができるパール金属には、自然と若者も集まる。髙波社長は言う。
「足りないものがあるのなら、それを嘆く前に、新しいものを新しい力と作ればいい。それがひいては、新潟県全体の活気を取り戻すことになると信じています」
▽公式サイト=https://www.p-life.co.jp ▽キャプテンスタッグ=https://www.captainstag.net/ ▽社長=髙波文雄 ▽創業=1967年 ▽売上高=400億円(グループ合計 約550億円) ▽社員数=650名