政策特集加速するヘルスケア産業 vol.6

森保監督「健康と組織」を語る。各々の能力を全開にする3つの基本

サッカー日本代表監督の森保一さんが3月、従業員の健康を経営的な視点で捉え、戦略的に実践する健康経営で、すぐれた企業を表彰する「健康経営アワード2023」にプレゼンターとして出席した。

組織として成果を出すために、どのようにしたらメンバーの力を最大限引き出すことができるのか。代表チームを躍進に導いた名将の口からは、ビジネスパーソンにとっても参考になりそうな言葉が飛び出した。

ヘルスケア産業を考える今回の連載の特別編として、スピーチの模様をひもときながら、お届けする。

森保一 サッカー日本代表監督 健康経営 健康経営アワード2023 プレゼンター

組織マネジメントのポイントは?

いいコンディションをつくる。トレーニング、栄養、休養をバランス良く

私はサッカーというスポーツの監督をやっていますが、経営されている会社・組織で働く方々に対して、健康な心身を維持するための取り組みを推進しているマネージャーの皆さんと、立場的には何となく似ているのかなと思っています。皆さんは、業績やこれまでの歴史といったものと向き合いながら、社員の方々の健康にも目配り、気配りをしつつ、企業として成長させていると思いますが、私も、選手が心身ともにいいコンディションで試合に臨めるよう、トレーニングの成果を発揮できるよう、日々、コーチの協力を得ながら、組織をマネジメントしています。

サッカーにおけるコンディションづくりには、3つの基本要素があると思っています。トレーニング、栄養、そして、休養です。

トレーニングの時間をどうするか、量をどうするか。試合の目標に向けて、どうやって選手にトレーニングを積んでもらうか。どういうものを体内に取り込みながら、トレーニングに備えるかなどを日々考えています。よい休養をとれているかどうかでは、主観的に見ることと、客観的に見ることをやっています。睡眠時間や血液内の疲労物質の残り具合等々、メディカルスタッフの力を借りながら、選手の状態をチェックしています。

また、トレーニングとプライベートでのオンとオフの使い分けというところで、選手たちの環境を整えています。選手たちが集中したトレーニング、質のいいプレーをするためには、いい休養が必要です。

栄養に関しては、選手たちも今、アスリートとして非常に勉強しながら、自分の体づくり、パフォーマンスをどう上げていくかということは考えてくれています。我々は海外での活動が多くなりますので、そこに日本の食材を持ち込み、専属のシェフにグローバルな食材とは別に、何品か日本食をつくってもらって、ふだん家庭で食べているような物を選手に提供するという環境づくりをしています。量も食べられて、バランスよく食べられて、体づくり、コンディションづくりに役立っています。

食事会場は、選手たちの体調を知るいい場所となっています。疲労でふだんと食べる量が違っているか、いつもしゃべっているのに今日はあんまりしゃべってないといったコミュニケーションの様子などを我々スタッフが見て、選手たちのコンディションを把握できます。皆さんでいえば、食堂みたいなものでしょうが、そういうところも、我々は環境づくりをしています。

皆さんも同じように、業務、栄養、休養は、恐らく、トレーニングのところが違うだけで、同じサイクルかなと思っています。業務のパフォーマンスの質向上はもちろん、労務管理の改善や社員食堂の充実、社員全員での運動などの形で取り組まれた成果が、健康経営につながっていると感じています。

システムやマニュアルより大切なこととは?

元気な体、マインドがあって100%のパフォーマンスを発揮できる

我々と皆さんは異業種ですが、同じだということは、ほかにもあると思います。それは、どんなに優秀なシステムやマニュアル、ルーティンをつくったとしても、それを運用する、実行する社員の皆さんの元気な体、フレッシュなマインドがなければ成り立たないということです。私が向き合っているサッカーというスポーツも、何ら変わりはないと考えています。

我々サッカーも、どんなにすばらしい戦術があっても、どんなにすばらしい分析をして相手と戦ったとしても、実際にプレーする選手たちが、メンタル的にもフィジカル的にもしっかりしなければ相手に打ち勝っていけないということは、皆さんと同じことが言えます。目標とする試合に向けて、選手たちが100%、パフォーマンスを発揮することから逆算すると、心身のコンディションをまず整えることが本当に大切であるということは、私の経験から得た答えの一つです。

皆さんの取り組みも一見、それぞれの業務にフォーカスしてみると、直接的な影響はないと判断されてしまうかもしれませんが、中長期的な視点に立てば、社員の皆さんが元気に、活気にあふれ、欠勤することなく働いてくれることが、会社の成長にもつながるのではないかと考えています。これからも、業務だけにフォーカスするのではなく、社員の皆さんの心身の健康にも目配り、気配りをしていただき、経営に携わっていただければと思っています。

より健康になるためのオススメは?

サッカー観戦で感情さらけ出し、ストレス解消

サッカーの観戦をして大声を出す、一喜一憂しながら、喜怒哀楽をさらけ出す、感情をさらけ出すというところも、皆さんや、皆さんが大切にされている社員の方々にもしていただければなと思います。もう本当にストレス社会で、大変な思いをしながら日々仕事をされている、日常生活を送られていると思いますので、サッカーは見ることでストレスを解消できる一つのコンテンツとして考えていただければ、本当にうれしいと思っています。

皆さんの健康施策に、サッカーの観戦も、ぜひ一つ選択肢として取り入れてください。

森保一 サッカー日本代表監督 組織マネジメント 健康経営 コンディションづくり 健康経営アワード2023 プレゼンター

サッカー日本代表監督の森保一さんは、組織マネジメントにおけるメンバーのコンディションづくりの重要性を強調した


※本特集はこれで終わりです。次回は「新社会人必見 経済政策5つのキーワード」を特集します。