METI解体新書

省エネを一歩前へ

中嶋 佑佳:資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 省エネルギー課 総括係長。省エネ政策を担当する課のとりまとめを担当。

【省エネルギー課】

経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。

今回は、資源エネルギー庁で主に省エネルギー政策を担当する、省エネルギー課の中嶋佑佳さんに話を聞きました。

より一層高まる省エネの必要性

――― 中嶋さんが所属する局・課はどんな政策を行っていますか?

中嶋:資源エネルギー庁は、石油、電力、ガスなどのエネルギーの安定供給政策や、省エネルギー・新エネルギー(太陽光、風力等)政策を所管する経済産業省の外局です。

私は、省エネルギー課で、主に課内業務のとりまとめを担当しています。特に最近では、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」の改正や、企業や家庭で省エネをより一段と進めるための予算事業への対応を行っています。

――― そもそも、なぜ「省エネ」が必要なのでしょうか?

中嶋:石油や石炭、天然ガスなど、限りあるエネルギー資源を効率よく使っていくことは重要であり、また、省エネすることでエネルギーコストを抑えることができるので企業の生産性向上にも繋がります。短期的には昨今のエネルギー価格の高騰により、省エネは今まで以上に注目されています。また、それに加え、中長期的にはCN(カーボンニュートラル)の実現に向けても必須の取り組みで、省エネを通じてエネルギー由来の二酸化炭素を減らすための対応が求められています。

省エネ法改正による新たな仕組みの導入へ。脱炭素へ向け業界と真剣に議論

――― 具体的にどのような政策を行っているのですか。

中嶋:2050年CNの実現という課題に対応していくために、エネルギーの需要サイドの取り組みとして、今までの“省エネ(=いかにエネルギーを効率的に使うか)”という観点だけでなく、非化石エネルギーへの転換を促していく観点も重要になっています。これを推進するために行ったのが、省エネ法の改正です。省エネ法ではこれまでも、年間一定以上のエネルギーを使用する企業などに対して省エネの取り組みについての中長期計画の提出や定期報告を義務付けてきましたが、今回の改正により、非化石エネルギーへの転換等についても、報告を求めることとしました。特に、非化石エネルギーへの転換については、エネルギー多消費産業である5業種(鉄鋼・化学・セメント・製紙・自動車製造業)について、2030年までの非化石転換の定量目標についての目安を設定しました。例えば、セメント業に対しては、国として「2030年にキルン(セメント業界特有の回転窯)等で使用する非化石燃料比率を28%とする」という定量的な目標の目安を示しており、企業に野心的な取り組みを求めていきます。

――― 企業の立てる非化石エネルギーへの転換の目標について、目安の数値化という、一歩踏み込んだ改正を行ったのですね。業界の方と数字を決めていく上で、大変だったこと・何か意識したことはありますか。

中嶋:一番難しかったのは、各業界に目安として示す水準として、“どのくらいが適切なのか”を探るところです。業界が高い目標に慎重になる中、寄り添いすぎて甘い目標になっても目安を設定する意味がありませんし、かといって現実離れした目標を立てても、産業を苦しめるだけでこれも意味がありません。業界の方々と議論を重ねながら、最後まで悩んだ部分でした。業界の方々の意見をよく聞き、難しいと言われていることについて、その理由を深掘りし、議論を進めていきました。まずは私自身が業界について勉強することから始め、また自分の目で現場を見るため実際に工場にも行かせてもらいました。理解ができるまでとことん業界の方から教えていただき、その上でどこに本質的な問題があるのか探り、自分の意見をぶつけ、繰り返し対話を行いました。

また、そもそも最初は、非化石転換についての目標の目安を具体的に数値化することに対し、少なからず業界からの反発もありました。突然、“数字を決めます”と言われたら困ってしまうのは当然のことだと思います。なんとか道を探れないか、複数の代案を準備し、粘り強く交渉したため、業界の方にもその本気度が伝わり、話を聞いてもらえたと思っています。最後は業界の方とも腹を割って話せるようになり、信頼関係を築けたと思えたときは、純粋に嬉しかったです。立場が違う人との交渉は、私にとっても貴重な経験となりました。

様々な切り口で、企業や家庭の取り組みを後押し

――― 省エネ法の改正の他に、企業や家庭に対し、どのように省エネを訴求していきますか。

中嶋:補助金を通じて企業や家庭の省エネを促すための支援を行っています。昨今のエネルギー価格高騰などを受けて、令和4年度補正予算において、企業向け・家庭向けに、大規模な支援策を詰め込んだ「省エネ支援策パッケージ」として、省エネ施策を抜本的に強化しました。
企業向けには、省エネ設備への更新を支援する「省エネ補助金」について、3年間で5000億円規模という額の大きさに加え、企業の複数年度にわたる投資計画に対応する形で支援できる仕組みにしました。ややマニアックな話になりますが、国の事業では予算が年度ごとに区切られていて、これまで1年単位での支援しかできなかったため、複数年度への対応は画期的なことなんです。企業の思い切った設備投資を支援できるため、ぜひ活用していただきたいです。そのほか、主に中小企業の方からは、どう省エネしたらいいかわからない、といった声も多く伺うので、それぞれに合った省エネに取り組めるよう、専門家によるアドバイスを行う「省エネ診断」という事業も行っています。企業のエネルギー使用状況を見える化し、コストをかけずにできる省エネも含めて提案する事業となっており、これも多くの中小企業に活用していただけるよう、事業を拡充しました。

また、家庭向けにも、家庭でのエネルギー消費量が最も多い給湯器の高効率化や、省エネ効果の高い断熱窓への改修をする場合に、その経費の一部を補助する事業を行っています。皆さんにもまずは省エネへの取り組みに興味を持っていただき、できることから始めてもらえたらと思います。

――― ご自身が意識している省エネの取り組みを教えてください。

中嶋:意識して電気をこまめに消すようになりました。使用していない電気は徹底して消しています。夏はエアコンの温度を下げすぎないよう、卓上扇風機を利用したり、冬は職場でも自宅でも重ね着をして温かくしています。

――― 最後に、休日の過ごし方を教えてください。

中嶋:温泉旅行が好きで、国内の有名な温泉地巡りを楽しんでいます。学生時代はラクロス部で練習に明け暮れていたため、社会人になってからは旅行をする時間をたくさん作っています。鳥取県でラクダに乗ったことも楽しかったですが、次はタイ旅行で象に乗りたいと思っています。

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