政策特集繊維が紡ぐ未来 2030年に向けた繊維産業の展望 vol.2

「着て→捨てる」なんて古い。YKKの映えるユニホームは循環する資源の再生品

「脱炭素」の取り組みがグローバルに進む中、繊維産業でも収益力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図るSX(サステナビリティー・トランスフォーメーション)が進んでいる。とりわけ、EUは近年、新たな資源を使わず、廃棄を極力減らしながらビジネスを回していくサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進。2022年3月には、「持続可能な循環型繊維製品戦略」を公表し、繊維産業のサステナビリティの動きが加速している。

こうした動きを受け、日本国内の繊維産業でもサステナビリティの動きが活発になり始めた。経済産業省でも2021年に「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」を設置し、同年7月に報告書をまとめ、今年1月からは「繊維製品における資源循環システム検討会」を開始し、取り組みを後押ししている。YKKもそうしたサステナビリティ推進に力を入れる企業の一つ。同社で「社服」と呼ぶ、従業員の着るユニホームを2021年4月、28年ぶりにリニューアルした際、サステナビリティ推進にかける同社の熱意を込めたという。

リニューアルされたユニホームは、YKKグループの一体感醸成にも寄与するデザイン。デザインは性別や職種に関わりなく、まったく同じ

CO2排出、水の大量使用…「現状に一石を投じたい」

HANAE MORIのクリエイティブデザイナーを務める天津憂さんのデザインした、ブルーを基調にしたユニホームは性別や職種に関わらず同じデザインで、「シュッとした」印象。「見た目もスマートだし、機能的」と実際に着用している社員の評判も上々だという。

「ユニホームを全面的にリサイクルし、そのリサイクル糸から再びユニホームを作ることで、サーキュラーエコノミーの実践に挑戦しています」と、同社の環境・エネルギー管理室で環境推進グループ長を務める村重誠吾さんが教えてくれた。2018年1月に社内にユニホームのリニューアルプロジェクトを設け、約1万4000人の従業員へのアンケートやデザインに関する投票などを行い、最終的な仕様を決めていった。その際、YKKらしさを表現したデザインや機能性の追求に加え、ファスナー、面ファスナー、バックルやスナップ・ボタンなどを作るメーカーとして循環型社会への取り組む姿勢を盛り込むことも大きなコンセプトにした。

環境省の調査によると、国内で1年間に供給される衣服の製造から廃棄までの工程で排出される二酸化炭素量は推計9500万トンで、中小国1国分の排出量に匹敵するという。製造の際に水も膨大に消費する。その一方で家庭や事業所から手放された衣類で、リユースやリサイクルされる割合は約35%にとどまっているという。「そうした現状にアパレル業界にも関わる企業として、微力ながら一石を投じたいという思いもありました」と村重さん。

全国4,000の古着回収拠点を整備。「単線」から「循環」の流れ

YKKを創業した吉田忠雄氏は、「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」とする企業精神「善の巡環」を事業の基本とした。「その思いがユニホームのリニューアルにも息づいています」と村重さん。2020年には「YKKサステナビリティビジョン2050」を策定し、5つのテーマ「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」でそれぞれ目標を設定し、関連するSDGsの達成と2050年までの「気候中立」の実現を目指している。そうしたYKKの企業姿勢が今回リニューアルしたユニホームにも反映されている。

以前のユニホームにも環境に与える負荷の少ない「エコマーク」入りのものを使っていたが、着古したユニホームは産業廃棄物として処分していた。言ってみれば、「作って→着て→捨てる」単線型の流れを、今回はユニホームをリサイクルして新たな資源にし、ユニホーム等も一部原料とする再生ポリエステルの素材を使ったユニホームを導入するという「作って→着て→回収して→それを再⽣し、再生素材で作ったものを着る」という繊維to繊維の循環型の流れに変えた。

リサイクル事業を手がけるJEPLANがこのサービスを提供。同社は、⾼島屋などと連携して4,000を超す拠点で古着を回収 し、古着から新たな服を⽣産する「BRING」を運営している。そのユニホーム版となる「BRING UNIFORM」を活⽤。使⽤済みのユニホームを回収し、素材に応じた形でリサイクルを実施し、中でもポリエステル繊維については独自技術で分⼦レベルに分解した後に不純物を除去し、ポリエステル樹脂に再生して新たな服の原料とする。

「BRING UNIFORM」の概念図。着る→回収する→リサイクル→製品を作るという工程が循環する(ポリエステル繊維対象)

素材の違いなどによって回収した衣類を選り分けていく(写真は一般の衣類のケース)

「サーキュラーエコノミーのプラットフォームに」

会社所有のユニホームは着古して処分する際、産業廃棄物となるため、本来なら地方自治体毎に処分の許可が必要だが、広域認定制度を活用することで、自治体毎の許可が不要となり、全国にある工場などから一括してユニホームを回収して、効率的に再生することができる。ユニホームには繊維to繊維のリサイクルで作られた製品であることを示す「BRING」のタグを付け、ユニホームを着た従業員がサステナブルな取り組みに参加しているという意識を高めることにも一役買っているという。

福岡県北九州市にあるJEPLANの響灘工場でユニホームは選別され、ポリエステル繊維が再生ポリエスエルにリサイクルされる

このシステムを担当するJEPLAN営業業務部の小柴雄祐さんは「取り組みは始まったばかり。このシステムに参加する企業をさらに募り、ユニホームを再生利用していくサーキュラーエコノミーのプラットフォームにしていきたい」と話す。YKKでは2022年1月から、グループ内の各拠点に使い終わったユニホームを回収する段ボール製のボックスを設置。「企業ユニホームから始めるサステナビリティへの貢献です」と、村重さんが話すようにサーキュラーエコノミーの環は徐々に、しかし着実に巡り始めている。

YKKの社内に設置されたユニホームの回収ボックス。工場など、動きの激しい製造現場では数か月でユニホームをリサイクルに出すこともあるという