自動運転で人、クルマ、社会の関係はどう変わる?
さまざまな「不足や危険」を「便利」に
能登半島の北西にある輪島市。豊かな緑と海に囲まれた人口約3万人の町で、2018年にも近未来を想起させる新たな交通システムの実証試験が動きだす。自動走行技術を活用した小型電動カートが観光地や病院、商業施設などを巡回。時に地域住民の移動手段として、時に観光客の輸送手段として活躍する見通しだ。
ラストマイルが高齢者と観光客を救う
1000年以上の歴史を持つ輪島朝市、祭りの熱い華やぎが伝わってくる輪島キリコ会館。さまざまな観光地を抱える同市には毎年多くの観光客が訪れる一方、市人口の高齢化率は約43%に達し、便利な交通サービスが求められていた。
これは経済産業省と国土交通省が進める「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業」の一環。産業技術総合研究所(産総研)が民間企業や大学と組んで技術開発を進めていく端末交通システム(ラストマイル)の実証だ。
輪島市のほか福井県永平寺町、沖縄県北谷町、茨城県日立市が実証地域に選定されており、将来の事業化を前提としている。
小型電動カートをヤマハ発動機、日立製作所、慶応義塾大学、豊田通商、ヤマハモーターパワープロダクツのグループが、SBドライブと日本総合研究所のグループが小型バスをそれぞれ開発しており、実証を通して車両や運航管理システムの課題、システム要件などを洗い出す。
ラストマイルのイメージはこうだ。鉄道の駅や観光地などに停留所を設置し、利用者はスマートフォンや専用端末などで自動走行車両を呼び出す。無人車両が乗客を目的地まで送り届け、再び別の停留所に向かう。無人車両による新しい移動サービスビジネスと言えるだろう。
「買い物弱者」を減らせ!
経済産業省によると流通機能や交通網の弱体化により日常の買い物が困難な「買い物弱者」は全国におよそ700万人に存在するという。1000万人に達するのは時間の問題だ。一方、政府は観光先進国を目指して「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定、2020年に訪日外国人旅行者4000万人の目標を掲げる。
訪日外国人旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境を整えつつ、高齢化などの社会課題を解決する手段としてラストマイルは極めて有効だ。ここで重要になるのが「事業性」と「社会受容性」だ。
日立市の実証では日立電鉄線の廃線跡に開業されたBRT(バスラピットトランジット)を利用し、自動走行技術を採用した小型バスを運行する計画。高齢者や学生の交通手段となっているが、継続していくには運営コスト低減が必要だったという。運営主体と地域住民がともに満足できることがラストマイル普及の鍵を握る。
今後、ますます深刻化するドライバー不足。トラックドライバーは2020年にも10万人規模で不足するとの見方がある。ドライバー1人当たりの輸送量を向上する革新的技術「隊列走行」の実用化は物流業界の救世主になるかもしれない。
先頭車両をドライバーが運転し、後続のトラックを電子的に連結して隊列をつくる、さながら“陸の貨物列車”だ。2020年度に新東名高速道路での後続無人隊列走行の実現に向けて、2018年から実証が始まる。
自動ブレーキ9割以上へ
自動運転技術は人手不足や移動弱者の解消にとどまらず、高齢ドライバーによる痛ましい交通事故の低減にもつながる。75歳以上運転者車の死亡事故は、正面衝突、人対車両、追突などが7割を占め、ハンドル等の操作不適が原因の死亡事故が多い。
自動走行の基礎的技術の一つである自動ブレーキは高齢者に限らず、すべての運転車の交通事故防止につながる。政府は自動ブレーキの新車搭載率を2020年までに9割以上とし、「セーフティ・サポートカー(サポカー)」の愛称で普及啓発していく。
政府は2025年の自動運転社会の到来を見据え、2020年までに完全自動運転を含む高度な自動運転の市場化、サービス化の実現を目標として設定した。
先端技術で日本がけん引役に
経済産業省はレーダーやカメラ、レーザースキャナーなどの車両技術の進化を制度やルール、開発インフラの整備で支え、官・民・地域が手を携えながら「技術」「事業化」で世界最先端を目指す方針だ。
政策の重要な課題は協調領域の最大化だ。中核技術であるの認識、判断技術を巡る国際競争は激化している。また、自動走行に必要なソフトウエア人材も不足している。経済産業省は今後、企業間でアルゴリズム開発の基盤となる共用のデータベースの整備を進めるほか、開発に必要なシミュレーションに精通した人材の育成システムを確立する。
一方、ガラパゴス化を避けるために、ドイツ等と連携して自動走行用地図の国際標準作りを進めるほか、セキュリティー開発プロセスや安全性評価の仕組み作りの国際調和を主導する構えだ。