METI解体新書

伸ばせ対日投資!海外の活力を大胆に取り込む

菊池 沙織(右):投資促進課 課長補佐 総括担当。前職は資源エネルギー庁で、洋上風力発電を担当。
中村 誠 (左):投資促進課 課長補佐 投資交流担当。JETROから経産省に出向。2020年まで5年間、トルコに駐在。

【投資促進課】

経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。

第14回は、海外企業に日本への投資を促す、貿易経済協力局 投資促進課の菊池沙織さん、中村誠さんに話を聞きました。

「なぜ日本への投資か」。必然性を作る

―――  お二人の局・課はどんな政策を行っていますか。

菊池:貿易経済協力局は、貿易・投資の振興と規制の両輪を担当しています。投資促進課は、「振興」する方で、海外から資金や企業などを呼び込んで日本経済を活性化させることがミッションの1つ。「対日投資」といって、JETRO(日本貿易振興機構)と連携しながら、日本に投資したい企業の声を聞き、実際に進出するための支援をしています。

中村:2021年からは、J-bridge:ジャパン・イノベーション・ブリッジというプラットフォームを立ち上げて、外国のスタートアップと日本企業の協業支援を始めました。海外企業との連携で、新しいビジネスが生まれています。

―――  中村さんはJETROで対日投資に関わっていたとのことですが、経産省との仕事の違いは何でしょう。

中村:経産省に出向する前、トルコのJETROイスタンブール事務所に駐在し、現地企業の日本進出を促し、実際に2社の企業の日本進出をサポートしました。外国企業にとって、日本は数ある投資先候補の一つでしかないので、「なぜ日本に行くのか」という必然性をインプットしないといけません。魅力を伝える努力はもちろんしますが、魅力そのものを作るのは今の仕事です。課題を解決し、魅力の中身を作り、環境を整えることで、現地の職員も営業しやすくなる。経産省の大事なミッションとして取り組んでいます。

菊池:JETROが現地で実際の企業の声を聞いて、ハンズオンで進出をサポートし、経産省は問題意識を吸い上げて政府の方針や制度に反映するよう調整しています。企業の声を政策に反映するのは経産省の大事な役割です。

サプライチェーン強靱化とイノベーション創出、カギは対日投資

―――  日本への進出につながった具体的な例はありますか。

菊池:当課だけではなく経産省挙げての成果として、半導体などの重要な分野を政府がしっかり支援することを打ち出し、TSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場の誘致につながりました。エネルギーの分野では、私も前職で担当していたのですが、洋上風力発電設備の工場誘致のため、日本の目指す市場規模をビジョンとして示し、欧州などの風車メーカーの進出を後押ししています。今後の対日直接投資推進への方策をまとめた「対日直接投資促進戦略」では、デジタル、グリーンなど重要分野を設定していて、戦略に沿った企業を重点的に誘致しています。

中村:JETROが日本への進出を支援した外国企業は、これまで累計2,000社以上です。例えば、倉庫向けのロボットピッキングシステムを開発する、フランス発スタートアップのロボットメーカーExotecという企業。同社の自動ピックアップシステムは、手作業でのピッキング作業に比べて、最大5倍の生産性の向上を実現することができ、ファーストリテイリングなどが導入しています。海外の技術や視点の取込むことで、日本企業にとって生産性や競争力の向上につながる可能性があるんです。

Exotecのロボット。倉庫の商品を取り出して運ぶ(提供:EXOTEC NIHON株式会社)

―――  他方で、国際的に見ると低い水準と言われる対日投資。課題と日本の強みは。

菊池:複合的な要因がありますが、日本語の壁を含む日本市場の閉鎖性や、グローバルなマーケットに慣れている人材の確保が難しいという声は聞きます。

中村:日本は「人口が伸び、自然と市場が拡大していくことが明らかな国」ではないので、日本としての価値をどう伝えるかが重要です。例えばターゲットとなる市場の規模や魅力が分からないと海外企業は進出しません。でも、実は日本の一部の地域だけで、海外の一つの国に匹敵する大きなマーケットがある。また、ものづくり基盤も海外企業に魅力としてアピールできます。

IT・デジタルの分野でいうと、日本の「デジタル化」にむけた大きな流れも海外企業から注目されています。私がサポートしたトルコのデジタル関連企業も、日本のデジタル市場の拡大を見越し、「自社のデジタルソリューションで日本企業をサポートできる」と日本進出に踏み切りました。 日本の変化を伝えていくことが大事です。

円安、G7―止まっていた対日投資が動き出す

―――  水際措置の緩和に円安、対日投資には追い風です。

菊池:はい、日本への投資に関心を持つ海外企業に、実際に日本に来てもらうチャンスと思っています。やっぱり、現地を見ないと企業も投資を決定しづらい。11月に閣議決定された、「経済対策」を実行するための補正予算案に、日本の投資環境のプロモーションと海外企業を招へいする費用を計上し、準備を整えました。岸田総理も、ロンドンやニューヨークで、日本への投資を呼びかけています。来年春には日本でG7が開催されるので、その機会も捉えて、投資環境の魅力を伝え、対日投資を後押ししていきたいです。

―――  お二人から見たこの仕事のやりがいと課題を教えてください。

中村:対日投資自体が目的ではなく、対日投資によってイノベーションを起こすことや海外経済の活力を取り込むことが政策の目標。他省庁や他課室との連携は大事な点です。外国企業が日本をどう見ているか、外国企業との連携によりどういった効果が期待できるか、という点を政策の決定過程で伝えられることは、これまでの経験が生きて良かったと思います。

菊池:海外から技術や資金を呼び込む「対日投資」が、日本でのイノベーション創出や日本経済全体の成長につながる、という視点は、投資促進課ならでは。しっかり伝えていく必要があります。

―――  最後に、週末の過ごし方を教えてください!

菊池:夫が四国に赴任中なので、瀬戸内海の島巡りなど四国観光を楽しんでいます。前職で洋上風力を担当していた時に、造船会社とお話しする機会も多かったので、造船が盛んな地域を見ることができて楽しいです。

中村:私は最近、トルコドラマにはまっており、つい見てしまいます。トルコって世界第2位のドラマ輸出国なんです。実は日本のドラマもリメイクして海外で売っています。ドラマとしても面白いし、世界と日本の連携についても考えさせられます。

【関連情報】

経済産業省 対内直接投資の推進

ジェトロ 対日投資