地域で輝く企業

このハンドソープ見たことあるかも。廃食用油回収で広げた循環の輪で、SDGsを先取り

浜田化学 兵庫県尼崎市

ネットで販売されている医薬部外品のハンドソープ

使い終わった食用油が次々変身。消毒可能なハンドソープ、飼料、航空燃料に

日本全国の2万件を超える飲食店、コンビニ、食品工場、あるいは学校などから、料理などで使われて不要となった廃食用油が集まってくる場所が兵庫県尼崎市にある。1970年創業の浜田化学である。

代表取締役社長の岡野嘉市(おかのかいち)さんの父が、祖父が営む石けん製造業の原材料である油脂を手に入れるため、油の回収をスタートしたことが出発点となった。飲食業で使用した食用油の廃棄に困っていた食材卸会社とのつながりもあり、定期的に廃食用油を回収するシステムを構築。ときは大手外食チェーンが全国展開を始めた時期でもあり、事業規模が拡大する。

代表取締役社長の岡野嘉市さん。30歳で事業承継するまではアパレル関連の仕事に携わっていた。「最後の目標はニューヨークにアップサイクルのアパレルショップをオープンすること」

回収した廃食用油は、独自のノウハウで精製されハンドソープにリサイクルされた。

しかし、当初は、取引先の担当者からはけんもほろろに「臭いし、ベタベタする。こんなん使えるかぁ」と言われた。しかし、「何よりも殺菌作用はどうやねん?」との言葉をもらい、それならば医薬部外品の承認を受けようと決断し、その担当者とともに「このぐらいの臭いやったらいい、パッケージはこの方がええ」と協業して商品を改良。殺菌効果があり消毒が可能なハンドソープとして医薬部外品の承認も受け、構想から10年以上かかった商品だったが、販売を開始することができた。

「店舗から出る廃食用油がリサイクルハンドソープとして戻り、その店舗で使用するというコンセプトは、企業のSDGs への活動を支える商品として受け入れられ、今では多くのコンビニさんや飲食店に活用してもらっています」と岡野社長。消費者も知らない間に浜田化学のハンドソープを手洗いで使っているかもしれない。

浜田化学では、廃食用油のリサイクルは毎日約60t、ほかにも食品残渣のリサイクルとして天かすなども処理している。それでも「リサイクルされずに捨てられている油脂はまだたくさんある」といい、廃棄物になる前に有効活用する取り組みの研究開発にも余念がない。また、処理・加工された廃油はハンドソープ以外には、飼料やバイオディーゼル燃料などに生まれ変わっている。

全国規模の回収ネットワークで企業・工場の廃棄物削減・環境配慮に寄与

廃食用油を出す側の外食産業にチャレンジ

さらに、2016年には飲食業へのチャレンジに踏み出した。現在、東京や長野、大阪でやきとんやタイ料理、喫茶店などの店を経営する。「なんで廃油のリサイクルなのに外食産業?」と問われたというが、岡野社長からすれば当然の帰結。「店舗経営によって、クライアントの困りごとが見えてきます。仮説に基づいて経営しても、いくつかはつぶれる店も出てくる。そのときどきの課題は、クライアントの抱える悩みと共通で『お前らもこっち側なんやな』とシンパシーを感じてくれます。お店側と同じ立場で課題への提案ができるわけです」。顧客のニーズをつかむために、同じ土俵に立つ。そこから持ち帰るトライ&エラーは、具体的で地に足が着いたものだ。

「実際に経営して、2つの困りごとがありました。1つは集客。おいしいものさえ作れば客は勝手に来ると思っていましたが、それだけではなかった。2つ目は人事。いかに人材を活用するか。顧客と私たちの共通の悩みです」と岡野社長。それらを解決するノウハウを詰め込んだシステムづくりをすれば、さまざまなことに手が回らない小さなお店を救うことができるのではないかと考え、Eコマースを含めたプラットフォームづくりにも取り組んでいる。

チェーン店は生き残るための効率的なノウハウを持っているが、個人経営のお店では難しい。でも「経営者の思いが込められたお店を残していくこともすごく大事」だと話す。街から店が消えていくのをどう防ぎ、どうしたら残るのか「地域で商業が残る」新しいカタチを作りたいと、最近では、大阪・中津の老舗豆腐店を買い取り、経営に参加した。捨てられてしまうことも多い「おから」を肉のようにした「ベジミート」として蘇らせる計画が生まれるなど、1つの種からいくつもの芽が育まれていくスピリットが社内には息づいているようだ。

目指すはアジアでの循環モデルの確立

浜田化学では、他社との協働のプロジェクトが多い。取締役商事部長の中野貴徳さんは「廃食用油の回収はお店の人が見られたくないところに入っていく仕事。困りごとを先代から50年以上、地道に聞き続け、今では大きなチェーン店でも、規模が小さい頃からのお付き合いがあるから、厚い信頼関係が築けているのかもしれない」と説明する 。バイオプラスチックのカトラリーなどもその具体例として事業が進む。大手と中小企業が手をつなぐ姿を見ることができる。

岡野社長の「業界内では異端児のような構想」を緻密な研究開発で支えるのは取締役商事部長の中野貴徳さん

岡野社長に長期的な展望を聞くと「海外展開です」と即答。近いところではアジアには、ペットボトルなどが山と積まれた箇所がある。そのリサイクルのインフラのイニシアチブを誰が握るのか。「ゴミのように見えるものが資源に変わる時代が、もう間もなく訪れる。それを制するのは我々でありたいと思っています。国内でできるだけ優れた循環モデルをつくり、飲食とともに廃食用油のリサイクルのインフラをセットにして、アジアではアジアでしかできないビジネスモデルを確立したい」と力を込めた。

大阪湾を見渡す一角にある浜田化学の本社。ユニットごとにトラックで運べる構造になっている

【企業情報】

▽公式サイト=https://www.hamadakagaku.co.jp ▽所在地=兵庫県尼崎市東海岸町1-4 ▽代表者=代表取締役社長 岡野嘉市 ▽売上高=259,793万円 ▽設立=1970(昭和45)年6月