地域で輝く企業

おいしい麦ごはんを山梨から日本に広めた実力派企業。雑穀ブームの火付け役に

はくばく 山梨県中央市

はくばく 麦ご飯 長沢重俊社長

原点は、おいしい麦ごはん。穀物の健康価値を確信し、 食文化を通じた社会貢献を目指している。

「大麦は健康の源」と確信 白麦米を発明

中央自動車道の甲府南インターから車で十数分、甲府盆地を南東に流れる釜無川沿いに、広大な中央工場を併設したはくばく本社がある。

はくばくは大麦や雑穀、小麦などの穀物を扱う食品メーカーとして知られ、国内の小売店で売られている精麦した食用大麦においては約6割のシェアを有している。創業は1941年。大戦によって休眠状態となり、実質的な経営のスタートは戦後の精麦事業からとなった。

3代目社長として経営にあたる長澤重俊氏ははくばくの歩みをこう話す。
「終戦後しばらくは、お米が食べたくても食べられない食糧難の時代で、大麦は大事な食糧でした。全国に精麦業者があり、その数は1000社くらいあったと聞いています。はくばくもその中の1社として精麦事業をスタートしましたが、お米がたくさん供給されるようになると大麦の市場は急速に縮小。多くの精麦業者が事業をやめていきました。しかし、創業者の長澤重太郎は『大麦こそ健康の源』であると確信し、麦の力を広めることで社会貢献を目指そうと、精麦事業により注力しました。その中で、『もっと麦ごはんをおいしくして喜んで食べてもらいたい』との思いから、大麦を一粒ずつ半分に割って黒い筋を目立たなくした白麦米(はくばくまい)を1953年に発明し、これを社名にも取り入れて、以来、我々は穀物と共に歩んできました」。

時代に沿って事業の幅を広げ、販売チャネルも改革

おいしさにこだわった白麦米の発明によって精麦事業を軌道に乗せ、その後、小麦粉製粉に大型投資をして事業の幅を広げていく。1992年には長野県の御嶽山の麓にそば工場を設立。米屋を販売チャネルとして付加価値のある乾麺を販売し、乾麺事業も順調に推移した。しかし、1995年に食糧管理法が廃止され、米がスーパーマーケットで売られるようになると、状況は徐々に悪化。思い切った転換を模索し始めた。

きっかけは、お得意先からの「手軽に使えるスティック包装タイプの雑穀商品を作ってくれないか」というオファーだった。「社内では『雑穀が流行るとせっかく安定している大麦のシェアが減るのでは』と懸念する声も上がりましたが、チャレンジするからにはこれまでにない“おいしい雑穀”をつくろうと取り組みました」(長澤社長)。

こうして、一つひとつの穀物の色、食感、香りなど特性を示すチャートを作り、ベストな配合を研究して、「十六穀」商品を開発。2006年には自社ブランドとして「十六穀ごはん」を発売した。その商品が少しずつ売れ出して大型投資をするか議論を重ねていた2008年頃、追い風が吹いた。いろいろな食品会社が雑穀商品の宣伝に力を入れ出し、「十六穀」などのワードが一気に世の中に浸透していったのだ。

長澤重俊 はくばく ヴァンフォーレ甲府 長澤重俊 社長

学生時代にはラグビーをしていたという長澤社長。はくばくは2000年から地元山梨のJリーグチーム「ヴァンフォーレ甲府」の公式スポンサーを継続し、地域に密着した応援を繰り広げている。

生活者の多様なニーズに応える「穀物カンパニー」へ

「そこで販売チャネル開拓にも力を入れ、乾物の棚にしか置かれていなかった雑穀商品をお米とセットで訴求できるように、お米売り場に棚を提案するなど、スーパーを中心に売り場づくりを進めていきました。こうした経緯を経て、私の代からは大麦に雑穀などもプラスし、健康的な穀物を普及させていく『穀物カンパニー』として社会に貢献することを目指しているわけです」と、長澤社長はブランディング戦略についても語る。

「『穀物カンパニー』を打ち出す中で危機感をもったのは、我々の商品が生活者の方々に“調理してもらう商品”のみであることでした。だからこそ、おいしさに加えて、調理のしやすさや、手間をかけずにすぐ食べられるといった多様なニーズに応えていくことが重要になる。そうした観点もあり、2021年7月にレトルト加工の工場を取得し、レトルト食品の生産体制を構築。自社のレトルト食品ブランドとして、電子レンジであたためるだけで食べられるリゾットなどの“穀DELI”シリーズを展開し、おかげさまで好評を得ています。このあたりは今後の変化の起点になっていくと思います」(長澤社長)。

はくばく 穀DELIシリーズ 長沢重俊社長

電子レンジであたためるだけで食べられる“穀DELI”シリーズ。

穀物+ごはんの食文化をもっと当たり前の世界に

新たな事業展開のみならず、創業以来、事業のベースとなってきた大麦の市場拡大にもはくばくは、情熱を注ぐ。6月16日を「麦とろの日」の記念日に制定し、麦とろごはんを食べて元気に夏を乗り切ってもらおうというキャンペーンを20年以上前から実施しており、大麦の中でも麦とろごはんにぴったりとくる押麦の市場拡大に貢献したとして、食品産業新聞社から食品産業技術賞〈マーケティング部門〉も受賞している。さらに近年では、大麦の腸内環境への働きに着目した基礎研究にも注力。国立研究開発法人「医薬基盤・健康・栄養研究所」と連携して有用なエビデンスの確立に挑んでいるという。

最後に、長澤社長に抱負を語ってもらった。

「穀物をごはんに混ぜて食べる食文化を、もっと当たり前の世界にしていきたいですね。多くの皆さんに健康になってもらいたいですし、家族への思いを込めてご飯に穀物を混ぜるという情緒的な面も含めて、思いやりの文化を育んでいけたらと。そのためにも、大麦をはじめとした穀物の『感動的価値』を創造し続けていきたいと思います」。

はくばく 穀物 長沢重俊 社長

穀物を上手に食生活に採り入れる「ライフスタイル提案」に力を入れ、 価値の転換を図っていきたいと話す長澤社長。

【企業情報】
▽公式サイト=https://www.hakubaku.co.jp/ ▽所在地=山梨県中央市西花輪4629 ▽代表取締役社長 長澤 重俊氏 ▽売上高=197億円(2020年度 ※2021年6月確定) ▽創業=1941(昭和16)年