政策特集今、福島は vol.7

チャンス見出し、被災地に進出

12市町村における新たな動き


 1.4倍。これは、福島の被災12市町村内に震災前から存在する産業団地の入居企業数について、2010年時点(35社)と本年1月時点(49社)を比べた数値だ。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から7年が経ち、故郷に戻って再開する事業者の動きが進む一方で、被災12市町村に機会を見出し、外部から進出する企業も増えている。彼らは、なぜこの地への進出を決めたのか。今回は、そのような企業の声をお届けしたい。

地域に馴染む最先端の技術を川俣で

 京都に拠点を置くミツフジ株式会社は、銀メッキを施した導電性繊維の開発や、その繊維を使用したスマートウェア(※)の研究開発・製造・販売を行っている。本年は「生体情報で人間の未知を編みとく」を新しい企業理念に掲げ、さらなる製品開発と事業拡大を加速することを発表した。また、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼし、地域の経済成長を牽引するとして、経済産業省が指定する「地域未来牽引企業」にも選定された。
(※)衣服と同じように着用することで、着用者の心拍、呼吸、脳波から加速度、ジャイロまで、さまざまな情報を収集できるウェアラブルIoT製品。近年では、スポーツ選手と連携した実証も進められている。

ミツフジの福島工場(完成予想図)

 そんなミツフジの福島工場は、本年9月2日の竣工式に向けて、急ピッチで川俣町に建設が進められている。川俣町は、2017年3月の山木屋地区の避難指示解除をもって全村解除となった。この町の川俣西部工業団地への立地をミツフジが決意した要因の1つが、地域の地場産業「川俣シルク」と自社の繊維事業に親和性を感じたからだ。さらに、立地を決意する大きな要因となったのが、ミツフジの「福島県の復興・少子高齢化などの社会課題解決に貢献したい」という強い思いだ。「世界最先端の技術と、川俣町の新しい可能性を発信するべく、引き続き頑張っていきたい」とミツフジの三寺歩代表取締役社長は語る。「川俣町では、地域に馴染みのある業種ということで雇用創出に貢献ができ、新たな風を吹き込むことで地域の活力を呼び起こすきっかけになればと思っている。また、地域で町の皆さんと一緒にイベントを行って、繋がりを作っていきたいと考えている」

 伝統と次世代産業という一見相反する2つの要素、そしてこの地域の復興に対する思いが組み合わさったことで生まれた福島工場は、2018年9月の開業が予定されている。

女性の働く場、憩いの場を川内に

 岡山県に拠点を構える株式会社リセラは、2017年末に完成した川内村の田ノ入工業団地への進出第1号として、2018年1月から川内工場の操業を開始した。川内工場では、スポーツウエアや水着、メディカルサポーターの製造を行い、地元での雇用創出の大きな役割を担っている。

田ノ入工業団地への進出第1号となったリセラの川内工場

 そんな川内村への工場の立地を決めたリセラの宮本豊彦社長が川内村に立地を決めたのは、ミツフジと同様に、以前から村で縫製業が盛んだったことも理由だが、他にも様々な要因があったようだ。「川内村は、様々な生活環境整備を進めてきたこともあり、住民の8割の方々が村に戻ってきている。そんな川内村で工業団地の造成を計画していると聞き、現地を見学した。その際、女性の雇用の場が少ないと感じ、そうした場を生み出すことで、復興のお手伝いができるのではないかと考えた」。

「川内ブランド」発信へ

 昨年12月10日の竣工式では、「アパレルという分野から川内村の復興をお手伝いしたい」と決意を述べた宮本社長は、今後、アパレル分野での『川内ブランド』の創出・発信に取り組みたいと考えている。「弊社の地元の西日本では、時間と共に大震災の意識が薄れがち。リセラが国内の制服、作業服の主産地の多くがある西日本と福島の橋渡し役となり、アパレル分野の「川内ブランド」を発信していくことで、多くの方々に復興に参加しているという意識を持っていただければ」。

、「アパレルという分野から川内村の復興をお手伝いしたい」(リセラの宮本社長)

 川内村では、他にも農産物の大型加工工場が進出を決めており、また、タイの人気コーヒーショップチェーン「カフェ・アメイゾン」が日本での初出店を果たすなど、住民のやすらぎとなる企業の進出も進んでいる。「川内村のやるべき役割は、地方創生のモデル地区になること、それくらいのグランドデザインを描いて、地元の人と一緒に歩んでいきたい」とは、アメイゾンを誘致したコドモエナジーの岩本泰典社長の言葉だ。

 この地域に新たな機会を見出した進出事業者と、未曾有の災害を乗り越えてきた地元住民の強い思いが、被災12市町村の復興を進め、新たな絵姿を創生していく。次回は、そうした動きの象徴である「福島イノベーション・コースト構想」に焦点を当てることにしたい。