METI解体新書

電力・ガス市場の“競争の番人”

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【ネットワーク事業監視課】
 経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。
 第12回は、電力・ガス取引監視等委員会事務局 ネットワーク事業監視課の福原 鉄平課長補佐に話を聞きました。

自由化後の公正な競争を確保する

 2016年に電力、2017年にガスの小売が自由化され、様々な事業者が電力・ガス市場に参加するようになりました。企業や家庭で、電力やガスを契約する会社を選べるようになり、事業者の競争が進むのは良いことですが、同時に電気の安定供給や、環境への配慮、制度を守った公正な競争を確保することが大事です。

 電力・ガス取引監視等委員会は、電力・ガス市場の健全な競争を確保するために、2015年9月に経済産業省に設置された大臣直属の組織です。委員長と委員4名の委員会を事務局がサポート。経済産業省の職員に加え、弁護士や公認会計士、民間企業の方などが出向で来ており、専門性の高い職員が、日々、市場の監視やルールの整備を行っています。

安定供給と適正な費用を同時に実現

 電気を安定的に供給するには、「同時同量の原則」といって、電気を作る量と使う量を一致させる必要がありますが、発電や小売などの事業者が増えたことや、発電量が天候に左右される再生可能エネルギーの割合が増えたことなどにより、同時同量を保つのは難しくなっています。そうした状況にある今こそ、広域的に電力需給のバランスをとる送配電網の「ネットワーク」の重要性が高まっているのです。

 安定供給のためには、同時同量の調整を行う送配電事業者(東京電力パワーグリッドなど)が、送配電網などの設備投資をしっかり行うよう促していく必要があります。その一方で、送配電線を利用する費用(託送料金といいます)は私たちの電気料金の一部ですから、利用者の負担を過度に増やさないため、適切な価格水準を設定するルール作りも同時に重要になっています。

 私が所属するネットワーク事業監視課では、こういった電力のネットワークの整備や料金設定のルール作りと、その運用を担当しています。

2023年、電力料金設定のルールが変わる~レベニューキャップ制度とは

 託送料金の制度は、2023年4月に大きく変わります。

 これまでは「総括原価方式」といって、事業者は送配電網の整備・運営に必要な費用を一括して見積もり、これに基づいて料金の設定をしていました。経済産業省の審査を受けて料金が決まるのですが、一度審査に通れば、事業者から値上げの申請がない限り料金設定は変更されませんでした。

 新たな制度は「レベニューキャップ制度」といいます。事業者は、国が公表した指針に基づき、送配電網の整備・運営について、「安定供給」や「再エネ導入拡大」、「サービスレベルの向上」、「安全性・環境性への配慮」など、分野ごとに目標を設定し事業計画を策定します。目標を明確化させることで、効果的に投資が行われます。それぞれの目標に応じて必要な費用を見積もり、料金設定に伴う収入の上限(レベニューキャップ)について国の承認を受けるのですが、その計画は必ず5年に一度の頻度で見直すため、継続的に効率化を図っていくことができます。

 5年に1度の見直しだけでなく、異なる送配電事業者間でも効率を高め合う仕組みを導入しています。国の審査にあたっては、統計査定も用いながら費用の単価を事業者間で比較。最も効率的な事業者の水準に、全ての事業者が合わせることとしています。

レベニューキャップ制度:国の指針に基づき事業計画を策定し、一定期間(5年)ごとに収入上限の承認を受ける。

意識したのは、世の中に分かりやすく示すこと

 レベニューキャップ制度は、料金を適正化するだけではなく、必要な投資を確保することも目的の1つです。料金の中で対立する2つの軸を組み込むことにはとても苦労しました。そこで工夫したのは、設備投資の査定方法です。投資の「単価」は、各社の効率性を比較して効率的な会社に揃えることで抑制する一方、投資の「量」は、コスト削減を意識するあまり過度に抑制されていないかをしっかり確認することとしました。

 サラッと言いましたが、実はこの「効率的な会社に揃える」という部分も、統計的に査定する推計式の設定に苦労しました。社会人になってから大学院で学んだ統計の知識も活用し、制度の検討のための有識者会議で何度も説明や議論を行いました。

 制度の設計にあたっては、世の中にわかりやすい情報開示も重要です。送配電網の整備計画やその達成状況は、発電事業者から私たち消費者まで、電力に関係する多くの人に有益な情報です。そうした情報を知ってもらうことで、電力システムや電気料金に関する理解や納得感につなげたいと思っています。

 着任当初は電力やガスの知見が乏しく、専門的な用語や事業特性などへの理解に苦労しましたが、今はプライベートでも送電線などを見るとあれは500kVの鉄塔かな、など無意識のうちにチェックするようになりました。また、最近、送配電設備のガチャガチャを発見してつい回してしまいました。1つ500円となかなかの値段でしたが、1997年に竣工され、全長150mで、関西エリアで一番高い「播磨西線No.1」という鉄塔をゲットできたことに満足しています。

鉄塔画像

ガチャガチャの鉄塔「播磨西線No.1」。課内に堂々と鎮座しています。

 現在の仕事についてやりがいは感じています。事業者の自主性のみに委ねる、というだけではネットワークの次世代化に向けた効率化や情報開示は進みません。理想とする状況を実現するために、現状において不足する点が何か、これをカバーする制度をどう作るかというところに、この仕事の醍醐味があります。

 今、月9で “競争の番人”という公正取引委員会を舞台にしたドラマをやっていますが、いずれ電力・ガス取引監視等委員会を題材にしたドラマができることを期待しています。

【関連情報】
電力・ガス取引監視等委員会
託送料金制度(レベニューキャップ制度)「料金制度専門会合中間とりまとめ」について