政策特集その答えは、事業承継 ~つなぐ・変える・育む vol.2

ここが成功のポイント! 事業承継「新ガイドライン」の使い方

今春に発表された事業承継ガイドライン(右)と中小PMIガイドライン

 

中小企業の経営者を含め、事業承継にかかわる人が一度は目を通しておきたい文書が今春、発表された。

事業承継ガイドライン(第3版)」は、スムーズな事業承継のために求められる考え方やプロセス、便利な制度などを広く解説している。約5年ぶりとなった今回の改訂では、最新のデータや制度改正を反映したうえで、事業を引き継ぐことになる後継者側の視点からの内容を拡充させた。

中小PMIガイドライン」は、中小企業でもM&A(買収・合併)による事業承継が本格化していることから、事業を譲り受けた側がM&Aの成立後に実施すべき統合作業(Post Merger Integration)での課題や手順などをまとめている。

ガイドライン策定について、中小企業庁に設置された検討会・策定委員会の各座長に話を聞いた。

◆承継タイプ別に対応 新ガイドラインは「後継者目線を強化」

事業承継ガイドライン改訂検討会座長
山本昌弘氏(明治大学商学部教授)

 

 

-――事業承継ガイドラインとはどのようなものですか。

事業承継に関する各種のガイドラインの中でも、一番の核になるものです。事業承継の重要性を示すとともに、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)という類型別に分けて、課題や対応策を示しています。

――今回の改訂の目的は。
事業承継ガイドラインは2006年に初版ができ、2016年に改訂されました。その後も、事業承継時の贈与税・相続税が実質ゼロになる措置の導入や、中小企業のM&Aで留意すべき事項を示した「中小M&Aガイドライン」の策定など、事業承継に関する施策はさらに充実してきています。第3版には、こうした情勢の変化を取り込みました。

――工夫した点は。
これまでは、現経営者が年を重ねていくので、早く事業承継してくださいという視点が強かったのですが、後継者の側からの視点を多く取り入れました。例えば、事業承継のタイミングに関して、現経営者だけでなく後継者の事情を考慮する重要性を指摘しています。

第2版ではM&Aに関する記述を充実させたのですが、第3版では、さらに中小M&Aガイドラインの内容を反映させるとともに、従業員承継についてもしっかり書き込みました。従来は、従業員承継ではいわゆる「番頭さん」に継いでもらうことを主に想定していましたが、現実にはそれ以外のパターンも起きています。継いでもらう以上は、しっかりとしたスキルを身に付けるために、どうすればよいかを示しました。

「事業承継に関する主な支援策」より

ガイドラインの改訂に合わせて、「事業承継に関する主な支援策」というパンフレットを作成しました。さまざまな支援策を事業承継の類型ごとに、現経営者と後継者側に分けてまとめた構成で、非常に分かりやすくなっています。まずはこちらをご覧いただいても、皆さまのお役に立つと思います。

山本昌弘氏

 

M&A成立「その後」が重要! 中小PMIガイドライン

中小PMIガイドダイン策定小委員会座長
松中学氏(名古屋大学大学院法学研究科教授)

――PMIガイドラインを作った目的は。

中小企業のM&Aの件数は増えていますが、期待していた効果を発揮できていないケースも見受けられます。M&Aの効果を最大限に引き出すうえで、M&Aの成立はスタートラインであり、その後の統合作業(PMI)を適切に行うことが重要です。

ガイドラインの中には、「経営の方向性を明確に定めていなかったため、従業員の不安が募り、離職が相次いだ」「譲渡側経営者が退任した後に現場での判断ができず、業務が停滞した」など、多数の失敗事例をあえて掲載しています。PMIの必要性を具体的にイメージできると思います。

――中小企業にとっては、PMIは難しそうです。

確かにそうかもしれません。中小企業での最大の課題は、PMIのために割けるリソースが少ないという点です。そもそも人材の数が少ないですし、人材の専門性という点も限られてきます。そこで、重要になってくるのが、優先順位をつけることです。
ガイドラインは基礎編と発展編に分け、「ここだけは」という点は基礎編に盛り込んでいます。基礎編の中でも、どの順番で、あるいは、どれだけのリソースを使って実行するかは、各社ごとに考えていく必要があります。

中小PMIガイドラインより

企業の買い手がPMIに注意を払うのは当然ですが、売り手にとってもPMIが大切であることをぜひ頭に留めていただきたいです。売却額に反映されるでしょうし、何よりも、事業がきちんと続いていくことで、それまで自分が一緒に働いてきた後輩や部下、あるいは家族の幸福につながるからです。

――ガイドラインをどう使えばよいでしょうか。

目次では「必要な社内の体制を構築したい」「誰に相談すればよいのか知りたい」「事業を成長させたい」など、利用シーン別に該当箇所を示しています。自分たちのニーズに応じて、参照していただきたいです。

――今後のガイドラインのあり方は。

中小企業にとっては、M&Aは何回も経験することではないので、支援する専門家を育成していく必要があります。中小企業のM&A市場をサステナブルに発展させていくためには、ガイドラインも市場の変化やルールの変更に対応して、適宜更新していくことが大事だと認識しています。

中小企業庁は、中小PMIガイドラインの策定に合わせて、「中小PMI支援メニュー」 をまとめました。今後もガイドラインの改訂に加え、補助金による支援や専門家の育成などが求められるでしょう。

松中学氏

【関連情報】
事業承継ガイドライン(第3版)
中小PMIガイドライン
中小PMIガイドライン(概要版)