HOTパーソン

独創的な取り組みで「アトツギ甲子園」で優勝 事業承継に大事なのは後継者の実績

ホリタ文具社長 堀田敏史さん インタビュー

 中小企業にとって20年に一度の一大事といわれる事業承継。さまざまな形の事業承継がある中、全国各地の事業承継者(跡継ぎ)が、新規事業アイデアの新規性、実現可能性などを競うピッチイベント「アトツギ甲子園」(中小企業庁主催)の第2回大会決勝戦が今年3月12日、都内で開催された。今回のHOTパーソンでは、15人のファイナリストから、その独創的な取り組みで最優秀賞(中小企業庁長官賞)に選ばれた福井県のホリタ文具社長の堀田敏史さんに、事業承継に至ったいきさつや、実際にそういった課題に直面する方へのアドバイスなどについて、お聞きした。

 

うれしさよりも気が締まる思いが先立った優勝

 ―――  アトツギ甲子園で優勝してから何か変化はありましたか。

 周りの期待度がさらに上がって、今は「それに応えるための旅が始まったな」という気持ちですね。大会に出る以上は優勝を狙っていて、出来る限りの準備をして臨んだものの、正直、名前を呼ばれてもそこまで、うれしさは感じませんでした。これまでいろいろなことがあっての事業承継で、この受賞によって、「いよいよホリタ文具の歴史の第2章が始まるのだ」と、気が引き締まる思いでした。

 ―――  地元の高校を卒業後、東京の大学を経て4年間、証券会社に勤めたあと、Uターンされました。そのきっかけは?

 出来のわるい営業マンで、月の売り上げの成績はだいたいビリのあたりで、支店の近くの池袋南公園でいつも悔し泣きしていました。元来、負けず嫌いなので、半年に一度、成績優秀者に与えられる社長賞を目標に努力した結果、3年目の上半期で受賞できたのです。「やるべきことをやった」という気持ちと、ちょうど結婚のタイミングだったこともあり、帰省することにしました。

「証券会社での営業マン時代は成績がわるくて、いつも公園で悔し泣きしていました」と話す堀田さん。

家業を継ぎ、最初に取り組んだBtoCの新店舗オープン

 ―――もともと家業を継ぐ気持ちはあったのでしょうか。

 経営者は人間として成長できる、やりがいのある仕事だと前社長の母から言われていたものの、直接「継いでほしい」と言われたことはないので、はっきりと意識したことはありません。先代が母親だったのが、よかったのかもしれませんね。父親と息子の間で事業承継がうまくいかないという話をよく聞きますから。

 ただ、3人きょうだいの男1人なので、どこかにそういった気持ちがあったのかも。将来の夢として、「ビッグな社長になる」とよく言っていました。店舗展開にも興味があって、帝国書院の地図帳の後ろのページに載っている全国の自治体の人口を覚えるのが好きで、「こんなに人が住んでいるんだぁ」と感心したりもしていました。

 ―――大手のオフィス用品通販の影響で、中小、地方の文具店の立場が危うくなっていく中での経営参加でした。

 当時は、BtoBで、私も帰省後、経験を生かして、飛び込み営業などで注文を取ってきたりしていたのですが、それでも粗利益が10%あればよいみたいな感じで、これではだめだと。私が帰省する前から、BtoCへの転換を家族で検討していて、それを私と姉が任される形で、2009年に福井市の花堂店をオープンさせました。経営はまったくの素人なので、姉のサポートを受けましたが、かなりの部分を私の判断に任せてくれて、それが今に繋がる大きな経験になりました。

4月21日に越前市にオープンしたBtoCとしては5店舗目の「HORITA LIFE CANVAS」

文具とともに「お客様の人生の寄り添える存在になりたい」

 ―――花堂店に続いて、鯖江店、春江店、エルパ店、そして4月21日に越前市に「HORITA LIFE CANVAS」をオープンされました。

 店舗によってコンセプトは異なるのですが、その軸となっているのは、「学ぶ・働くをもっとわくわく もっと便利に。」という弊社の経営理念です。HORITA LIFE CANVASでは、身近にこのような店があると幸せだろうなと思うとともに、お客様の人生に寄り添える存在になりたいと願い、このようにネーミングしました。真っ白なキャンバスに自分の人生の色を加えていく、そのお手伝いをしたいと。学ぶ・働くを身近で応援するものは文具だけではないので、雑貨や生活必需品なども扱っています。

 そうはいっても、文具へのこだわりは当然あって、文具の価値を再定義することで、文具をきっかけにみんなを幸せにしたいと思っています。福井で仕事を始めてすぐに、消しゴム1個売って、お客様から「ありがとう」と言われた時に、頭を殴られたような衝撃を受け、同時に涙が出そうになりました。証券会社では、できない経験でした。それがあるから、今でも文具の価値を信じています。

HORITA LIFE CANVASのシンボルツリーである「えんぴつの木」。葉の部分は、越前市と福井市の児童館の子どもたちが手作りしてくれた。

えんぴつの木の内部。子どもたちから寄せられた使い終わったえんぴつが壁面を埋め尽くしている。

スムーズな事業承継には譲らざるを得ないくらいの実績を残すことが大事

 ―――事業承継という課題を抱えている方へのアドバイスをお願いします。

 一番大事なのは、早く社長になることではないでしょうか。先代がその座を譲ってくれないなら、譲らざるを得ないくらいの実績を残すことです。私は、ホリタ文具に入ってしばらくして、「しっかり経営の勉強をして力をつけるから、3年後に事業を継がせてほしい」と社長だった母に伝えました。その間、いろいろな先輩方にお話を聞いたり、経営塾に通ったりして、ほんとによく勉強しました。

 あと個性を磨くことですね。事業承継では、あとを継ぐ人の個性がイノベーションを起こすと思っています。私の場合は、証券会社での勤務経験があることから、周りとまったく違う視点が持てるのがその一つです。父が教員で、教育への関心が高いのも、もうひとつの自分の個性だと思っていて、春江店で行っている「ホリラボ」を始めたきっかけにもなっています。ホリラボは、幼稚園児・小学校1〜3年生を主に対象にしたアートと知育を組み合わせた学びの場で、そのワークショップは1か月先まで予約が埋まるほどの大人気です。

 社長だった母は3姉妹、私は3人きょうだいで姉2人、そして娘が3人、職場も女性の比率が高いなど、女性に囲まれた環境にいるのも、私の個性であり、強みでもあると考えています。

両サイド10mほどにわたるペン売り場「Pen Street]

文具だけでなく生活に身近な雑貨やアクセサリーなども扱っている。

「みんなに幸せになってもらい、地方と日本を元気にしたい」

 ―――最後に、ホリタ文具のこれからの展望についてお聞かせください。

 やはり、事業を通じて、社会のためになりたいです。文具という、大衆性、教育性、文化性のある商品を扱っているからこそ、それができると思っています。地方が元気でないと日本は元気になりません。「全国で100店舗」という目標は、数が大事なのではなくて、それだけの店舗があれば、地方を元気にできるし、そこに住むみんなに幸せになってもらえると思うからです。地方の課題の解決をホリタ文具が手助けして、日本を元気にしていきたいです。

 ―――ありがとうございました。