地域で輝く企業

地域に根付いたネットワークでモノづくりを展開

栃木県佐野市の本郷精巧

本郷精巧の本社工場(栃木県佐野市)

 「やらせて頂く感謝 やって頂く感謝」-。栃木県佐野市で精密部品や金型、治工具などを製造する本郷精巧のモットーだ。打ち合わせから設計・加工まで一貫生産で請け負う対応力に加え、つながりの強い地元企業や協力会社による独自ネットワークを活かしたモノづくりを強みとする。台風19号(令和元年東日本台風)の被災も乗り越えながら、地域に根ざした事業展開を目指している。

織物機械から精密加工へシフト

 本郷精巧は1926年創業で、地場産業として盛んだった織物のふみ織機や建具、農具の製造していた。だが、織物機械製造の海外移転が進む中、1955年頃から治工具の製造に参入。1985年頃に同分野に本格参入し、主力事業となった。現在は治工具に加え、金型、精密部品加工のほか、グループ会社のグラストラバー(栃木県佐野市)でゴム成型品を手がけている。

 主力の治工具は印刷関連や機械、電化製品向など幅広い領域を手がけてきた。少量多品種の精密加工にも対応し、打ち合わせから設計、加工、計測(検査)まで一貫して自社で行える体制を構築。2018年には精密部品加工の事業拡大を受け、市内に第二工場を稼働させるなど、着実に実績を積み上げてきた。

本社工場では機械加工を手がける

台風被災、水害からの復興

 「途方に暮れるとはこういうことか」。
 本郷英男社長は当時の心境をこう吐露する。

 第二工場の稼働からちょうど1年後の2019年10月12日、栃木県を含む東日本地域に水害をはじめとする大きな被害をもたらした台風19号が上陸した。本社工場は堤防が決壊した河川から約400メートルの場所に位置していたため、浸水を免れなかった。幸い第二工場は無事だったが、本社工場や倉庫、自宅などが被災した。

 翌13日の朝には地元企業や取引先など多くの関係者が駆けつけ、敷地内に流れ込んだ土砂の片付けや設備復旧などの作業を手伝った。支援者が本社を取り囲み、汗を流す光景を前に「背中を押してもらい、復興への号令を出す決意が固まった」と本郷社長は振り返る。

 前向きな決意を固めてからは、復興とともにより高度なモノづくりに対応するための設備投資に着手する。

 代替設備を調達し早期に生産を再開すると同時に、新たなマシニングセンター(MC)や画像検査機などを導入。事業継続性を考慮した第二工場との設備配置の見直しなどさまざまな施策を行った。現在では、事業復活を遂げるとともに、各事業で「モノづくり全体の力は向上している」(本郷社長)という。

つながりを活かしたモノづくりで、地元経済に貢献へ

 本郷精巧が手がける事業の特徴の一つが、地域や企業間ネットワークを活用したモノづくりの高度化だ。さまざまな枠組みを活用し、自社だけでは対応しきれない加工や数量などを複数企業が連携して請け負うことで、競争力を高めている。案件単位でも適切に情報共有できるようにして、協力会社同士が緊密に連携している。

地域・企業間ネットワークの例


 2017年頃から機械部品加工を手がけるオギノ(栃木県足利市)と、大手メーカーのネットワークなどを活用し連携してきた。互いの顧客や協力メーカーなどを一度「テーブルに上げ」(本郷社長)、デジタルで情報共有しながら協業している。また、南城和男取締役は「人材教育など中小企業単独では限界があることも連携して取り組めばできることが増える。スキルの見える化などツールの共有や、悩みごとの相談もしやすくなる」とビジネス面以外のメリットもあると語る。

 また、2社と工具商社のかなめ商工(栃木県足利市)などによる新会社OHKトレーディングを発足。連携を介した共同受注活動の交渉窓口を担っている。試作・量産などそれぞれが得意分野に沿った仕事を行い、適切に利益を共有しながらモノづくりを行っている。

 地域未来牽引企業3社による連携にも参画する。埼玉県入間市のindustria(インダストリア)が手がける切削油用のフィルター「FILSTAR(フィルスター)」の量産を本郷精巧と、SERTEC(サーテック、東京都青梅市)が共同で手がける体制を構築した。3社は対象の機械設備をネットワークでつなぎ、加工情報を直接連携できる体制を整えた。各社の技術や設備を共有し、設計から材料調達、金属加工、表面加工、組立まで、外部からの受注にも一貫対応できる。

本郷英男社長(左)と南城和男取締役(右)


 地域企業や中小企業同士が互いの強みを活かしたモノづくりを展開し、協業による競争力強化や地域経済への貢献を目指す。本郷社長は「同じ製造・加工業でも、強みとする技術や領域はそれぞれ異なる。こうした企業同士がうまく情報を共有し、欠点を補完し合うことでより良いモノづくりが実現できる」と連携のねらいを語る。

 同社が目指すのは、設計から製造までワンストップで応じる一気通貫型のモノづくりと、企業間連携を軸にさまざまな条件・分野に応じる多様なモノづくりの両立だ。「自社の強みを活かしながら中小企業が連携し支え合うことで、地域経済に貢献できるような新しいモノづくりの形を確立していきたい」(同)とその視線は未来を見据えている。
 
 
【企業情報】
▽所在地=栃木県佐野市赤坂町949-9▽社長=本郷英男氏▽売上高=非公表▽設立=1989年(平元)7月(創業=1926年(昭元))