地域で輝く企業

〝これまでにない動き〟の創造で多様なモノづくりを支える

東京都板橋区のTOK

TOKの吉川桂介社長


 机や冷蔵庫の引き出し、トイレのふたの開閉などモノのスムースな動作を実現するためには、動きをコントロールするための部品が欠かせない。私たちが日々の生活で触れるさまざまな製品の「機構部品」を手がけるのが、東京都板橋区のTOKだ。複数製品で高いシェアを有しながら、積極的に新規分野の開拓を進めてきた。働き方に関する多様な施策も展開し、時代の変化に沿った会社のあり方を社員とともに模索している。

樹脂製の機構部品で成長

 同社は1925年に東京都墨田区で創業し、1938年に板橋区に移転した。もとは金属部品を手がけていたが、1964年に樹脂ベアリング(軸受け)を開発した。従来のスチールベアリングに比べてコストや適性が評価され受注を拡大、成長につながった。樹脂ベアリングは、現在でも国内トップシェアを握る。その後もベアリングで培った技術の応用を進め、多様な動きが求められる機構部品を手がけるようになった。

 その中で、OA機器の紙送り機構に使われ、一方向のみに回転する「ワンウェイクラッチ」、トイレ便座やふた、ピアノのふたなどをスムースに開閉するため動きを制御する「ロータリーダンパー」など、ベアリングに続く第二・第三の柱となる製品を世に送り出した。さらに、様々なカスタム品にも対応し、「いただいた要望を形にするまでやり遂げる」(吉川桂介社長)という同社の強みが培われていった。

TOKが手がける機構部品


 現在は生産拠点を山梨工場(山梨県甲斐市)に集約したが、板橋区内に本社を置き営業や技術開発などを行う。海外には中国・上海と深センに工場、中国(上海)、香港、アメリカ、ドイツにオフィスを持ち約30カ国の企業と取引しているという。

新規事業を強化、既製品中心からの転換はかる

 創業家出身の吉川桂介社長が就任して1年ほど経った2016年、一つの転機が訪れる。

 当時、ロータリーダンパーの大口取引先だった海外企業から突然受注を失った。「取引先を分散しているためすぐに倒産ということにはならない。ただ、影響は大きく、良い関係を築けたと思っていただけにショックだった」(吉川社長)と振り返る。

 そこから、打開策を模索する。社長就任後に顧客からヒアリングする中で、「事業全体でみれば既製品が中心だったが、少量多品種のカスタム品にも応じる姿勢は顧客から評価されていた」(同)。主力部品以外の事業強化に向け、改革に着手する。

 社名を長年使用した「トックベアリング」から、略称としていた「TOK」に変更。ベアリング専業というイメージから脱却をはかり、顧客ニーズに合わせ「減速」「回転」「伝達」「遮断」「緩衝」など様々な動きを融合した製品を開発する方針を明確にした。

 さらに、新たな事業方針として「『これまでにない動き』の創造」を掲げた。新規開発にも積極的に取り組み、ベアリングやダンパーなどの既存製品と異なる動きをする部品や、TOKによる開発品などを「SRシリーズ」として展開し顧客に訴求している。これまでにワンプッシュで着脱できる機構の「SRX」、昇降機やリフトなどの重量物を昇降し任意の位置で固定できる「逆入力遮断クラッチ」などの新たな製品が生まれた。現在は毎月約1000品目製造し、その約75%をカタログ記載の無いカスタム製品が占める。今後はこうした製品や新規開発案件をさらに伸ばしていく方針だ。

簡易着脱機構「SRX」

「トライアル」で時代に合った働き方を模索

 本社を中心に、テレワーク、時差通勤、ノー残業デーなど働き方に関する様々な施策を先駆けて取り入れてきたこともTOKの特徴の一つだ。企業に働き方改革の実現が求められる中、働き方に関する施策を2週間から1カ月の期間で試験的に行う「トライアル」を導入。社員から要望があった様々な施策をトライアル期間で展開し、「継続性を判断して、評判が良かったものを制度化している」(吉川社長)という。前述した以外にも多様な施策を試してきたが、「上手くいかなかったものも複数ある」。トライアルを通じて、要望の集約や施策の検証を行い、時代に沿った働き方を模索している。

 今後は社員からのボトムアップ型の提案を促進し、働き方改革だけでなく事業活動にも活かしていく方針だ。今年度から、業績評価の軸となる目標指標を売上高や利益から、「改善提案」の件数にシフトした。4年で5,000件の改善提案を目標とし、現場からの提案を促すことで業務効率化やモノづくりの強化につなげる。

東京都板橋区の本社/東京オフィス


 現在、生産は山梨県や海外の工場が中心だが、今後も本社機能は維持し「地元を離れるつもりはない」(吉川社長)という。特に新規の案件を強化する上で、本社は顧客とのコミュニケーションや技術開発を担う重要拠点だ。最近では医療分野への進出も視野に入れ、プロジェクトチームを本社内に立ち上げるなど新しい取り組みも活発だ。板橋の地で培ったモノづくりの提案力を活かし、より多様な課題の解決に貢献していく。
 

【企業情報】
▽所在地=東京都板橋区小豆沢1-17-12▽社長=吉川桂介氏▽売上高=39億円(2021年9月期)▽設立=1938年(昭13)12月