地域で輝く企業

枠を超えた事業連携で「未来の創造」へ

ワイヤーハーネス、装置、医療機器事業を展開するオートシステム


 

 オートシステム(福岡市西区)はワイヤーハーネス、装置、医療機器の3事業を展開する総合メーカー。製造革新力と製品開発力を強みとし、日本を代表する大手メーカーなどユーザーからの信頼は厚い。従業員全員が「変化・改革」の意識を常に共有。業務や組織のスマート化を加速させている。また、オートシステムスタンダード(ASS)と名付けた3事業連携の取り組みも進む。

人への配慮が品質向上につながる

 設立時の同社は主業務として、FA装置メーカーの工場内で生産される装置に電気配線を行っていた。多くの電気配線を経験する中から、装置に合わせて事前に配線を作り込んでおくことで品質と生産性を向上できると提案したのがワイヤーハーネス事業の始まりだった。電源ケーブルや信号ケーブルなど複数のケーブルを束ねたワイヤーハーネスは現在、さまざまな設備や自動車などに使われる。人間に例えると血管や神経に相当し、最終製品の機能や品質を支える重要部品だ。その中でも同社はFA機器や医療機器向けが得意だ。

 製造革新力の背景にあるのが独自開発で改善を続ける生産工程管理システム。ワイヤーハーネスの製造現場では各作業台にタッチパネルパソコンやタブレットパソコンを設置。そのモニターを窓口に生産の〝見える化〟を実現している。図面や標準仕様書のほか部材の写真や過去の不具合情報などをチェックしながらの作業が可能。作業効率や品質の向上・安定につなげている。作業の進捗(しんちょく)や履歴も確認しやすく、トレーサビリティー(履歴管理)に対応する。

 ワイヤーハーネスの量産品を生産しているベトナム工場とは、工程進捗や仕様確認でネットワークカメラやスマートグラスを活用するコミュニケーションシステムを構築し、細かな部分もリアルタイムで確認できる体制が整う。新型コロナウイルスの感染拡大で海外との人の行き来が難しくなる中でも安定的な生産に何ら支障はなかった。
 
 国内のワイヤーハーネス本社工場でもウエアラブルデバイスを作業の効率化や情報伝達の迅速化に生かす。耳かけタイプの無線イヤホンは材料のチェックシステムに導入。作業者の両手をふさぐことなく材料のチェックを可能にした。製造現場に設置されたブロック型のIoT機器と連動して振動するリストバンドは、不具合や仕様確認の発生場所を離れた場所にいる担当者に素早く伝える。現場の意見を聞いて作業しやすさや人の負担軽減を重視して進める改善の根底には、人への配慮が品質向上につながるとの考えがある。設備や制度で高齢者や女性が働きやすい環境づくりにも力を入れる。

 材料の在庫管理では、自社が管理する倉庫に仕入れ品を預かり、必要な時に必要な分を出庫できるVMI(ベンダーマネージメントインベントリー)の仕組みを構築した。国内工場向け製品と海外工場向け製品の両方に対応する。この仕組みによって調達リードタイムを大幅に縮めて短納期を可能にした。

 福岡県糸島市の志摩工場では装置、医療機器の2つの事業を行っており、装置事業では、自動機器や検査装置など多種多様な設備で設計開発から加工、組み立て、制御、据え付けまで一貫して手がける。自動車業界向けや半導体業界向けに多くの製品を開発してきた実績があり、大手メーカーのユーザーも多い。

医療用エックス線の立位撮影台


 医療機器事業のメーン製品は、医療用のエックス線撮影に欠かせない撮影台。一般的な立位撮影台だけでなく横になっての撮影や車いすに座ったままの撮影、乳幼児の撮影に対応するタイプなどをそろえる。手術室などで使われるモニター懸垂装置も得意。高い操作性と安全性が特徴だ。医療分野では病院や大学との共同開発も行っている。装置事業同様に設計開発から据付まで一貫して対応しており、工業デザイナーと連携したデザイン性が高い機種もある。

オートシステムスタンダード(ASS)で未来の創造

 ASSはワイヤーハーネス、装置、医療機器の3事業で、事業の枠を超えた総合力を創出して標準化することが目標。「ASSで未来の創造」と掲げる。総合営業力で商談機会を構築するほかデジタル変革(DX)を進めて次世代のモノづくり工場を実現する。ワイヤーハーネス事業のデジタルを用いた製造革新力と、装置、医療の製品開発力を掛け合わせた能力を、自社の魅力として育てていく考え。徳安社長は「全社的な発想力を一つにし、従業員がスマートに活き活きと働ける未来に繋げたい」と抱負を語る。2021年11月、志摩工場に完成した新工場棟は3事業全ての製品を生産する工場で、ASSを具現化する先駆けとなっている。将来はベトナムでの医療機器生産も検討する考えだ。

徳安健司社長


 環境負荷の低減も進める。物流に独自形状の10面体プラスチック製段ボールを通い箱に採用。ワイヤーハーネスの量産品については紙段ボールの使用をやめた。無線識別(RFID)タグと組み合わせることで物流管理を効率化するとともに通い箱の回収率が上がった。国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも取り組んでおり、2020年には福岡銀行の保証付き私募債「SDGs私募債」を発行した。同行は同私募債による収益の一部をSDGsに資する団体などに寄付する。

 主要販売先の地域は関東と関西に集中している。ただ医療機器の地域別出荷台数を見ると九州地域が最も多く、地域の医療に貢献している。また最近の仕入れ実績における加工品では金額ベースで半分以上を九州が占める。事業拡大に合わせて社員を毎年増やしており、地域の雇用を支えている。
 
 
【企業情報】
▽所在地=福岡市西区拾六町2-2-28▽社長=徳安健司氏▽設立=1984年▽売上高=46億3300万円(2021年10月期)