支え、支えられ-。新工場稼働でさらなる飛躍へ
石川県白山市の工作機械メーカー 高松機械工業
見上げれば霊峰・白山が優雅にそびえる姿を目にできる工業団地に本社を構える高松機械工業(石川県白山市)。工作機械メーカーとして自動車部品をはじめ、情報技術(IT)関連製造装置の製造、食品加工機械の製造を手がける。中でもコンピューター数値制御(CNC)1スピンドル1タレット精密旋盤「Xシリーズ」は、国内大手自動車メーカーや自動車部品サプライヤーに広く採用され、近年の自動車電動化の流れで電気自動車(EV)関連の仕事の依頼も増えている。
工作機械メーカーとして着実な歩み
1948年9月、高松喜一氏によって高松鉄工所が石川県金沢市で個人創業。高松宗一郎社長は「当時は現在のJR金沢駅周辺の開発、発展とともにいくつか市内で移転を重ねた」と語る。そして1985年11月に石川県松任市(現・白山市)の旭工業団地に本社工場を移転し、今に至る。所在地の旭丘1丁目は、同工業団地第1期参入メンバーに与えられたいわば称号だ。
1960年には現在の主力事業である旋盤機械の製造・販売で工作機械に進出し、1961年に株式会社へ改組、現社名となった。1970年代に入り、「いしかわモノづくり産業遺産」にも認定された精密油圧自動旋盤「メリター」の製造・販売を開始、合わせて海外への輸出も始まる。1990年代には海外進出が加速し、米イリノイ州・シカゴへの現地法人設立を皮切りに、今では欧州、北中米、中国、東南アジアに海外拠点を構える。また、独エマグ社や台湾の友嘉実業集団とは、国内外で工作機械を相互販売、メンテナンスで協力し、各社の良さを差別化、提案することで現地の営業販売に生かしている。
自動車産業を足元から支える「Xシリーズ」
主力事業の工作機械の製造・販売ではその機械だけでなく、そのほか手作業工程を自動化させるための周辺装置があり、加工素材を搬送するローダー、加工後に素材を自動洗浄する装置、素材や加工部品を収納するストッカーなど自社開発で行うことで、自社工作機械との相性も良く、機械ごとの連動性を持たせる提案などで、顧客の要望に応える生産ラインの構築を得意としている。
1994年に販売開始したCNC旋盤「X-10」から始まる「Xシリーズ」は自動車部品関連の製造で高い評価を受け、大手自動車メーカー各社に採用され自社工作機械受注先の約7割と自動車業界を主要顧客に引き上げるロングセラーとして、引き続き高いニーズを確保している。今では自動車の電動化に対応するため、チャックサイズ8インチモデルに、ミーリング機能とY軸を搭載した「XT-8MY」は工程集約ができる強みを生かし、ロングシャフトの加工で主にEV用の部品に向けて提案をしている。
このような機械が進化していく背景には、2012年1月に「いしかわモノづくり産業遺産」として認定された面取旋盤「T-650」、精密油圧自動旋盤「メリター」と会社創成期から支えてきた機種などがあり、「関西、東海エリアには数十台と導入してもらった顧客に評価され、また改善提案に真摯に耳を傾けた成果。その延長上に『Xシリーズ』がある」(高松社長)と強調し、長年の主要顧客への敬意を欠かさない。
北陸地域の人材が会社を支える
従業員はグループ全体で、556人(2021年3月期)在籍し、そのうち9割以上が北陸地域の出身で石川県内の構成比率も相当高い。北陸自動車道白山インターチェンジから程近い立地にある現本社は、自動車通勤がほとんどの中で、それぞれの自宅から約30分と程よい時間が魅力だ。結果として、多数の地域人材が活躍し、さらに地域経済に大きく貢献した構図となり、高松社長は「もちろん全国から良い人材を集めたい」(同)という思いを持ちつつも、「数ある工作機械メーカーの中から『高松機械工業に入りたい』と選んでくれたことは素直に嬉しい」と従業員への感謝は忘れない。
「あさひ工場」の稼働と未来
2022年4月、6番目の工場「あさひ工場」が稼働する。新工場の名称には所在地の旭丘を平仮名表現にして、優しさと分かりやすさで幅広い世代から長く親しまれ愛されるようにという意図とともに、あさひの響きは「新しさ」「力強さ」「希望」などの前向きなイメージを連想させる。今まで第二、第三・・と数字で表現していた名称だが、あさひ工場と銘打った理由に、工作機械の組み立てや周辺装置とのカスタマイズと今後の旗艦工場になる方向性にも一致し、「主力業務を行う本社工場の機能を補完する役割からしっかりとした名称を付けた」(同)と語る。当初、従業員からの公募制でいくつか候補として経営陣から具体例を挙げていたが、「従業員それぞれの気持ちを込めた例以外の候補がたくさん集まった」(同)と新工場への期待と思いの強さを受け取ったという。
あさひ工場は2階建てで総床面積は1万2000平方メートル。2階にはフリーアドレスを設けた営業部門フロアや食堂を設置した。まずは140人がこの工場に移動するが、まだ増設できる余力を残していて、「引き続き人材確保は必要になる」(同)と力を込める。生産能力は現状の1.5倍になるので、コロナ禍前の約226億円(2019年3月期)から300億円という高い目標を設定し勢いを取り戻そうとする高松社長の目線は、既に白山より高みを見上げている。
【企業情報】
▽所在地=石川県白山市旭丘1丁目8番地▽社長=高松宗一郎氏▽設立=1948年(昭23年)9月▽売上高=約134億円(2021年3月期)