政策特集集う、創る、叶える、ふくしまで~福島イノベーション・コースト構想 vol.3

ベンチャーキャピタルから見る福島の可能性

ロボテスの開所前からリアルテックファンドが投資していた企業も現在はロボテス内に拠点を構える(写真はメルティンMMI(左)と人機一体(右))


 自動運転の実証車が走り、実験専用に整備された空域一帯ではドローンが飛ぶ、福島県東部の沿岸・浜通り地域。津波と原発事故で大きな被害を受けたが、今は、「ロボット・ドローンの一大開発実証拠点」に変貌を遂げようとしている。その可能性にベンチャーキャピタル(VC)も熱い視線を注ぐ。

魅力であり可能性としての「ロボテス」

 福島県沿岸部の浜通り地域に新産業の創出、集積を目指すプロジェクトが「福島イノベーション・コースト構想(イノベ構想)」だ。太陽光発電の電気で水を分解して水素をつくる「福島水素エネルギー研究フィールド」など先進的な研究施設が続々と完成している。

 中でも新しい象徴となりつつあるのが、「福島ロボットテストフィールド(ロボテス)」だ。約50ヘクタールの広大な敷地に、航空機用の滑走路やインフラ点検のロボットの性能を確かめるトンネルや橋、ドローン用の通信塔など実験設備や開発施設を備える。

 イノベ構想では、ロボット産業との関わりが薄かった浜通り地域に全国からロボット関連企業を集め、さらにスタートアップへの支援にも注力している。ロボテスはその方針を具体化する拠点の位置づけだ。2017年から一部の利用が始まり、2020年3月末に開所した。今後は人を乗せて飛行する「空飛ぶクルマ」の安全基準の整備に向けた実験も予定される。

 「世界でも例のないロボット開発の総合拠点。アセットやリソースが集積しつつあるのが浜通り地域の魅力であり、今後の可能性だろう」 VC「リアルテックファンド」の山家創グロース・マネージャーはロボテスをこう評価する。

 企業規模の大小にかかわらず、プロダクトの開発から量産のプロセスでは乗り越えなければいけない壁は多い。

 「特にロボットやドローンといったハードウェアを社会実装する上では耐久性などを実証する試験環境が不可欠になる。だが、そうしたテストを重ねる設備などをスタートアップが自社で保有するのは難しい。量産を目指すロボット関連のスタートアップは福島県浜通り地域に拠点を構える選択肢をまず検討すべきだろう」

ロボテスは広大な敷地に、航空機用の滑走路やインフラ点検のロボットの性能を確かめるトンネルや橋、ドローン用の通信塔などを備える(写真はテララボ。リアルテックファンドも投資する)

目指すは社会課題の解決

 山家グロース・マネージャーは「当社は投資環境を考えると珍しいVC」と語る。

 国内VC投資額の7割以上が東京に集中する。地方には大学を中心に技術や研究成果が多く眠るが、投資マネーが十分に届いていない。そうした中、同社は逆に投資先の6割が東京以外の企業だ。

 その珍しさの秘密はファンド名に隠されている。「リアルテック」はさまざまな社会課題の解決に向けた研究開発型の革新的な技術を指す。

 「技術を理解した上で、その技術を社会に実装した結果、社会課題の解決につながるか、ソーシャルインパクトの最大化につながるかに重きを置いて投資している」

 2021年に組成した「グローカルディープテックファンド」も地域金融機関や地方の中核企業から資金を集めているのが特徴だ。ファンド総額は100億円。地方の新産業育成につなげる。ロボテスの開所前から同社が投資していた企業(メルティンMMI、人機一体)が現在はロボテス内に拠点を構えるなど福島とのつながりも太くなっている。

 また、「地元銀行の東邦銀行は私たちが組成したファンドの出資者。こうした縁もあり、南相馬市との連携協定にも参加した」(山家グロース・マネージャー)。 産業集積を目指し、企業を誘致しても、ハードやソフトの支援は欠かせない。南相馬市は同社を含め35社と連携協定を結び、創業から株式公開までに必要となる資金調達を支援する体制を整えている。「自治体の方々は非常に熱心。自分たちが住む町をどうにかしたいという思いが前面に出ている。スタートアップも土地柄、社会課題、福島の課題を解決したいという思いを抱いている企業がほとんど。我々の思いと重なるので支援の輪を広げていきたい」と連携の効果に期待を込める。

世界のロボット企業が集まる場に

大きく3つのエリアに分かれる福島県


 山家グロース・マネージャーは浜通り地域の可能性への期待を隠さない。

 「ロボテスは震災の復興支援の枠組みの一環として建設されたが、ポテンシャルは大きい。『復興の支援策』という文脈を超えて、日本全体の大きな価値創出に繋がる可能性がある」と強調する。「素晴らしいアセットなので日本だけでなく、世界のロボット・ドローンベンチャーがこぞって集まる場にもできるはず。そうなれば、『福島浜通り地域といえばドローン』、『南相馬市といえばロボットの先端研究都市』というブランディングもできる。復興の先の未来も見えてくるのでは」と語る。

 新産業の芽をどう育てるのか。官民一体となった取り組みがこれまで以上に問われてくる。