政策特集集う、創る、叶える、ふくしまで~福島イノベーション・コースト構想

福島イノベーション・コースト構想とは?

経済産業省 福島新産業・雇用創出推進室 宮下正己室長

 東日本大震災から11年を迎えるが産業復興は道半ばにある。復興の切り札に位置づけられているのが「福島イノベーション・コースト構想(イノベ構想)」。震災と福島第一原子力発電所の事故で被災した福島県浜通り地域に新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトだ。2月の政策特集では、イノベ構想を通じて福島の産業復興に挑む企業や自治体、ベンチャーキャピタルの取り組みを追う。初回は経済産業省福島新産業・雇用創出推進室の宮下正己室長にイノベ構想の現状と浜通りの未来を聞いた。

創造的な復興へ

 ―イノベ構想は2017年5月に成立した改正福島復興再生特別措置法に推進が明記されました。復興支援の枠組みの中で、どのような位置づけなのでしょうか。

 「東日本大震災から今年で11年になります。復興支援は、被災された事業者の方々が元の場所に戻って事業を再開する『事業・なりわいの再建』を主眼に進めてきました。ただ、それだけでは復旧から先の未来は見据えられません。福島県沿岸部に新産業を創出し、発展を目指す『創造的な復興』を掲げるのがイノベ構想です」

 ―重点分野に廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6つを定めています。

 「地域の方々が次にどんな社会を目指すかという観点で、福島県や市町村の方々と対話を重ね、重点分野を設定しました。例えばエネルギー分野では地元では『これからは原子力に依存しない新しいエネルギーを活用した社会を構築していきたい』という強い思いがありました。農業分野ならば、除染で土地が痩せてしまった中で、かつては盛んだった農業を復活させたいと考えている事業者が少なくありませんでした。そうした被災地ならではの課題をイノベーションを活用することで克服するために、我々としては全面的にバックアップしていきます」

チャレンジが可能な場所として

 ―イノベーションを起こすには、地元の方はもちろん、外部の方々の力が欠かせません。
 
 「イノベ構想は『地域の企業が主役』、『構想を支える人材育成』そして、『あらゆるチャレンジが可能な地域』の3つの柱を掲げています。被災地でのプロジェクトということもあり、進出企業への補助率も他の地域より高く設定しています。実用化までの伴走型の支援も用意しています。新たなチャレンジの場所として浜通りを選ぶ県外企業や起業も増えており、我々としては『イノベ構想』の魅力をこれまで以上に発信していきたいです」

 ―浜通りでの起業や県外からの進出企業にはどのような業種が多いのですか。

 「ロボット関係が目立ちますが、業種は幅広いです。イノベーション型だけでなく社会課題解決型の起業家も多いのが特徴です。例えば、農業分野では、新しい地元の食材をいかに美味しく、海外に届けるかに取り組んでいる起業家もいます。何か新しいことができそうだと企業や人が集まり、その輪が広がりつつある段階といえるでしょう。イチから何かを作りたい起業家がテーマを問わずにここまで集まっている場所は日本では他にないかもしれません」

 ―とはいえ、震災の爪痕はいまだに残ります。産業創出には課題もありそうです。

 「我々としては外から企業を呼び込むと同時に、地元の方々にも事業を再開していただきたい思いが強いですね。新しい企業と地元の企業が結びついて、両輪のように回ることで初めて『創造的復興』が近づきます」

 「現時点では事業再開に消極的な地元の企業も少なくありません。ただ、イノベ構想で地域産業が盛り上がる状況を作り出すことができれば、事業再開の動きも高まるはずです。産業創出と事業再開を両面で支援して、正の循環をつくっていきたいです」

 「そのためには支援体制の拡充も欠かせません。どのような取り組みが我々に求められているのか、補助金なのか、それとも進出企業と地元企業とのマッチングなのか、ソフト支援なのか。これまでも、企業の方々の意見を聞きながら、具体化してきましたが、今後も対話を重ね、政策に反映していきたいですね」。

希望の地に

 ―取り組みの成果も出始めています。

 「最も成果がわかりやすいのはロボット分野です。2020年3月にロボット開発拠点『福島ロボットテストフィールド(ロボテス)』が全面開所して、ロボテスを中心に62社の企業が集まっています。すでにロボテスから卒業して、近くの工業団地に工場を建てた企業も出てきています」

 「(地元の)南相馬市も研究開発型の企業を積極的に呼び込んでいます。例えば、ヘルメットを被らずに電動スクーターに乗れるようにするなどイノベーションを後押しする規制緩和にも取り組んでいただいています」

福島ロボットテストフィールドの研究棟

 ―福島県の浜通りはどのような場所になる可能性を秘めていますか。

 「福島県沿岸部は大きな被害を受けて、被災された方の傷はまだ癒えません。生活が壊され、既存のインフラも大半が失われました。こうした状況の中で、イノベーションを通じて創造的に復興を進めたい。日本全体で産業構造の転換が急務な中、あらゆる産業の先端モデルを生み出す場所になることを目指しています。」
 

【関連情報】

※福島イノベーション・コースト構想とは

※実用化開発への補助(補助率最大3/4)

※企業立地への支援(補助率最大4/5)