政策特集水ビジネス海外戦略 未来を切り拓く羅針盤 vol.2-2

日本の戦略とパートナーシップ(下)

横河電機、NEDOの取り組み

 世界の水ビジネス市場で徐々にプレゼンスを発揮している日本企業。相手国の協力や信頼を得るためには、政府との連携も重要だ。経済産業省の「質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業」を活用し、米国で調査を実施している横河電機マーケティング本部イノベーションセンタープロジェクトデザイン部の松井康弘氏、中東やアフリカで「省エネルギー型海水淡水化技術」の実証事業を実施しているNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)環境部主任研究員の佐野亨氏に話を聞いた。

安全に飲める再生水を米国に【横河電機】

カリフォルニア州のラス・ヴァージェネス貯水池(水道源) 写真提供:ラス・ヴァージェネス水道局、横河電機


 —米国カリフォルニア州は干ばつや山火事など、水需要がひっ迫し、水の循環利用に対する意識が高まっているようですね。水資源に乏しいシンガポールやイスラエルなど、再生水※1を飲み水として使っている国は一部存在しますが、米国でどのような水事業に取り組んでいるのですか。

※1 通常の下水処理に加え、膜ろ過処理や酸化処理などでさらに高度な処理を行った水

 「カリフォルニア州では、再生水を直接的に飲用利用するため、浄水場に循環する制度が2023年末までに認可される予定です。同州では上下水道を自治体が運営していますが、新たな法規制に対応するためには、高度な処理によるコストの増加や、安全性を確保するための水質モニタリングの仕組み作りなど、運営にあたり多くの課題があります。当社は、AIやクラウドの運用による維持管理のコストダウン、迅速な水質測定システムの開発により、他社にはないソリューションを提供できると考えています」

タピア下水再生施設(カリフォルニア州)。ラス・ヴァージェネス水道局(LVMWD)と連携しながら再生水の飲用化事業を現地で実証する予定。 写真提供:ラス・ヴァージェネス水道局、横河電機

 —現地の自治体向けのサービスということですが、具体的にはどのような技術なのでしょうか。

 「安全に飲める再生水を効率的に提供することができる技術です。具体的には、広域でのリモート監視を実現する分散制御システムや、人材不足を補うAIやIoTの運用保守ソリューションの普及を目指しています。高度な処理技術の運転管理を半自動化して効率化をはかり、その高度な処理による維持管理コストを削減します。また、安全な水質の確保は重要ですが、遺伝子解析に基づき微生物を検出する技術で、下水処理の包括的な監視と制御を行う技術も提供しています」

 —カウンターパートとなる相手国の自治体、関係機関とコミュニケーションを取る上で大切にしたことは何でしょうか。

 「自社で新規の市場開拓を行う場合は、相手国の水事業における組織体制や法制度、キーパーソン、現地機関の設備投資計画などを正確に把握することが求められます。カリフォルニア州で実施した本事業では、さらに社会問題を反映した法規制の変化を理解する必要があり、設計技術者、分子生物や水質工学を専門とする研究者、水処理施設の現場実務者、市民の声を反映するNPOと率直な意見交換を重ねました。より情報源に近い人々から情報収集できる関係性の構築は、とても大事です」

 —米国での次なる展開を教えてください。

 「当社の技術で、アメリカでの“水の革命”に寄与したいと思っています。将来的にはカリフォルニア州のモデルを、全米50州に横展開していくのが目標です」

横河電機マーケティング本部イノベーションセンタープロジェクトデザイン部の松井康弘氏

日本の海水淡水化技術を中東・アフリカで展開【NEDO】

NEDO環境部主任研究員の佐野亨氏

 —NEDOでは水ビジネスについてどのような取り組みをしているのですか。

 「国内で研究開発した省エネ型の海水淡水化や高度な排水処理技術の商用化を目指し、水資源の少ないサウジアラビアと南アフリカで実証事業を行っています。現地の政府、自治体等とMOU(覚書)を締結し、さらには現地、日本企業と連携して実証プラントを建設し、プラントの性能や処理能力などを検証するものです」

 —相手国政府を巻き込んだ、大規模なプロジェクトですね。サウジアラビアでは10,000㎥/日規模の海水淡水化プラントを建設し、「省エネルギー型海水淡水化システム」の実証を行うとのことですが、どのような点で日本の技術が活かされているのでしょうか。

 「逆浸透法という、海水に圧力をかけて逆浸透膜(RO膜、Reverse Osmosis)を通すことにより脱塩するプロセスがあります。濃度の高い塩水を淡水にするためには、より大きな圧力が必要で、電力をたくさん必要とします。本プロジェクトの実証プラントは、東レによる世界初の低圧海水淡水化膜※2と、日立製作所による低圧多段高収率海水淡水化システム※3で構成され、これにより従来より20%の省エネルギーを達成することができます」


※2 大幅に運転圧力を低下させても、海水淡水化に必要な塩除去率の維持に成功したことにより、従来比10%の消費エネルギー削減に寄与。

※3 RO膜を二段(並列)に配置することで、低圧で高収率運転が可能な省エネルギー型のシステムを実現。独自の装置構成等により、従来比10%の消費エネルギーを削減可能。
 
 —南アフリカのダーバン市では、海水と再生水から飲料水を生産する「海水淡水化・水再利用統合システム(造水量 約6,000㎥/日)」の実証中とのことですが、特徴を教えてください。

 「こちらも日立製作所の技術を活用したプロジェクトです。海水淡水化の原料はもちろん海の水ですが、本プロジェクトでは、近隣の下水処理場の処理水(下水を再生処理する過程で排出される水)を統合利用しています。海水を処理水で希釈し塩分濃度を下げることで、従来型の逆浸透膜(RO膜)を用いた海水淡水化システムに比べ約30%省エネが可能になります。また、原料となる海水の取水設備を小型化できるので、既存の海水淡水化に比べ建設コストを約15%減、運転コストも約20%減コストダウンになります。さらに、排水の塩分濃度を海水と同じレベルにして海に放出できるので、環境に負荷をかけません」

 「ご紹介した2件の他にも、ロシアやタイの水インフラを改善するプロジェクトを進めています。日本の技術力を活かし、世界の水・エネルギーの課題解決を目指します」
 

※第3回は、日本の「水プレイヤー」である神鋼環境ソリューションとJFEエンジニアリングの取り組みについて紹介します。