地域で輝く企業

ブラストの可能性は無限大

ニーズを〝革新〟に変える不二製作所の探索力

 細かい粒子(研磨材)を圧縮空気とともに高速で噴き付け、対象物の表面を加工する「エアーブラスト」。聞き慣れない技術かもしれないが、さまざまな素材表面の性質を高める加工法として、モノづくりの現場に根付いている。

 エアーブラスト装置で、国内トップクラスのシェアを誇るのが、東京都江戸川区の不二製作所だ。開発・生産機能が集まる本社工場には、顧客や専門家も頻繁に訪れ、ブラストの用途開発が行われる。そこでは、モノづくりに新たな可能性をもたらすかもしれない〝小さなイノベーション〟が日々、生み出されている。

ブラストの可能性を追求

ブラスト装置の組み立て工程(本社工場)

 エアーブラストは、金属製品や樹脂製品のバリ取り、表面に梨地模様の凹凸を施す「梨地加工」などに使われる。これらの他にも、メッキや塗装などの前処理、クリーニング、精密加工、表面改質など幅広い加工に対応。自動車部品や航空機体のほか、電子基盤や建築部材など、多様な素材・工業製品に活用されている。

 不二製作所は、1957年に日本初のキャビネット型のブラスト装置を開発した。エアーブラストそのものはガラス工芸などに戦前から利用されてきたが、粉塵(じん)作業のため環境が悪く、珪肺などを引き起こしてしまう恐れもあった。だが、この技術に有効性を見出し、創業者が専用装置を開発。吹き付けた研磨材を、密閉空間内で回収・循環利用する仕組みを確立し、粉塵などの問題を解消した。

 ブラスト装置の大半は、顧客の用途に応じて一品ごとに製造することがほとんど。セラミックやガラス、金属など粒径2000ミクロン(2ミリメートル)―1ミクロンの400種類以上の研磨材に、噴射方式・圧力・噴射量といった装置の機能条件を組み合わせ、さらにはワークの形状や加工部位なども考慮して、オーダーメードで設計開発を行う。また、ブラスト技術や研磨材の研究開発も積極的に行っている。「依頼は基本的に断らない。そうすることで、新技術の開発に取り組んできた」(杉山博己社長)と、顧客の選択肢を増やすため、同社が生み出した装置や加工法は多岐にわたる。

市場で認知されるまでに10年

 数ある製品の中で、いま特に注目されているのが、室内で作業するルームタイプのブラスト装置だ。大型部品・製品のブラスト加工が主目的で、橋りょうなど大型構造物の部材、建機・貨物車部品の塗装前処理などに使用されている。独自の換気システムで、加工室内に一定方向に気流を作り出し、粉塵の舞い上がりを防ぐ。作業中に粉塵が漂い、不明瞭だったルーム内の視界を確保し、作業性が大きく向上した。さらに、独自技術により風力で研磨材を循環回収できることから、コンベアなど機械的な回収設備の設置が不要になり、低床化を実現。ロボットによるブラスト作業の自動化にも対応する。

大型部材のブラスト用「低床大型ブラストルーム」。スチールグリット研磨材でも、アルミナ研磨材でも対応できる。

 このブラストルームは、作業負荷やメンテナンス負担による顧客の悩みをきっかけに開発した。国内外で特許を取得して約10年前に発売したが、本格的に受注が増えたのは2020年頃からだという。杉山社長は「新しい製品を世に出すとき、市場で認知されるまで10年はかかってしまう」と明かす。ニッチ市場で〝売れ筋〟の製品が育つまでには、多くの場合それほどの時間を要する。

 ブラストルームは、2021年度に売上高全体の1割を超える受注を見込む。さらに、今後は自動化ニーズの高まりなどから、「大型装置の需要はもっと拡大する」(杉山社長)とみている。新たな需要に応えるため、本社工場の近くに大型の製品・部材を管理するための工場棟を取得した。年内に専用の組立工場として整備し、供給体制を強化する。

顧客にとって最適な技術を

 不二製作所は、長期の経営目標として「2030年に売上高100億円」を掲げる。社会変化のスピードが速まり、市場ニーズも日ごとに変化する中、どんな技術に成長のカギを見いだそうとしているのか。

「顧客にとって常に最適な提案ができるようにする」と杉山社長。

 杉山社長が有望株の一つに挙げた技術が、「ウェットブラスト」だ。水と研磨材を混合したスラリー液を撹拌(かくはん)し、エアーブラストと同様に空気の力で噴き付ける。対象物の脱脂が不要で、油分がこびりついたものや濡れたものでも加工できることが特徴だ。自動車部品や機械部品などの表面処理に使われるこの加工法は、専用装置をラインアップするが本格展開していなかった。

 近年は、廃業などでウエットブラストの技術を持つ企業が減っているという。この技術を蓄積し、「ウエットとエアー双方の加工ノウハウを持ち合わせることで、顧客にとって最適な方を提案できるようにする」(杉山社長)と展望を語る。

 強みである精密加工にも磨きをかける。研究開発用として、半導体に微細なパターニングを形成できる露光装置を今秋導入予定。ナノメートルレベルの微細加工を強化し、半導体製造に関わる装置部品や治具など、開発競争が続く半導体分野で対応力を高める。同時に、弾力性のあるメディア(研磨材)を使って、噴射で金属の鏡面仕上げができるブラスト加工技術「シリウスZ」など独自技術の用途開拓を進める。

「地域で憧れの企業」を目指す

2020年12月に完成した本社の新社屋。

 都営地下鉄新宿線の船堀駅にほど近い本社工場の好立地は、人材確保やニーズの収集などにメリットを生み出す。従業員に地元出身者も多く、長年、都立葛西工業高校、都立蔵前工業高校など近隣の工業高校から新卒採用を続けている。杉山社長は、「製品は一品一様のため、知識集約型のモノづくりが中心。設計・開発など人手による仕事が大半で、長く働ける人材は欠かせない」と訴える。

 2020年には、本社工場(南工場)の増改築を実施した。新しい社屋に映えるステンレス製の壁面・柱には、特殊なブラスト加工が施され、訪れた人の目を引く外観となった。杉山社長は装いを新たにした同社を眺め、「地域のランドマークとして存在し、憧れの企業になりたい」と思い語る。これからも東京の街に根ざしたモノづくりを続け、顧客に寄り添ったブラスト技術を追求していく。
 
 
【企業情報】
▽所在地=東京都江戸川区松江5の2の24▽社長=杉山博己氏▽売上高=58億7000万円(21年3月期、グループ会社含む)▽設立=1959年(昭34)9月