政策特集エネルギー vol.8

広がる再エネの可能性

弱点克服する新技術の開発相次ぐ


地球温暖化対策やエネルギー自給率向上のために、再生可能エネルギーの活用は欠かせない。その一方で、大量導入に向けてはその弱点も指摘されている。天候次第で出力が目まぐるしく変わる太陽光や風力発電は、使う量以上に電気をつくってしまう恐れがあるからだ。需要を上回る電気が電力系統に送り込まれると、送配電設備に負担となって故障や停電を起こす恐れがある。そんな再エネの不安定さを補い、大量導入を支える技術開発が進んでいる。

再エネから水素を

再エネの弱点克服策の一つとして期待されるのが「Power to Gas」。太陽光や風力発電の電気を水素としてエネルギー貯蔵する方法だ。キーテクノロジーは、再エネの電気で水(H₂O)を水素(H₂)と酸素(O₂)に分解する装置(水電解装置)。製造した水素はタンクなどに貯めておき、燃料電池自動車(FCV)や水素発電等に利用する。

太陽光や風力が電気を作りすぎたタイミングで水電解装置を動かし、余剰電力を水素として貯蔵することで、再エネを余すことなく消費することができる。加えて、再エネを使って水素を製造しているため、製造から使用までトータルでCO2を排出しないカーボンフリーなエネルギーにすることができる。

世界最大の水電解装置、福島・浪江で

福島県浪江町で、大規模なPower to Gasの実証プロジェクトが始まっている。現時点で世界最大規模の能力となる1万キロワット級の水電解装置を活用し、再エネから水素を製造する実証を行い、2020年から実証運転する計画だ。

この実証事業は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から事業委託を受けて、東芝、東北電力、岩谷産業の3社が検討を進めている。運転開始予定の2020年は、「パリ協定」がスタートする年であり、東京オリンピック・パラリンピックも開かれる。福島産水素を福島県内のみならず、東京に輸送し、東京オリンピック・パラリンピックの際にも活用していくことで、「復興五輪」として浪江町のPower to Gas実証プロジェクトを国内外に発信していく。

Power to Gasに関して、NEDOは北海道苫前町、宮城県仙台市などでも実証を進めている。苫前町では風力発電の電気で水素をつくり、輸送してLPガスと混焼して熱利用する。仙台市では浄水場の太陽電池で水素を作って貯蔵し、燃料電池で電気に戻して使う。浄水場内で水素の「作る」「ためる」「使う」を完結できる。

すでにPower to Gasの実用化も進んでいる。東芝は、水素の製造、貯蔵、利用(燃料電池)の設備一式をまとめた自立型水素供給システム「H₂One」を発売しており、一部の施設などで活用されている。長崎県のハウステンボス「変なホテル・ウエストアーム」では、12室の電気とお湯をH₂Oneでまかなう。宿泊者は一泊の滞在でも「水素社会」を体験できる。

ハウステンボス「変なホテル・ウエストアーム」に設置された自立型水素供給システム「H₂One」

日本発のペロブスカイト太陽電池

太陽光発電は場所を選ばずに設置できる分散電源としての強みがあるものの、火力発電のように1基から大量の電気を安定供給できない。

たとえば設備利用率という指標がある。最大出力で運転を続けた場合の発電量(100%)に対する、実際の発電量の割合だ。日本国内に設置した場合は、日照時間の関係で太陽光発電の設備利用率は15%程度だ。これは中東諸国に設置した場合に比べて約7割にしかならない。これが日本国内での太陽光発電のコスト高の要因の一つとなっている。国民負担を増やさずにもっと太陽光発電を増やすためには、従来の半分以下のコストの太陽電池を倍以上のスケールで設置していくしかない。

そんな太陽光発電の救世主になるのではと期待されているのが「ペロブスカイト太陽電池」だ。ペロブスカイト太陽電池はこれまでの太陽電池と違い塗布製造できる(塗って作れる)うえ、発明から10年もたたないうちに研究レベルでは既存の薄膜太陽電池の性能を超えてしまい、主流のシリコン系太陽電池の性能さえ超えてしまうのではないかと期待されている。しかも日本生まれ。発明した桐蔭横浜大学の宮坂力教授はノーベル賞候補として名前が上がったこともある。

向上進む変換効率

「ペロブスカイト」は、特殊な結晶構造を指す。それ自体は目新しい構造ではないが、宮坂教授がある種のペロブスカイト化合物が太陽電池として作動することを見いだした。宮坂教授が2009年に製作したペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は3%台だったが、2012年に10%を突破すると世界中で研究に火がついた。

2017年11月にはNEDOのプロジェクトで、東京大学大学院総合文化研究科の瀬川浩司教授と東大先端科学技術研究センターの別所毅隆特任講師らが、小面積のテストセルで変換効率20.5%をたたき出した。希少金属を一切使わずに、地球上に多く存在するカリウムを添加して結晶構造を安定化させた。

エネルギー変換効率とは、太陽光エネルギーを電気に変える性能を示し、数値が高いほど少ない面積で多くの電力を生み出せる。現在市販されているシリコン系の太陽電池の変換効率は、およそ15%~20%。研究段階の小サイズセルでの測定だが、ペロブスカイト太陽電池の変換効率向上の勢いには目をみはるものがあり、世界中の研究者、技術者が血眼になって研究を進めている。

コスト低減、用途も広がる

製造コストの安さもペロブスカイト太陽電池の魅力の一つだ。まず材料そのものが安価。その材料を基板に塗るだけで製作できるため、シリコン系のような高温や真空を必要とする製造プロセスを省くことができて、生産コストも抑えられる。

加えて、太陽光発電の応用範囲も広がる。結晶シリコン系太陽電池の設置場所は屋根や地面が多い。それが薄くて軽いペロブスカイト太陽電池では、ビル壁面にも貼り付けられる。フィルムのような柔らかい基板にも材料を塗布できるので曲面への設置も可能だ。将来、自動車ボディーへの装着も考えられる。宮坂特任教授らは2017年11月、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の変換効率で18%を記録した。フィルム型では世界最高性能とみられる。

厚さ126マイクロメートルのフィルム型ペロブスカイト太陽電池(宮坂教授提供)

次世代太陽電池の本命として大きな可能性を秘めるペロブスカイト太陽電池だが、実用化への課題もある。一つは耐久性だ。空気や湿気で劣化するため、長期間の屋外暴露で劣化する可能性がある。基礎研究レベルでは、劣化の原因はかなりわかりつつあり、国内外の研究機関や日本の企業からも耐久性を高めた研究成果が次々と発表されている。NEDOは2020年までに変換効率25%、1万時間の光照射でもびくともしないペロブスカイト太陽電池の実現を目指している。