METI解体新書

世界の今・日本の未来を知る通商白書とは?

経済産業省 通商政策局企画調査室 下條 岳昭室長補佐(総括)(右)、手塚 茜係長(当時)(左)

【通商政策局企画調査室】
 「経済産業省には色んな部門があるけど、それぞれの部署が具体的にどういう政策を担当しているのか分からない…」そんな疑問を抱かれる方も多いのではないでしょうか。

 「METI解体新書」では経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明していきます。

 第2回は、「通商白書」を執筆している通商政策局企画調査室の下條岳昭室長補佐(総括 以下、下條)、手塚茜係長(当時 以下、手塚)です。

手塚係長

皆に読まれる白書にしたい

(手塚)通商白書を読んだことはありますか?と聞かれ、「ある」と答える人は少ないと思います。大学教員やエコノミストの方も、データだけ参照するという人も多いです。
 通商白書は、世界経済や、通商政策をとりまくホットトピックについて、政府の取り組みを1年に1度報告するものです。統計等のデータを活用して状況を客観的に分析し、白書としてまとめることで、今後の通商政策(経済連携協定、投資協定や、WTO等での国際的なルールの検討等)の方向性を考える情報を提供しています。

(下條)通商白書は、1949年(昭和24年)から続いており、今回で73回目と非常に伝統のある白書です。戦後の高度経済成長期の動向から、日米貿易摩擦、リーマンショック等、これまでの通商を巡る大きな動向を記録しています。通商政策局には米州課や欧州課など、地域ごとに実際の交渉を担う担当課室がありますが、企画調査室は、いわば、通商政策や世界経済に関するシンクタンクとして、通商政策局全体を支える役割を担っています。

(手塚)多くの人に興味を持ってもらってこそ白書は意味があります。
 今年の白書で、4つの潮流として取り上げていますが、①政府の経済面における役割の拡大、②各国における経済安全保障の強化の流れ、③国際経済活動における共通価値(人権、サステナビリティ等)への関心の高まり、④ビジネスのデジタル化、といった流れは、コロナ禍でさらに加速しました。これらの動きは、特にサステナビリティ、グリーンといった観点では、市場の形成につながるチャンスでもある一方で、共通価値を守らなければ市場獲得の機会損失につながりかねません。貿易に直接関わる企業だけでなく、間接的に貿易に関わる企業も対処が必要とされるため、ぜひたくさんの人に読んでもらい、広く知ってほしいと思っています。より多くの人に読んでもらえるよう、今年は広報にも力を入れています。

下條室長補佐

分析と政策をつなげる

(手塚)「人権、サステナビリティ、グリーン、ソーシャル」という新しい共通価値は、企業の皆さんにとって重要な観点です。それを、白書の中で上手く伝えたいという思いがありました。自社だけでなくサプライチェーン全体で、人権侵害をなくすよう法律として定める国もあります。また、社会課題とビジネスをどうつなげるか、ということも重要な観点になっています。こういった観点は市場機会の創出にもつながりますが、リスクにもなり得ます。

(下條)これまで、環境の重要性をCSRの一環として表明する企業は多かったと思いますが、今は環境保全に繋がる取り組みそのものが、直接ビジネスにつながる傾向にあります。もちろん、企業の皆さんも意識していると思いますが、政府として明確にメッセージを出した点は、今年度の白書の大きなポイントです。新型コロナウイルス感染症後の世界で、新しい共通価値を踏まえ、世界のルールメイキングがどうなるか、日本がどうしていくか、注視して見ていかなければなりません。

(手塚)経済安全保障に対する意識の高まりについても、国際的な潮流の一つとして取り上げています。米中対立や、コロナウイルス感染拡大による影響もある中で、サプライチェーンをどうしていくのか。有志国と連携しつつ、機微技術や物資の供給確保ができるようなサプライチェーンを構築していくべき、と提言を出しています。

(下條)人権・サステナビリティや経済安全保障については、世界情勢が様々に動く中で、最新の動向を発信できるように配慮しました。また、単に分析をするだけでなく、通商政策局内の議論と連携し、政府の政策や方針を発信することも心がけており、「伝えること」に重きを置いています。

(手塚)実は、この「政策との連携」がとても大変でした。
 白書は毎年6月末に公表するのですが、毎年5月頃に開催される、対外経済政策に関する政府の会議(産業構造審議会 通商・貿易分科会)における議論と、白書での発信内容をどうリンクさせるか、通商政策局の幹部も交えて何度も話し合いました。世界情勢も日々動く中、最新の状況や議論を反映した点は、ぜひ注目いただければと思います。

多様なバックグラウンドを持つ執筆チーム

(下條)私は、昨年4月に、中途採用で経済産業省に入省しました。前職は日本銀行だったのですが、より実体経済に近く、手触り感のある政策を担いたいという思いから、経済産業省に転職しました。入省後は自動車課で、コロナの打撃に苦しむ自動車業界をどうサポートするか、カーボンニュートラルにつながる自動車の電動化をどう実現するかに取り組みました。現在所属している調査分析を行う企画調査室の仕事は、日銀の仕事とも通ずる部分があります。

(手塚)私は文部科学省からの出向で、科学技術分野における、例えば科学技術予算や論文数といったデータ分析を通じて、政策立案をサポートする部署にいました。分析という意味では似ていますが、経済産業関係のデータは公表頻度が高く、状況が日々、ドラスティックに変わる印象を受けます。

(下條)休日はアメフト、ラグビー、野球などのスポーツ観戦を楽しんでいます。旅行に行ったり、料理を作るのも好きですね。

(手塚)私は生き物が好きで、週末はペットと戯れています。「ヒョウモントカゲモドキ」を飼っており、白書執筆で疲れた時に癒されていました。

(下條)企画調査室には、様々なバックグラウンドの人がいます。経験が長い人、外資系金融機関の調査部で働いていた方やベンダー企業のシステムエンジニアとして働いていた方など、様々なバックグラウンドの職員が執筆に関わっています。

世界の状況を踏まえ、日本の立ち位置を知る

(手塚)「通商白書」という名前ですが、各国の経済状態、コロナや自然災害の影響、政府の役割の増大など、広くテーマとして取り上げています。世界の状況を踏まえて日本の立ち位置を知るにはうってつけのものです。

(下條)政策担当者や、企業の国際部門の方に限らず、学生、若手社会人、対外的な交渉に関わる方も含めて、是非、多くの方に読んでいただければと思います。

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