政策特集知的財産経営 vol.8

ベンチャー2社に聞く、知的財産経営

「知財は戦うための武器」


 ベンチャー企業の知的財産経営が注目されている。開発型ベンチャーであれ、ブルーオーシャン(未開拓市場)を切り開くベンチャーであれ、経営資源に限りがある小さな企業にとって最大の武器となるのはやはり知財。どのように攻め、どのように守り抜くのか。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(東京都港区)の阪根信一社長と、ユニバーサルビュー(東京都千代田区)の鈴木太郎社長にそれぞれお話しをうかがった。

■セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ

 セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズは2014年設立。阪根社長の父親が経営するアイ・エス・ティ(大津市)から独立した。洗濯物折り畳み機の開発で一躍注目を浴びている。

 ―カーボン・ゴルフシャフトに一般医療機器「ナステント」、そして世界初の洗濯物折り畳み機「ランドロイド」。あまりに分野がバラバラですが、自社の技術シーズを水平展開することなどは重視しないのですか。
 「世の中にまだないものを開発テーマに選ぶので、どうしても技術を一から開発しなければならない。テーマはあくまでニーズから選ぶが、技術シーズの開発は普通の会社と同じようにゴリゴリとやっていますよ。ただ、なまじっか技術力がある企業は、自分の持っている技術を応用すれば、あれができる、これができるなどと、シーズからシーズへと思考が展開しがち。大学での研究ならそれで良いのかもしれないが、企業がそれではいけない。ビジネスだから、売れなければ意味が無い。だからニーズから選ぶんです」

開発は徹底して秘密裏に

 ―ランドロイドの開発はずっと秘密で進めていたそうですね。
 「2005年から開発を進めていましたが、銀行に話したのは2014年。提携相手となるパナソニックに話したのは2015年6月で、これが銀行以外では初めてだった。そして2015年10月開催の家電見本市『CEATEC(シーテック)ジャパン』で発表した。銀行から何に研究費を使っているのかと聞かれても、未来の技術に投資していますとだけ答えていた。懸念したのは、開発テーマを公にしてしまうと、まねされてしまうこと。だから徹底して秘密裏に進めていた。すべて知財を守り抜くため。まあ、折り畳み機なんて言ったら、融資を引き上げられてしまっていたかもしれないですね」

「未来の技術に投資していますとだけ答えていた」(阪根さん)

 ―知財への意識はもともと高かったのですか。
 「大企業出身の父は、私が中学生の時に研究開発ベンチャーを興しています。そこで知財でいろいろな戦いをしてきた姿を見てきましたから、知財や機密保持に対する意識は非常に高いと思っています。小さい規模の割りにはぬかりなくやっているのでは。ランドロイドも相当の特許を出願してきたが、他社に話を持って行く直前に、もう一度弁護士などを交えて特許を見直しました。だから5月31日出願の特許もある。我々なりに万全にできる範囲のことをやってきました」

 ―どのようなお父さんですか。
 「父は会社を立ち上げた時、田舎のバラックを出世払いで手に入れたのですが、その窓硝子にフィルムを貼る手伝いをしました。窓の外には田園風景が広がり、せっかく良い景色なのにもったいないと不平を漏らしたんですね。そうしたら『何言っているんだ。ここから新しい技術が続々と生まれるのだから、外から見られてはいけないんだ』と怒るんです。まったくがらんどうだったのに」

前職で特許係争を経験

 ―ご自身が知財で経験したことは。
 「父の会社で私が社長を務めていた時、取引先に特許係争をしかけたことがあるんです。侵害されていると。でも結局、勝つことはできませんでした。このまま続けても損にしかならないと、手打ちにするしかなかった。製造特許だったのですが、これは非常に戦いにくい。侵害を証明するには相手の工場に踏み込まなくてはならないのですから。そもそも製造特許を取得するにはノウハウをすべて公開することも必要なので、敵に塩を送ることになる恐れもある。だから当社では製品に着目し知財戦略を立て、特許・意匠・商標の権利を必要に応じて多面的に取得しているが、製造に着目したものは出願していない。ただ技術資料は公証人役場で確定日付印をもらって保存しておく。そうすれば、仮に製造技術で訴えられても、もともとその技術を有していたことを証明できる。知財は戦うための武器だと考えている」

 ―国内外で特許を取得されてますが、費用がたいへんでは。
 「確かに悩みの種です。日本だけならともかく、国際出願になるとケタが上がる。ただ苦しくてもキラー特許は押さえなければならない。ランドロイドも、重要なものについては、国内で出願した後、海外でも出願している。分割出願等を有効利用することで、限られた予算の中で、最大の成果を上げることを心がけている。企業は世の中の役に立とうと研究開発を行うが、そのためにはビジネスとして継続させなければならない。そのための競争力を持ち続けるためには莫大な投資が必要だが、それを守ってくれるのは知財しかない。戦略的に知財を獲得していかなければ、技術開発の成果をビジネスに有効活用することができない」

「苦しくてもキラー特許は押さえなければならない」(阪根さん。後ろにあるはランドロイド)

ブルーオーシャンを目指す

 ―知財経営に対する金融機関からの評価は。
 「金融機関は融資を決める際に知財でもデューデリジェンスを行うが、ここまでやっているのかとビックリされる。ナステントなど競合が現れてもおかしくないが、特許を調べて諦めているのかも知れない。イノベーションを起こそうとすれば世の中にないものをやらなければならない。当社も、他社の特許が障害になるぐらいなら、完璧なブルーオーシャンを最初から目指したいと考えています」

■ユニバーサルビュー

 ユニバーサルビューは2001年設立。視力回復レンズのオルソケラトロジー治療を世に広めることを目的に2006年からオルソケラトロジーレンズの開発に着手。2009年に完成し、2012年から販売を開始した。鈴木社長は2006年に参画した。

オルソケラトロジーレンズには近視の進行を遅らせる効果も

 ―オルソケラトロジーとは何ですか。すいませんが初耳です。
 「夜寝るときに装着するコンタクトレンズで、角膜を矯正します。そうして朝起きてレンズをはずすと、日中は裸眼で過ごすことができる。近視の進行を遅らせる効果もあります。世の中から眼鏡をしている人をなくしたいと考え、5年前から販売。2012年に厚生労働省から新規医療機器として承認を受けています」

東レと提携

 ―東レと提携していますね。販売の実績はいかがですか。
 「折り曲げても割れず、酸素透過性に優れた特殊な素材を提供してもらっている。加えて総販売元として販売もお願いしています。われわれの社名で販売するより、東レブランドの方が効果がありますから。現在は47都道府県、300の眼科医などで扱ってもらっています。国内シェアは6割です。当社の市販後調査のデータを見ますと18歳未満の子どもが全体の7割を占めてます。コンタクトレンズを装着してスポーツするのが心配といった親御さんからのニーズに応えていて、海外では近視の進行を抑制できる治療法としても普及しており、5年間の追跡調査では40%程度の抑制効果があるという結果が出ている。そのため国内でも近視の治療のために処方する眼科医が増えています」

 ―ユニバーサルビューの持つ特許はどのようなものですか。
 「角膜補正レンズのデザインで特許を取っている。つまりオルソケラトジーの効果を最大にする形状、デザイン。2001年に特許を申請し、2004年に取得した。コンタクトレンズというのは涙液と接して角膜に装着しますが、レンズの内側に特殊なカーブを作り込んでいて、装用感が良い。他社のレンズは欧米人仕様となっているため、レンズが適合しないケースが多々あります。当社では視力により60種類のレンズがありますが、眼科での検査結果をインプットすれば、患者の矯正可能性と一番適したレンズをすぐ特定できるアプリも開発しています。目のことで困っているニーズを形にすることにこだわっている」

最初は門前払い

 ―東レとの提携の経緯は。
 「素材で協力を求めたのですが、最初は門前払いでした。名も無ければ金も無い小さな会社でしたから。それでも、あらゆるルートをたどり当時の副社長にアプローチし、視力のせいで夢が閉ざされる子ども達に可能性を広げてあげたいと訴え続けました。最終的には特許を持っていたことが、認めてもらえる要因の一つにはなりました」
 「東レにとっても、事業戦略にちょうどはまったようです。コンタクトレンズにはソフトとハードがありますが、東レはハードを展開している。しかし国内2000億円市場のうち9割がソフトで1割がハード。この1割の200億円の中でさらに競合しており、何かイノベーションを求めていた。そこで我々の技術と組めば、化学反応がおきて新しい可能性が開けると認めてもらいました」

「ベンチャーにとっては、早い段階で大企業と組むことが大事」(鈴木さん)

 ―医療機器の開発はコスト負担が重いのでは。
 「医療機器の申請を行うには億円単位の費用が必要です。リーマンショックに重なる不運もありましたが、臨床試験で良い結果が出て、2009年に東レと資本提携ができました。またベンチャーキャピタルからも調達ができた。それでも臨床試験で協力してくれた大学には支払いが遅れてしまい、最後は個人保証をするなど数千万円の支払いを完了させました。ベンチャーにとっては、早い段階で大企業と組むことが大事です。医療機器だと承認まで時間も費用もかかり、ベンチャー1社の力では難しい。知財を固め、大企業を説得するだけのエビデンスを固める。そうして大手と組めば、大手のブランド力、販売力、マーケティング力を活かすことができる。我々も東レの素材の強さが優位性につながっています」

 ―特許は海外でも出願したのですか。
 「この特許は国内でしかとっていない。特許取得まで時間も費用もかかり、当時は資金が足りなかった。グローバル展開も視野には入れていたが、そこまでの余裕はなかったし、海外で特許を取得するための行政の支援も現在ほどはなかった。もし海外でも取得していればライセンス収入を得る道もあったのだがと思うが仕方ない」

次期商品は18カ国で出願

 「次に開発を進めているピンホールコンタクトレンズでは、国内だけでなく海外でも特許を取得している。ピンホール効果によって視力に関係なく遠近両用で使用できます。通常のコンタクトレンズで老眼に対応しようとすると、150~170種類もの中から選ばなければならず、処方するのもたいへんだが、これだと基本1種類で良い。コンタクトレンズの普及率や人口などをベースに世界18カ国で出願し、これまで15カ国で取得している。2018年はじめに慶応大学で40人規模の老眼患者で臨床研究をスタートする。世の中にないコンセプトのレンズだが、グローバルに企業と提携しながら普及を目指す。そのためには知財戦略もグローバル化しなければいけない。夢を実現するためには、すべて自前でやるのではなく、まわりをどんどん巻き込まなくてはならない。そのカギとなるのが知財です」

「夢を実現するためには、まわりをどんどん巻き込まなくては」(鈴木さん)