午前中に予約した商品が午後には手元に――毎日飛行する空飛ぶデリバリーサービス〜後編
長野県伊那市では、過疎地域となった町や村に住む高齢者などに、買い物支援のデリバリーサービスをドローンで運用している。サービスのオペレーションを担っている「信州伊那宙(しんしゅういなそら)」(所在:伊那市)の蟹澤幸一さんに、運用の詳細や今後の展望について伺った。
一見簡単そうな操作でも、イレギュラー時のための訓練が必要
—まず、1回の飛行でドローンが運べる荷物の重量、飛行できる距離を教えてください。
「荷物の重量は5kgまで、7kmの飛行が可能となっています。風速10mまでならば物資を乗せて安全に飛行することができます」
—信州伊那宙には何人のパイロットがいらっしゃいますか?
「現在は3人です。常時2人のパイロットと1人のアシスタントの体制です。全員同じようなレベルの技術力を持っています」
—ドローンを飛ばすプロセスを簡単に教えてください。
「まず、タブレットのアプリを立ち上げ、配送先の公民館の住所を入れて目的地を選択。『ドローンポートから●●の公民館に飛行しなさい』と指令を出します。その後公民館で品物の受け取りのために待機しているボランティアの方と電話で連絡をとって周囲の安全を確認し、さらには気象状況を確認します。飛行できるすべての条件が整っていれば、スタートボタンを押すというプロセスです」
—操作は簡単なように思えますが……。
「ここまでの説明を聞くだけでは、そう思われるかもしれません。しかし、飛行中にイレギュラーな事が起こった場合、ドローンが待機している場所に向かい、手動で操縦しなくてはなりません。しかも、その際、LTEの携帯から画像と情報を送ってくるので、タイムラグが生まれてしまいます」
—どれくらいのタイムラグが生まれるのですか?
「1秒ぐらいですね」
—1秒ほどであれば、誤差のような気もします。
「と思うでしょう?(笑)。でも、このドローンは秒速最大10mで飛行していますから、10m先に進んでいる状態を想像して操縦しないといけないのです」
—となると、簡単ではないですね。今まで飛行トラブルはなかったのでしょうか?
「いまのところはないです。風速10m以上の雨風になった場合は、品物を車で運びますが、毎回ハラハラドキドキの連続です」
—ところで、利用者はどのようなものをオーダーするのですか?
「食品ならば、なぜか豆腐がよくオーダーされます。日常的に使う材料ですし、自分で買いに行くとなると、崩れないように気をつけないといけないからかもしれません。ただし、ドローンで運ぶときは温度管理が難しい。伊那市は盆地だから、夏は酷暑で冬は厳寒。夏の暑さで豆腐などの生ものがいたまないように注意が必要です」
民間では採算が合わない事業に挑戦できた幸せ
—温度管理はなかなか難しそうです。
「何しろ、国内で初めてのオペレーションを行っているので、エビデンスがないのです。運用しながら最適な数値をはじき出していくしかない。まだまだやるべきことが山積していますが、課題を解決していくこともまた、我々のやりがいになっています」
—ドローンのオペレーションをやっていてよかったと思うのは、どんな点ですか?
「民間事業者では、どう考えても採算が合わないと思いますが、伊那市が力を入れて投資してくれていることが嬉しいですね。そもそもこのような大型のスマートドローン事業には携われなかったでしょうし、機体の開発も大手の企業が行なっているので、技術力が高い。これほどのクラスのドローンになると、飛行も操縦も安定しているのが素晴らしいです」
—今後のドローンの課題を教えてください。
「課題というよりも、自分たちの欲がどんどん出てきますね。たとえば、リチウム電池が改良されて軽量化されれば、もっとたくさんの荷物を運べるようになるでしょう。通信システムが5Gになればタイムラグも出ません。今後はデリバリーサービスだけでなく、農業などいろんな分野でどんどん活躍していきそうですね。というよりも、そうならざるを得ない状況に世の中がなっていると思います」
—2022年の航空法改正、レベル4への移行を見据えて、どのような展望を描いていますか?
「機体もその時にはさらに進化しているでしょう。どんどんアップデートされるドローン技術に追いつけるような人材育成に、力を入れていきたいと思っています」