政策特集福島の10年 vol.7

刻々と変わる廃炉風景 処理水貯蔵タンク満杯迫る

東京電力福島第一原子力発電所ルポ【後編】

処理水を貯蔵したタンクが敷地内に立ち並ぶ


 廃炉作業は水との戦いでもある。原子炉格納容器内で溶け落ちた燃料デブリを安定的に冷却するうえで不可欠だからだ。前編では雨や地下水の流入によって発生する汚染水を抑制する対策現場を歩いた。後編は、これらを浄化処理した後の水を貯蔵したタンクが立ち並ぶ一帯から、歩を進めよう。

敷地スペースもはや限界

 東京ドームのおよそ75倍にあたる広大な敷地が広がる東京電力福島第一原子力発電所。南側にかけての一帯に処理水を貯蔵したタンクが立ち並ぶ。その数、約1000基。最大137万立方メートルの貯蔵が可能だが、現時点までに約124万立方メートルに達している。
 発生抑制対策に加え、わずかでも漏えいさせぬよう対策を講じてきた。タンクそのものの見直しはそのひとつ。機材をボルトでつなぎ合わせた従来のフランジ型に代わり、より密閉性の高い溶接型への置き換えを進めてきた。

従来タンクから置き換えられたつなぎ目のない溶接型タンク


 こうした複合的な対策を講じてきたが、敷地内にこれ以上、タンクを増設することは厳しいのが現状だ。敷地内を俯瞰すると、まだまだ活用の余地があるように映るが、現実は異なるという。今後、使用済燃料プールからの燃料取り出しが本格化すれば、これを密閉保管した容器の設置スペースの確保が必要となる。もとより、廃炉作業で発生する廃棄物は多岐にわたり、その増大を見越して、敷地内北側エリアを造成し、焼却処理施設の増設を急ピッチで進めているほどだ。
 今後の敷地利用は、廃炉作業の進展に応じて検討されることになるが、東京電力ホールディングス福島第一廃炉推進カンパニー リスクコミュニケーターの松尾桂介さんによると「敷地の北側は廃棄物の処理・保管用のスペースとして、南側は使用済燃料や燃料デブリの一時保管施設としての活用を考えています」。

建設作業が進む大型廃棄物保管庫

水素によく似たトリチウム

 ところで、1000基に上るタンクに貯蔵されているのは、トリチウムを除く放射性物質の大部分を除去して浄化した「処理水」と呼ばれるもの。その処理を担う設備が、タンクが立ち並ぶ一角と道を隔てたエリアに立地する多核種除去設備、通称「ALPS(アルプス)」である。2013年に稼働した。
 この設備は、トリチウムを除く62種類の放射性物質を取り除くことが可能で、セシウムのみを取り除いていた事故直後の処理設備とは浄化能力のレベルが異なるという。ならばトリチウムも取り除くことはできないのか。
 トリチウムは水素に中性子が二つ加わった「三重水素」で水素の「なかま」。すなわち「水素」とよく似た性質を持っているため、現在の技術では水からトリチウム水を取り除くことは困難だ。ただ、トリチウムは、ベータ線と呼ばれる放射線を出すものの、そのエネルギーは小さく、紙一枚で遮ることができるほど。写真で松尾さんが手にするのはトリチウムを含んだ処理水が入ったボトル。「プラスチックで遮断されているのでベータ線は出ていません」(同)。

処理水が入ったボトルを手にする東電の松尾さん


 なお、放射性物質を含む水に対する国の規制基準には、「タンクに貯蔵する際の基準」と「環境中へ放出する際の基準」のふたつがある。現在、貯蔵されている処理水はもちろん前者を満たしているが、後者を満たしていないものもある。今後、仮に処理水を環境中へ放出する場合には、後者の基準を満たすよう、再び浄化処理を行い、トリチウム以外の放射性物質の量をさらに低減することになっている。
 かつてこの季節。構内に向かう歩道には1000本近い桜が咲き誇り、行き交う作業員らの目を楽しませていた。こうした春の光景と同様に、福島第一の姿も廃炉作業の進展とともに日々変わりゆく。
 ここで日々繰り広げられる廃炉作業は、時に予測困難な作業も起こりえる、世界にも前例のない取り組みである。それだけに多くの関係者が目標を共有し、結集する姿勢が問われている。東京電力が計画を着実に実施するのはもちろんのこと、国も前面に立ち、一日も早い福島の復興に向け、安全かつ着実に廃炉を成し遂げられるよう邁進する所存である。

 ※ 「福島の10年」は今回で終了です。