地域で輝く企業

貫かれる安心・安全へのこだわり 世代を超えて愛される信州ハム

「丁寧に作る」「質を売る」経営理念とは

「グリーンマーク」とは発色剤や保存料などを使用しないでつくられた信州ハムのハム・ソーセージに付けられるシンボルマーク

 新型コロナウイルス感染症は、あらためて健康であることのありがたさや、何げない日常の大切さを思い起こさせた。消費者の健康志向が高まるなかで、信州ハムが販売するハムやソーセージ「グリーンマーク」シリーズが着実に売り上げを増やしている。
 ハム・ソーセージ類は朝食やお弁当、サラダと手軽にさまざまな用途に使えるものとして、どの家庭にも常備される人気食材だ。それだけに市場の競争は厳しく、スーパーの店頭では大手メーカーの商品がしのぎを削る。それに比べて信州ハムの商品は正直に言って、地味だ。それでも消費者が支持するのは、素材から生産、販売に至るまで、安心・安全へのこだわりがしっかり貫かれているからだ。

無塩せきへの挑戦

 信州ハムは長野県の中小食肉加工品製造業として創業し74年になる中堅食品メーカー。主な商品は「グリーンマーク」シリーズと、高品質ハム・ソーセージの「爽やか信州軽井沢」の二つのブランドを展開している。
 ハム・ソーセージは伝統的には豚肉や牛肉、鶏肉などの原料に岩塩を使って製造されていた。終戦後、消費者の食の多様化のなかで、需要が大幅に拡大し、大量生産時代が到来するなかで、冷蔵輸送技術が発達していない時代には、保存料などの添加物の使用は不可欠だった。
 しかし、消費者の食の安全への意識が高まるなかで、消費者や販売先から「子どもに安心して食べさせられる商品が作れないか」との問いかけが同社に寄せられるようになった。その思いに応えようという同社の挑戦が始まった。

おいしさと安全 どう両立

 添加物を使わずに食肉を加工する。そこには幾多の障壁が待ち構えていた。まずおいしくなければ意味がない。同社は原料の豚肉を徹底的に厳選し、うま味調味料であるグルタミン酸ソーダを使わなくとも、肉そのものの味で勝負できるようにした。生産工程での異物混入を徹底して排除し、さらに小売店にタイムリーに商品を供給する配送システムを整えることで、保存料を使わない生産・販売体制を実現させるなど、ありとあらゆる面で工夫を凝らした。
 それでも他社の商品の賞味期限がウインナーなら30日から40日あるなかで、同社の商品は20日程度と短い。発色剤を使っていないので、見栄えも地味ではある。しかも価格は素材を厳選するために致し方ないのだが、割高な価格設定になっている。

ドイツの国家資格「食肉マイスター」取得者も

 もちろん最初から売れたわけではない。それでも同社のこうした地道な努力を大手スーパー各社も評価し「グリーンマーク」ブランドは、店の冷蔵ショーケースの中で定位置を獲得。大手メーカーによる特売合戦とは一線を画す地位を得ている。
 同社の宮坂正晴社長は「当社の思いがお客様にも評価され、ここまで来られた。これからも安易な安売りを控えて『丁寧に作る』『質を売る』など、特徴のある商品づくりにこだわっていきたい」と語る。

宮坂正晴社長

 おいしさを追求するうえで最も重要と考えるのが、人材の育成。各種認証規格やハム・ソーセージの技能資格に関する研修会や勉強会を定期的に開催し、資格を取得した社員にはお祝い金を出して奨励しているほか、ハム・ソーセージの本場ドイツの国家資格である食肉マイスターの資格取得を目指す留学制度も設け、現在3名の食肉マイスターが誕生している。
 食品の安全を守る取り組みとして、食品安全の国際的な規格である「FSSC22000」をはじめ「AIB認証」を取得するなど衛生管理を徹底している。同社の企業規模でこれらの規格を維持するには相当な努力や費用負担も必要だが、社員の安全への意識も高まり、成果を感じているという。

ソーセージの生産工程

食育で地域に貢献

 地域社会への貢献として、地域の小学校の児童らに工場見学などを通じて食の大切さを伝える食育活動を毎年実施しているほか、児童養護施設や子ども食堂への食材提供も続けている。また長野に拠点を置く独立野球リーグの「グランセローズ」やサッカーJ3の「ACパルセイロ」を応援している。
 宮坂社長は採用面接の席上、学生から寄せられたこんな言葉をいまなお心に留めているという。「子どものころから『グリーンマーク』のソーセージを食べてきました。祖母の代から3世代続いています」。
 商品づくりに垣間見える堅実な経営姿勢が消費者に長く愛され、これからも支持される原動力である。

【企業概要】
▽所在地=長野県上田市下塩尻950▽社長=宮坂 正晴氏▽創業=1941年▽売上高=約150億円(2020年6月期)