政策特集福島の10年 vol.3

「ロボットの町」へ変貌遂げる南相馬市

新産業創出の一方で異なる復興の足取り

日々、さまざまな実証実験が繰り広げられる福島ロボットテストフィールド


 福島県南相馬市が「ロボットのまち」として変貌を遂げつつある。背景にあるのは、東日本大震災および原子力災害によって失われた福島県浜通り地域などの産業を回復するため、国を中心に進める「福島イノベーション・コースト構想」。廃炉やロボット・ドローン、エネルギー、農林水産業、医療関連そして航空宇宙などを重点分野と位置づけ、産業集積や人材育成、交流人口の拡大に取り組むプロジェクトである。2020年3月末に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」(南相馬市、浪江町)は、その中核となる。

充実の開発環境

 「福島ロボットテストフィールド」は南相馬市・復興工業団地内の約50ヘクタールの広大な敷地に総事業費155億円をかけて整備された一大開発実証拠点。ダムや河川の環境を再現できる施設、橋梁やトンネル、さらには市街地やプラントといった構造物を、実在さながらの規模でダイナミックに再現。災害対応や物流、インフラ点検などの分野で活用が見込まれるロボットやドローンの研究開発や実証に存分に取り組むことができる環境とあって、企業を引きつける。
 計測、分析装置や管制室を備えた研究棟に拠点を構える企業などの顔ぶれは多彩だ。22室ある研究室には、デンソーや綜合警備保障(ALSOK)から、「空飛ぶクルマ」の開発で知られるテトラ・アビエーション、アバターロボットを開発するメルティンMMI、東北大学、会津大学などが入居している。
 同フィールドはロボット・ドローンなどの研究開発から実証までを一気通貫で実施できるため、利用者数も拡大しつつある。全面開所から1年が経過する今、世界に類を見ない拠点の強みを生かし、さらに多くの人に利用されることで浜通りの交流人口が増大し、復興にも貢献していくことが期待される。無人航空機の研究開発を手がけるベンチャーとして、2020年8月まで同フィールド研究棟に入居し、現在は南相馬市の産業創造センター(インキュベーション施設)に拠点を置く、テラ・ラボ(愛知県春日井市)は「施設面の充実はもとより、試験飛行などで地元の理解が進んでいることが有り難い」と同市での開発環境の優位性を実感している。
 結果、先端産業の集積地として、南相馬市にはこの1年あまりで、40社近くのロボット関連企業が進出しており、産業波及効果を生み出している。2020年1月には沿岸部に立地する同フィールドと福島市を結ぶ都市間直通バスも開通するなど、アクセス改善も進む。

成長を原動力に

 進出企業の成長を原動力に、先端産業の集積地として地域経済の発展を確固たるものにするための新たな動きもみられる。
 南相馬市は2020年12月、市内のスタートアップの資金調達支援に向け、ベンチャーキャピタル(VC)や地元金融機関など20社と連携協定を締結した。企業とVCなどとの交流や連携を促すとともに、独自に補助金制度の拡充も検討。南相馬市の門馬和夫市長は「企業が資金を確保しやすい環境が整うことで、新産業創出の土壌ができる。市がスタートアップに出資する手法も検討したい」と意欲を示す。福島県も4月の組織改編で商工労働部に「次世代産業課」を新設する方針を固め、県を挙げて新産業の育成に取り組む構えだ。

南相馬市とベンチャーキャピタル・金融機関との連携協定締結式(2020年12月)


連携協定締結後には市内に拠点を置くベンチャー企業とVCなどとの交流の場も設けられた(南相馬市ホームページより)

異なる実情にどう応える

 「福島イノベーション・コースト構想」が進展する一方、帰還困難区域の残る7市町村は先に避難指示が解除された自治体と、復興の足取りに違いがある。東日本大震災の「復興・創生期間」は2021年から新たなステージに入ったが、その初年度にあたる2021年度の予算編成にあたり、福島県の内堀雅雄知事は復興政策への思いをこう述べた。「避難地域をどのように復興、再生していくかに尽きる」。
 「自治体によって復興の進捗度合いは大きく異なり、特に双葉町、大熊町においては入り口に立つか立たないかの状況」(内堀知事)との認識を示した上で「こうした自治体を後押ししていくことが重要であり、またある程度、住民が戻った自治体もまだ震災前の状況にはほど遠く、新しい課題も生じている。これらを念頭に、移住・定住を促進するとともにきめ細かく対応していきたい」。
 福島の未来を左右する原発事故からの収束。次回は福島第一原発で進む廃炉・汚染水対策の現状を取り上げる。