政策特集「はばたく中小企業・小規模事業者」と描く未来 vol.3

消費者の心をつかむオーダーメードの収納家具

新たな市場を切り拓くエストレージ

矢島克記社長。「収納ラボ」銀座ショールームにて

 住まいに寄せる思いは人それぞれ。ライフステージの変化や価値観を映し出し、単に美しい家具をしつらえるだけでなく、「心」をちりばめることで居心地のよい空間は実現できる。だが、こと収納に対しては慢性的な不満を抱えるケースが少なくない。そんな消費者の潜在的なニーズを捉え、フルオーダーの壁面収納に特化したビジネスで市場を切り拓くのがエストレージ。「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定された同社は、文字通り飛躍を遂げつつある。

潜在ニーズと地場産業をつなぐ

 東京・銀座にあるショールーム。「収納ラボ」のブランド名でビジネス展開する同社が2020年8月にオープンした拠点で、名古屋、横浜に次ぐ3番目となる。新型コロナウイルス感染防止対策として、完全予約制での運営を余儀なくされるが、予約客の足は絶えない。
 オーダー家具の利点は収納したいものや間取りなどに合わせて設計できること。機能性だけでなく、愛着のある一品をめでたり、趣味の世界の演出にも一役買う。こうしたフルオーダーの収納家具に特化したメーカーは珍しく、既存の家具やその場しのぎの収納グッズに飽き足らない消費者の心を捉え、販売実績は4000件に上る。

オーダーメードの収納家具で実現した顧客の「夢のリビング」

 「ようやく手に入れたマイホームなのに収納が気に入らない」「この空間にぴったりの棚がほしい」。起業の原点は社長の矢島克記(かつのり)さんが当時、従事していた注文住宅の販売現場で耳にした声。実家は岐阜県関市で家具製造に携わることから家業を通じて地場の木工産業の将来を憂える気持ちもあったという。
 「多くの人が作り付けや市販の収納家具に飽き足らない一方で、優れた技術がありながらも安価な量産品に押され先細っていく木工家具業界がある。双方をつなぐことができれば大きなマーケットが生まれると確信しました」(矢島さん)
 こうして生まれたのが高品質のオーダー家具を短納期で量産するビジネスモデル。わずかの自己資金を元手にたった一人でエストレージを設立したのは27才の時、2007年である。

効率生産支える独自システム

 現在の同社を支えるのが、独自の設計システムに基づく生産体制。営業担当者のプランニングを基に、3Dのイメージデータを作成し、これを加工データとして製造部門と共有する。ゼネコンなどで活用が広がる「BMI(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のような発想」(矢島さん)と称するこのシステムによって設計、製造、設置に至る工程で効率化が実現。家具職人による作り付けの家具のような自由度と生産効率を両立できるため、職人の技が求められる部分にその力量を発揮することができる。製販一体の独立メーカーだからこそ実現できると自負する。
 耐震性の確保にはとりわけ心を砕く。すべての注文に対し、設置前には躯体調査を実施し、現場監督と顧客立ち会いの下、設置工事を行う。

「顧客の命を守る」(矢島さん)の自覚の下、とりわけ耐震には最新の注意を払い設置する

 設立から13年。今でこそ、収納を競合他社との差別化戦略にしたい住宅メーカーやマンションデベロッパーも同社との協業に意欲を示すなど、存在感を発揮するが、設立当時は手作りのチラシを手に営業活動を展開するなど「心が折れそうになった」ことも。今なお忘れられないのはリビングボードを納入した顧客第一号の表情とこの言葉。「こういう家具がほしかった」。

新たな概念「アーキテリア」

 コロナ禍のステイホームに伴って、あらためて住空間を見つめ直す人が増えたことも追い風となっている。銀座のショールームは当初、5月オープンを目指していた。緊急事態宣言や外出自粛要請を受け、計画凍結も検討したが、この期間中も問い合わせが相次ぎ、営業再開後の既存のショールームへの来店客は過去最高を更新した。「一時的な現象ではない。収納に対する本質的な欲求が掘り起こされた証」と受け止めている。

 目下の課題は、急ピッチで拡大する事業を支える人材育成をはじめとする経営体制の充実と、ライフスタイルに合わせた室内建築の観点から収納を捉える発想を社会に広く浸透させること。「アーキテクチャー(建築)」と「インテリア(内装)」を組み合わせた「アーキテリア」と称し、その普及を目指す一般社団法人を11月に設立。市場の健全な育成の一翼を担いたいと考えている。