政策特集「はばたく中小企業・小規模事業者」と描く未来 vol.2

コロナ禍での授賞式 ライブ中継で300社と「つながる」

施策広報のあり方にも一石

300社を代表して授賞式に臨んだエストレージ矢島克記社長(左から2番目)、アルデックス山口達三社長(右から2番目)、イチカワ市川博士社長(1番右)。中央は梶山弘志経済産業大臣

 今年の年明け早々、中小企業庁経営支援部技術・経営革新課(イノベーション課)の竹尾学課長補佐は頭を抱えていた。革新的な製品・サービス開発や地域経済の活性化などで優れた取り組みを行っている中小企業・小規模事業者を表彰する「はばたく中小企業・小規模事業者300社」。毎年春に表彰式を開催していたが、今年は新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、開催方式の見直しを余儀なくされたからだ。しかし、これが結果として新たな情報発信を通じた中小企業支援や施策広報のあり方を考えるきっかけとなった。

一堂には会せない

 「春は困難だったとしても、時期を遅らせれば何とか開催できるかもしれないと当初は思っていました」。竹尾補佐はこう振り返る。例年開催される表彰式は随行者も含めると500人規模が出席する一大イベント。だが収束どころかむしろ感染拡大する新型コロナウイルスを前に、一堂に会するスタイルでの表彰式を断念。新たな開催方式を模索することとなる。
 「画面表示機能を使って視聴してくれる授賞企業とライブ中継でつながることはできないか」「万が一、システムに不具合があったらどうする」。さまざまな可能性について議論を重ねた末に行き着いた結論は、ユーチューブ配信形式によるライブ中継。この方針が決定したのが開催1か月前のことである。

それぞれの場所から「出席」

 そして迎えた11月12日、代表3社のみ出席する形で経済産業省において授賞式が開催された。梶山弘志経済産業大臣は「今回の授賞式が実現したことをうれしく思っています」とまず述べた上で、「新型コロナウイルスの感染拡大に加え、人口減少などの構造的な課題により厳しい状況にある中、独自の技術やアイデアを磨き困難に立ち向かっている皆さんとお会いできるのは望外の喜びです」と画面に向かって語りかけた。その模様を授賞企業はそれぞれのオフィスや現場で見守った。
 300社に選定されたことをホームページやSNSを通じて積極的に発信する企業も少なくなく、熊本県の物流企業「共同」は「残念ながら授賞式には参加できませんでしたが、オンラインで見守りました」と新着情報に掲載。石川県の建設機械部品メーカー「北菱」は社員が会議室に集まって視聴する様子を画像とともに紹介している。中小企業庁のホームページでは、当日の模様を収録した動画を公開しており、選定企業が自社のホームページにリンクを貼るなど積極的な活用も想定している。
(中小企業庁ホームページ:「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2020)

石川県小松市の本社で授賞式を見守る北菱の社員

 授賞企業に送られる記念品にも趣向を凝らした。例年行われる大臣を囲んでの記念撮影が実施できない代わりに、見開き右側に授賞企業の代表者、左側に梶山大臣、真ん中は当日の授賞式の模様を撮影した写真をレイアウトする形で写真立てを作成した。

授賞企業に送られる写真立てのイメージ

新たな一步を

 独自技術や顧客ニーズにきめ細かく応える製品やサービス、これを実現する機動力ある経営体制。中小企業・小規模事業者は、これらを武器に変化の激しいいまを生き抜いている。その存在をもっと広く社会に発信することはいまも昔も中小企業政策の要であり、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に代表される表彰制度はそのひとつである。一方で、従来方式の授賞式や各社の取り組みをまとめた事例集の発行に続く新機軸を打ち出すことが容易でないのもまた事実。そんな中、直面することとなったコロナ禍での授賞式。前述の竹尾補佐はこう語る。
 「今回の授賞式開催を模索する過程で、記録動画の配信やSNSの活用など、今後の広報展開のヒントが得られました。情報発信に対する社会の変化を踏まえ、私たち自身も新たな一步を踏み出していきたい」。
 なお、2021年の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」については現在、推薦機関による推薦を受け付けている段階で、有識者による審査を経て21年2月にも候補が内定する見通しだ。授賞式の開催方式についてはこれから検討することとなるが、関係者は「来年は何とか春に」との思いを抱きつつ、状況を見守っている。