政策特集「脱炭素」に挑む イノベーション最前線 vol.2

「ビヨンド・ゼロ」実現への道程

経済産業省 飯田祐二首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官「夢の技術で終わらせない」


 エネルギーや環境分野における技術開発は社会に普及するまでに長期間を要し、さらに実用化につながるコスト低減には大きなリスクを負うことになります。日本が強みを発揮する省エネ技術はもとより、これまで全くなかった「非連続なイノベーション」を創出するには、「夢の技術」を「夢のまま」終わらせることなく、実現までの道筋を明確に示すことが必要です。

長期的視点で後押し

 世界のカーボンニュートラル、さらには過去に排出された大気中の二酸化炭素(CO2)削減も目指す「ビヨンド・ゼロ(ゼロを超えて)」と称する新たなコンセプトを提唱する日本は、これを実現する革新的な技術の確立を目指す新戦略を打ち出しています。
 その「革新的環境イノベーション戦略」は、5分野16課題について、基礎研究から実証までの工程やコスト目標、それによる世界のCO2削減量を明記するとともに、プロジェクトの進捗状況を定期的に点検、最新の知見を踏まえ時に計画を修正する仕組みも導入しています。
 ノーベル化学賞を受賞された旭化成の吉野彰名誉フェローはこうおっしゃっています。「研究者として最もつらいのは、技術が実際に世の中に出るまでの期間」。だからこそ、国には長期的な視点に基づく戦略と機動的な施策を通じて、革新的技術の早期実現と社会実装を後押しをする姿勢が求められるのです。

革新的技術で世界に貢献

 もとより、地球温暖化対策は日本だけの問題ではありません。日本が強みを持つエネルギー・環境分野で世界のCO2削減に貢献したい。そんな日本の姿を象徴する取り組みのひとつが、2020年1月に産業技術総合研究所に設立した「ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)」です。前述の吉野氏が研究センター長を務め、国内外の研究者をつなぐプラットフォーム拠点として共同開発が加速することが期待されています。同時に、連携に対する期待はアカデミアの世界だけではありません。東京湾岸に拠点を構える企業を中心に、産業集積や地域のニーズを生かした研究や実証事業を進めるイノベーションエリアの創出を進めているのですが、予想以上の関心を集めています。

2020年1月にオープンした「ゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)」

関心寄せるきっかけに

 個人的には「カーボン・リサイクル」の可能性に注目しています。CO2を炭素資源と捉え、化合物や燃料、コンクリートなどの鉱物に利用する技術の総称ですが、これまで「厄介者」と扱われていたCO2が価値を生むなんて、まさに「逆転の発想」だと思いませんか。

 環境問題はとかく、「我慢」や「規制」が色濃い印象があるかもしれませんが、最先端の研究開発には、これまでの常識や社会のありようを一変させる可能性を秘めたものが少なくありません。経済産業省としては、こうしたプロジェクトについて、最新研究やその進展、どんな人が携わっているのかなど、具体的にイメージできる形で国内外に発信していきたいと考えています。これらをきっかけに多くの人がエネルギーや環境政策に関心を持ってもらう一歩になればいいですね(談)。