政策特集「脱炭素」に挑む イノベーション最前線 vol.1

革新的技術で「ビヨンド・ゼロ」実現へ 動き出す新戦略

日本が挑む「野心的な目標」


 異常気象の増加やその結果として世界的に猛威を振るう自然災害。気候変動への対応は待ったなしの課題である。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が目指す温室効果ガス削減目標の達成には、これまでの取り組みの域を超えた革新的な技術開発と、これを後押しする政策が不可欠だ。METIジャーナル10月号では、技術開発の最前線やイノベーションに挑む人々の姿を通じ、環境と成長の好循環を実現する未来社会について考える。

有望技術 開発を加速

 10月1日。梶山弘志経済産業大臣の姿が日本製鉄の東日本製鉄所君津地区(千葉県君津市)にあった。温暖化対策には鉄鋼業から排出される二酸化炭素(CO2)の大幅削減が不可欠だが、ここでは高炉で発生するCO2を回収したり、石炭由来の原料に代わり水素を活用の進めるプロジェクトが進展している。「技術はほぼ確立されている」。梶山大臣は視察後、期待感を示した。
 できるだけ早期に世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、排出量と吸収量のバランスをとることを目指す「パリ協定」をめぐっては、政府はその実現に向けた長期戦略をすでに打ち出しているが、実はこれを具現化する新戦略が2020年1月に決定している。その「革新的環境イノベーション戦略」は、日本が強みを持つ技術について官民あげて研究開発を加速することで、世界のCO2削減に率先して取り組む姿勢を示したもの。CO2を排出しない「ゼロカーボン・スチール」につながる前述の日本製鉄でのプロジェクトも有望視される技術のひとつである。

日本製鉄の東日本製鉄所君津地区を視察する梶山大臣(10月1日)

既存の取り組みの延長ではなく

 二度にわたるオイルショックを経験し、世界最高水準のエネルギー効率を実現してきた日本。新戦略策定の背景には、省エネ先進国としての看板がもはや色あせてしまった現実があるのだろうかー。
 答えは否である。むしろ、あえて高いハードルを設定することで、これまで培ってきた技術優位性をさらなるイノベーションにつなげたいという野心的な姿勢を象徴する。根底にあるのは、世界のカーボンニュートラルはもとより、さらには過去に排出された大気中のCO2削減も目指す「ビヨンド・ゼロ(ゼロを超えて)」と称する日本独自のコンセプト。経済産業省の飯田祐二首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官はその意義をこう解説する。
 「パリ協定の目標は既存の取り組みの延長にとどまらず、全く新しいものを生み出す『非連続なイノベーション』なくして実現できません。そしてその先にはCO2排出をゼロどころか、究極的にはマイナスにできる可能性があります。『革新的環境イノベーション戦略』はこうした技術開発を2050年までに確立することを目指しています」。
 CO2排出をゼロ以下へ。日本が「ビヨンド・ゼロ」と称する発想は、「カーボンネガティブ」や「ネガティブエミッション」技術の活用として、世界的な企業の関心事になりつつある。「革新的環境イノベーション戦略」で掲げている大気中から直接CO2を分離・回収する技術や、農地・土壌におけるメタンガスの発生抑制はその切り札として期待される。

長期的視点で

 かつて「サンシャイン計画」を推進してきた日本。オイルショックを契機に、石油代替エネルギーの開発を目指した国家プロジェクトだが、「30年以上にわたる長期にわたり技術開発に取り組んだ結果、一例として太陽電池のコストが大幅に下がり太陽光発電の普及につながりました。すなわちイノベーションは、長期的な視点で地道に取り組まなければなりません」(飯田氏)。それから半世紀あまりの時を経て、再び打ち出された新たな戦略。それは2050年の社会につながる。

 ※ 次回は飯田氏が語る「ビヨンド・ゼロ実現への道程」を掲載します。